異界の英雄王~最強の英雄を創るスキルで異世界無双~
第3話 遭遇
まるで名画の中の人物が飛び出してきたかのような……そこだけが別の空間ような存在感。
神話とかに出てくる女神様みたいな人だった。
彼女は何も言わない。
身動ぎすらせず、ただ俺の前で頭を下げている。
そこでようやく彼女は俺の言葉を待っているのだと気付いた。
「あ、あぁ……よろしく、ジャンヌさん」
するとジャンヌさんは顔を上げた。
綺麗だった……現実味がないほどの美貌。
彼女を見ているだけで鼓動が高まるのを感じた。
「はい、よろしくお願いします。ですがリク様、ジャンヌさんなどと……私はリク様に全てを捧げた存在。よろしければ私のことはジャンヌとお呼びください」
「……分かったよ。ジャンヌ」
するとジャンヌさん―――ジャンヌはその美貌を綻ばせた。
「ありがとうございます」
思わず見惚れてしまう。
けどどこか……喋り方が堅い。
だけど緊張しているというわけでもなさそうだ。
もっと気安い感じの子を想像してたけど、こういう性格なのか……早く慣れよう。
「それで、ジャンヌ。何個か聞きたいことがあるんだけど」
「なんなりと」
まず情報の共有をしないとな。
「ジャンヌはこの『英雄創造』のスキルで創られた存在で間違いないか?」
「はい、間違いありません」
「生まれる前の記憶とかはあるか?」
「ありません」
やはりジャンヌは俺のスキルから生まれた存在で間違いないらしい。
しかしそうなると疑問が残る。
「ジャンヌの知識はどこから生まれたんだ?」
「……分かりません」
ふむ……まあこの辺りの検証はもっと時間があるときにやるとしよう。
それなら次だ。
ジャンヌの記憶が0から創られたものなら、この世界の知識もあるのかもしれない。
「この世界のことは何か知ってるか?」
「……申し訳ありません。それも分かりません」
まあ、これは駄目元だったしな。
特に落胆はない。
それならここからどう行動するべきだろうか。
「ここからどうしたらいいと思う? 俺としては人を探してこの世界の情報を教えてもらいたいと思ったんだけど」
人がいるなら色々聞ける。
運が良ければ寝泊まりするところも紹介してもらえるかもしれない。
「それならば水も探すというのはどうでしょうか?」
「水?」
「川などがあるならそこから人の集落を見つけることができるかもしれません。それに我々の水分も確保できます」
なるほど。
え、でもこの世界の川の水って飲めるのだろうか。
お腹壊さないよね……と、思ったけど別に飲み水に使うとは彼女は言っていないことに気付く。
そうだな。水があるなら色々助かることは多い。
「分かった、そうしよう」
◇
ジャンヌは俺の前を歩いている。
装飾のついた短剣で枝を切り落とし、足元の障害物を退かしている。
彼女は俺が歩きやすいように道を作ってくれていた。
一言も喋らないけどこっちを気遣ってくれているような仕草をするときもある。
もしかして周囲の警戒とかもしてくれているのだろうか。
「ジャンヌ、交代しよう」
さすがに同い年の女の子にずっと負担をかけるのは気が引けた。
「いえ、このような雑事をリク様にしていただくわけにはいきません」
「だけど、ジャンヌばかりに負担をかけるわけにもいかないだろう?」
「その御心遣いだけで十分です。リク様のそのお言葉だけで全てが報われます」
うーむ……意外と頑なだな。
このまま喋ってても平行線になりそうだし、納得しておくか。
「分かった。だけど少しでも疲れたら言ってくれ」
「畏まりました」
しかし、ジャンヌは意外と体力があるんだな。
結構歩いてるけど息一つ切れていない。
「……?」
そういえばと違和感を感じる。
俺も疲れてない。
身体はまるで鉄の重りを外した後のようにスムーズに動く。
なんとなく呼吸も楽な気がする。
もしかして異世界補正的なあれだろうか。
その辺の説明はされてなかったけど……
「リク様」
考え事をしているとジャンヌが俺を呼ぶ。
俺は何かあったのかと警戒を少しだけ高めた。
「水の音が聞こえます」
おお、ようやくか。
俺は耳を澄まして、周囲の音に集中した。
……何も聞こえなかった。
だけどジャンヌが嘘をついているとも思えない。
どれだけ耳がいいんだ。
一人感心しながらジャンヌについていく。
しばらくすると俺にも聞こえ始めた。
水の音……そして、視界が開けた場所に出る。
そこには綺麗な水の流れる川があった。
見た感じ飲めそうなほどの透明度だ。
油断は出来ないから飲まないけども。
軽く汗を拭こうと川に近付……こうとしたところでまたもやジャンヌが俺の名前を呼んだ。
振り向いて彼女を見ると今度は少しだけ警戒しているようだった。
「生き物の気配です」
「生き物? 野生動物か何かか?」
「いえ、これは人の気配ですね。こちらに向かってきています」
ジャンヌがそう言うと確かに何か声らしきものが聞こえる。
それは段々近付いてきている。
「ジャンヌ、一旦―――」
隠れよう―――と、言おうとしたけど遅かった。
草陰から何かが飛び出してくる。
人……だけどその頭には獣の耳があった。
獣人ってやつだろうか。初めて見た。
俺とジャンヌを認識した獣人の少女は疲労を滲ませた瞳を僅かに見開いた。
そして開口一番に叫んだ。
「た、助けてくださいっ!」
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