異界の英雄王~最強の英雄を創るスキルで異世界無双~

猫丸88

第4話 盗賊










 泣きながらこちらへ向かってきたのは犬の獣人の少女だった。
 ジャンヌほどの美少女ってわけではないけど、十分に可愛いと言える顔立ち。
 歳は少し下くらいだろうか。
 赤茶の髪色の少女は、息を荒くし、必死になってこちらに駆け寄ってくる。

「おっ、お願いしますっ! 追われてるんですっ! 助けてくださいっ!」

 厄介ごとの気配しかしなかった。
 しかし、こんな露骨に助けを求められたのだから無視するわけにもいかない。

「リク様、20mほどの距離に2人いますが、如何致しましょう?」

 二人……おそらく彼女を追ってきている人物だろう。
 何故追われてるのか、そもそも彼女は誰なのか。
 疑問はあるけどまずは目の前に迫った脅威をどうにかしないとな。

「その二人なんとかできる?」

「この距離から気付かれるような者達なら問題ありません」

 ジャンヌは断言する。
 その声に不安の色は見られず本当に問題などないとでも言う様に自然体だった。
 けど俺の方に不安はある。
 本当に彼女に任せていいのだろうか?
 日本にいた頃の常識が女の子を危険に晒すことに抵抗を見せる。
 だけど……

「なら頼める? 危なくなったら最悪俺たちのことは気にせず逃げても良い」
 
 問題ないと言ったジャンヌを信じることにした。
 ここで無駄に時間を消費する方が愚策だと俺は判断する。
 するとジャンヌは頼もしく頷いた。

「お任せください。リク様」

 口の端を嬉しそうに持ち上げ、ジャンヌが走り出す。
 って、速っ。
 もうほとんど見えない。
 しばらく二人で呆けた後、思い出したように口を開く。

「あ、っと、俺の名前はリク。君は?」

 すると獣人の少女はハッとしたようにこちらを見た。

「わ、私はロコと言います! 村が盗賊に襲われて……」

 盗賊……異世界ではありがちな存在だ。
 さっそく遭遇することになるとは思わなかったけど。
 よく見ると彼女のものではない血で服が汚れていた。
 自分の中の何かが崩れていくのを感じる。
 忌避感で吐き気がした。
 そして、事情を聞いてるうちにジャンヌが戻ってくる。

「リク様、遅くなり申し訳ありません」

 むしろ早い方だと思うんだが。
 ジャンヌを労い彼女が引きずってきた二人を見る。
 おそらく縄がなかったから植物の蔦で代用したのだろう。
 蔦で縛られた二人は泥で汚れた格好にバンダナをつけていたが、その姿には不釣り合いな宝石の指輪が指にはめられていた。
 盗んだものか?

「こいつら武器は持ってないのか?」

「抵抗の可能性を潰すために破壊してその場に捨ててきました」

 徹底していた。
 ジャンヌさん頼もしすぎる。

「ジャンヌ、こいつらから情報を聞き出してくれ。できれば仲間と戦力の規模が知りたい」

「畏まりました」

 するとジャンヌは盗賊の男二人に向き直りその腹を交互に蹴り上げた。

「ぅぐぉっ!?」

 げほげほとむせるようにせき込む二人にジャンヌは剣を突きつける。
 手足を縛られているので抵抗は無駄だと理解したのだろう。
 怯え混じりの目でジャンヌを見ている。
 俺も内心驚いていた。
 自分に見せる優しい表情の彼女とはまるで別人だったからだ。

「仲間は何人だ?」

「ま、待てっ! 俺を殺したらお前らどうな」

 男の耳が飛んだ。
 超速の斬撃。
 当然男は反応できず一瞬呆ける。

「え、ぁ、ぎっぎゃああああああっ!!!!? み、耳がっ、俺、耳っ」

 男だけではない。
 ロコも俺の隣で小さく悲鳴を漏らした。
 怖い。
 だけどそれに対して俺は平静を繕う。
 ジャンヌがやっている行動は俺に頼まれたものだ。
 ならジャンヌに対してどうこう思うのは間違っている。
 それは彼女に対して失礼だ。

「煩い、黙れ、もう片方も斬り飛ばされたいか?」

 男の眼前、それも1センチもないほどの距離に剣を突き出す。
 
「わ、分かった……分かったから、もう」

「人数は?」

 異常に硬質な声。
 俺と会話をしていたジャンヌとは思えないほどの冷徹な目。

「む、村を襲ったのは、10人くらいだ……」

 剣に怯えながら男は答えた。
 10人か……少ない気がするけど、武装してたらそれなりの脅威になるのだろうか?
 と、思っていると。

「――――いっ、え? あ、があ゛あ゛あああぁぁっッ!!!!」

 男の残った右耳が飛んだ。
 体を縛る蔦を引き千切らんばかりの勢いで暴れる。
 その顔は痛みに歪み、涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃだ。

「わ、悪かった……! 20っ、20人だ!」

 どうやら嘘をついていたらしい。
 
「村を襲ったのはと言ったな? ほかに仲間はいるのか?」

「い、いるっ! 何かあった時のために村の外に10人隠れてるっ、全員で30人だっ! 嘘じゃねえ! し、信じてくれっ」

 ジャンヌは淡々と質問を繰り返す。
 男からの不要な情報は聞き流し必要なことにだけ答えさせる。
 ジャンヌには男の嘘が分かっているかのように……いや、実際分かるのかもしれない。
 そういう風にジャンヌを創ったのは俺だ。
 そして、最後の質問を終えると盗賊たちは今度は俺に向かって言ってきた。

「も、もういいだろっ!? もうやめてくれよっ、全部答えたっ、もう何もねえよっ!」

「頼むよっ、もうしねえ、盗賊なんてもうやめるっ、だから」

 子供が駄々を捏ねているようだった。
 怯えた二人の男は必死に命乞いをしている。

「彼らはどう致しましょう?」

 ジャンヌに答える前にロコに尋ねる。
 盗賊は殺してもいいのかと。
 ロコが怯えた様に頷いたのを確認してから俺は盗賊の二人に聞く。

「盗賊やめるってほんとか? これからは真っ当に生きて行くんだな? もう……誰も殺さないんだな?」

 俺の言葉を聞いてチャンスと思ったのか二人は勢いよく頷く。
 やめると、もうしないと言っている。

「ジャンヌ、どうだ?」

「偽っています」

 男たちの顔が歪む。 
 それは恐怖からか、嘘を見抜かれた動揺からか。

「……ジャンヌ」

 咄嗟に彼女を呼び……思い直す。
 違う……馬鹿か俺は。
 自分の意思で命を奪うなら、他の人間に任せてどうする。 

「剣を貸してくれ……」

 何か言ってくる盗賊の言葉に耳は貸さない。
 ここで殺さないとこいつらはまた繰り返す。
 
「ま、待て! ほんとだ! もうやらない! もう殺さないし盗みもしない!」
 
「……ッ!」

 自分の決意が揺らぐのを感じる。
 俺は縋る様にジャンヌを見た。

「……偽っています」 
 
 そこから先のことはよく覚えていない。
 ただ気が付いたら男たちの首が転がっていた。
 その場で胃の中身をぶちまけた。







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