VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい

夏月太陽

73.合同でクエスト 6


 そんな感想を抱いたこの大きな蟻のモンスターは『スチールジャイアント』という名前で、ハヤト曰く“体がスチール(鋼)のように硬く、防御力が高いモンスター”だそうだ。

「ところで、『スチールジャイアント』って名前から蟻ってわからないけど、設定ミス?」
「いえ、ちゃんと入ってますよ。スチールジャイ……ね?」
「あぁ、なるほど、端折ったってことね……」

 思ってたよりもくだらないネーミングだった……。もうちょっとなんとかならなかったのかな。

 って、そんなことを考えてる場合じゃなかった。

 そう思って『スチールジャイアント』の方を見ると、すでにリュウジくんが戦っていた。

 しかし、プルルンの氷のつぶてでもドラにステータスを底上げしてもらったリュウジくんの攻撃でも、『スチールジャイアント』はノーダメージだった。

「リュウにいちゃん、このアリさんすっごくかたいよ! きずがつかないもん!」

 そう言う割に、リュウジくんの目は光り輝いていて、凄く嬉しそうな顔をしていた。

 なんか、一段と戦闘狂染みてきたな、リュウジくん……。将来が心配になってきた。

 そう思っていると、リュウジくんが『スチールジャイアント』を相手にしながらこう叫んだ。

「リュウにいちゃん、てつだって!」

 やっと頼ってもらえた! と、内心で大歓喜しつつブランをモモに預け、リュウジくんが戦っている『スチールジャイアント』のところへ急いだ。

 『スチールジャイアント』の傍に着くところで刀を抜き、どのくらいダメージが入るのかを知るために試しに斬りつけてみた。

 結果は、少し傷が付いてダメージは入るけど、このまま続けても日が暮れるだけ、といったところだった。

 リュウジくんの攻撃は掠(かす)り傷にもならないし、僕の攻撃はダメージは入るけど雀の涙ほどだし、どうしよう?

 シアンにやってもらうのも手だけど、一撃で終わるだろうから、リュウジくん的にはつまらないだろうし……。

 そんなことを、『スチールジャイアント』の噛みつく攻撃をかわしたりしながら考えていると、シアンがペシペシと僕の顔を叩いてきた。

「どうかした?」
「キュキュ!」
「えっ、焦れったいから自分が倒したい? いや、それはリュウジくんに聞いてみないと……」

 するとそこへ、聞こえていたのかリュウジくんがこう叫んだ。

「えっ、シアンたたかってくれるの!? シアンがたたかってるとこみてみたい!」

 リュウジくんの言葉を聞いたシアンが、待ってましたとばかりに僕の肩に乗ったままブレスを吐いた。

 ブレスは『スチールジャイアント』の全身を包み、後に残ったのは消滅エフェクトのみだった。

 その光景を見たマクロが、呆れ気味の口調でこう呟いた。

「うわぁ、一撃かよ……」
「シアンだっけ? ヤバすぎだろ……」
「『スチールジャイアント』の防御力がただの案山子(かかし)状態だったもんな」
「さすがリュウ君のテイムしたモンスターだね」

 マクロの一言にカナデ,クリア,マサトも続いてそう言った。

 ともあれ、これで6体目を倒すことができた。あと4体倒せば、クエスト完了となる。

 一応、今まで倒したモンスターを確認しておこう。

 今まで倒したのは、順に『ジャイアントパンダ』,『ラッシュドボア』,『コバルトスパイダー』,『サラマンダー』,『スノーイーグル』、そして、今さっき倒した『スチールジャイアント』。

 考えてみると、6分の4は知らないモンスターと戦ってた。

 まぁ、そんなに【英雄の台地】に来てないから、知らないモンスターばかりなのは必然だけど。

 それから、また次のモンスターを探して、【英雄の台地】内を徘徊した。

 しかし、今まであっさりと見つけていたせいなのか、中々見つからなくなった。

 同じモンスターでも良いんじゃないのと提案するも、リュウジくんが知らないモンスターと戦いたいと却下したので、偶にすれ違う知っているモンスターは無視して知らないモンスターを探した。

 知っているモンスターとすれ違うこと10回。ようやく知らないモンスターを発見することができた。

 そのモンスターは、『バーサーカーコング』というゴリラのモンスターで、見た目は黒色で目が赤色をしている。

 “パワーこそ正義”が適用されているため、攻撃力がとてつもなく高い。

 そして攻撃方法は、腕の遠心力を使ったパンチや手を組んで振り下ろすなどがある。

 また、一定の間隔でドラミングをしてこちらの動きを止めてくる厄介なモンスターでもある。

 そんなモンスターとこれから戦う訳なんだけど、『バーサーカーコング』が予想以上にバーサーカーで、僕達に気づくなりドラミングをかましてきた。

 それにより動けなくなる僕達。

 『バーサーカーコング』は、そんな僕達に遠心力を使ったパンチをしようとパンチの構えをとる。

 ブランに回復してもらおうと思ったけど、ブランも動けなくなっていて回復できなかった。

 その間にも『バーサーカーコング』のパンチが迫ってくる。

 そして、もう少しで全員吹っ飛ばされると思ったところで、パンチが止められた。

 『バーサーカーコング』のパンチを止めたのは、シアンだった。

 なんと、あの小さな身体で、体格差が何十倍とある『バーサーカーコング』の遠心力を伴ったパンチを、遠心力を伴った尻尾攻撃で止めたのだった。

 ヤバッ。今のシアン、物凄くカッコよかった。


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