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トリニティ:『ヘタレデストロイヤーと後退少女』

お題:破壊神 盟主 逃走
ジャンル:ファンタジー




 荒れた高山地帯の火口の淵を、真っ黒い棘だらけの巨体が翼を揺らしながら歩いている。その数歩後ろから黒いローブを羽織った女子高生が付いて行く。


「ねー何で逃げるのさー!!」

 少女は逃げるその巨体に親近感を沸かせる。黒い巨体はさも面倒くさそうに後ろを目だけで見て、話しかけた女子高生に振り返りまではしなかった。


「うるさい奴だ。だったらついて来なければ良いだろう。」

「いちおー召喚主なんですけど?」

 黒い巨体は今度、溜息をつく。その溜息は炎と悪意に包まれた、紫色のオーラを放っていた。


「…ぬしなど知らん。ゲートがあって、そこを通った。ただそれだけだ。」

「…で、何で伝説の破壊神が必死こいて逃走する為、初心者用召喚ゲートに潜る必要があったわけ?」

「………。」

 今度は目も合わせてくれなかった。

「まただんまりか。あんた本当に破壊神デストロイヤーなの?」

「オイ!いい加減に…」

「そんなに星間統一教会の盟主が怖い?」

「グッ……」

 完全にこちらに振り返りはしたものの、今度は苦虫を噛み潰す様な表情をしていた。最も、それが普通の表情だと言われたらそれまでだが。

「貴様の様な存在に、宇宙の真理を司る我の気持ちなんか…」

「わかるよ。だって召喚主だもん。悔しいんでしょ?」

 黒い巨体はハッとする。その少女の目に、自分と同じ暗い感情が見えた。

「私はこの世界をぶっ壊したい。だからこの世の中で最もクソったれな破壊神デストロイヤーを召喚しようとしたのよ。そして出てきたのは貴方。真っ黒い焦げだらけのダイヤモンドドラゴン。真の破壊者。」

「きさま…何故それを!」

「そして私は召喚に成功した!!…でも、まさかその破壊神よりも先に宇宙を全て吹き飛ばそうとする奴がいるなんてお笑いよね。しかもその盟主が貴方の命を狙ってるなんて。」

「死にたくなければそのまま下がれ、人間。」

 少女は不敵な笑みを浮かべる。

「いやよ。だって私は、死に場所を選ぶ為にここに来たんだから。その為に貴方を選んだんだから。でも、その前にあの盟主の顔面に1発素手で入れたくない?」

 今度は黒い巨体、破壊神が笑う。

「狂ってやがるな、でも面白い。話半分乗ってやろう。」

「じゃあ私も半分乗ってあげるわ。それで…」



 無事に納得の行く契約になったところで2人は振り返り空を見上げる。遠くの山々から伸びている雲と思われていたのは星間統一教会の天使達だった。



「皆のもの、暗黒なる破壊の神は目の前だ。全てを浄化しこの世を救うには後一歩の所ぞ!救世を求める者はこの光の盟主に付き従うのだ!!!」


 天使の総攻撃が始まる。




「どっちが先に攻撃する?ヘタレデストロイヤーさん?」

「ここにはレディファーストなんてものは無いからな?自分で世の理から逃げた小娘よ。」





「「先に盟主をやるのは『私」「俺』だぁぁ!!!」」




『ヘタレデストロイヤーと後退少女』  END




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