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夏月太陽

80.速人達が受けたクエスト


「もう、無理……」
「あぁ、龍さんの汗の臭い……いつまででも嗅いでいられます……!」

 僕が疲れてヘトヘトになって座り込んだところへやって来た桃香が、隣に座ってくっつきながら僕の臭いを嗅いでそんなことを言った。

「いや、汗の臭いなんだから臭(くさ)いでしょ」
「そんなことありません。龍さんの臭いは、私にとって芳香剤なんですから」
「あっ、そう……」

 なにも言えなくなった僕は、桃香から離れて速攻で着替えた。

 僕の臭いが芳香剤だなんて初めて言われたんだけど……。

 というか、言われたことがある人なんて、この世で僕だけなんじゃないの?

 その後、僕と桃香は直接家に、龍二くんは叔母さんが迎えにきて帰ることになった。

 別れ際、龍二くんが明日なら一緒にゲームしても良いかと叔母さんに訊ね、叔母さんは即答でダメだと言った。

 僕に勝てるまではゲームはダメだと告げられ、龍二くんはこの世の終わり間近のような絶望した顔をした。

 そこで泣かない辺り、龍二くんは偉いと思う。

 いや、絶望すぎて泣くのを忘れてるのかもしれないけど。

 そして叔母さんは、そんな龍二くんを連れて帰っていった。

「じ、じゃあ、僕達も帰ろうか……」
「はい!」


 ◆◇◆◇◆


 家に帰ると、速人達が意気消沈した様子で夕飯の並ぶ机の周りに座っていた。

「3人ともどうしたの?」
「クエストが、鬼畜でした……」
「……クリアできないだろ、あんなの」
「あんなの、もうこりごりよ……」

 完全に目から生気が抜けている3人は、その状態を見ただけで、大変だったんだろうなと思えるほどだった。

 輝美に至っては少し泣いてるし。

 それを見た桃香が輝美に寄り添って慰める。

「どんなクエストだったの?」
「料理系のクエストです。料理が上手になりたい人向けの……」

 へぇ、そんなのあったんだ。

「ただ、教える方の料理人のプログラム、料理の素人が書いたので説明が雑で雑で……」
「説明の仕方が……“包丁の持ち方はこう。こう持ってこう切る。左手はこうしてこう押さえる”なんだぞ? わかりにくくてしょうがない」
「しかも、少しでもダメだと“ダメだダメだ! 君は才能がないな! そんなこともできないなんて、本当クズだな!”なんて言うのよ!? うぅ、ぐすっ、うぅぅぅ」

 泣き始める輝美を桃香が背中を擦って慰める。

 その料理人のプログラム書いた人、料理人をなんだと思ってるんだろうか。

 どこの世界観の料理人なんだ。

 お嬢様な輝美にそういうキツい言葉は一層突き刺さるだろうに。

 いや、気の弱い人なら突き刺さるに決まってる。

 完全に自分の主観で書き上げたプログラムだということは明確だ。

 そう思っていると、速人が何かを閃いた。

「そうだ!」

 ただし、僕を見ながらというなんとも嫌な予感しかしない閃きだった。

「龍さん、あの料理人をギャフンと言わせて僕達をスッキリさせてください!」
「やっぱり僕頼り!? まぁ、いいけども……」

 というわけで、明日は僕がそのクエストを受けることとなった。


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