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異世界で英雄の鍛冶師やってます。

ノベルバユーザー273307

1、鍛冶師と竜と狼

 ガンッ、ガンッ、ガンッ。
 赤くなった鋼を槌で叩き鍛えてゆく。赤いルビーのような槌を振るい、自らの思い描いている剣の形へと鋼を加工する。
 この鍛冶場の主である少年はたいした筋肉もついていなく、彼の体格からしてこの場にいるのはひどくちぐはぐな感じだ。彼が来ている非対称のどう見ても女性用の衣服と長期間髪を切っていないこともあり線が細く中性的な少年というより少女と言った方がしっくりくる容姿をしていた。
 彼のジョブは鍛冶師スミス。見た目以上の高ステータスと、知人から貰い受けたステータスUP系の衣服で足りない分を底上げし、槌を振るっていた。彼の衣服はそこらのフルプレートメイルよりも防御力が高く、この衣服がなければルビーのような色をした槌、《ヘファイストスの一番弟子》を振るうことができない上にその知人が少年の女装姿で羞恥する様に興奮を覚え新しい扉を開いたため日々悩まされている。
 それでも、鉄と向かう少年の顔には真剣そのものの表情が浮かんでいた。少年は一度火床と向き合うと納得のいく作品ができるまで睡眠と食事どころか休息すらもとらない。少年の顔には極度の疲労があったが、腰のポーションポーチにいくつか入っているオレンジ色の疲労回復ポーションを飲み、疲労をものともせず槌を振るい続ける。
 ようやく満足がいく作品が作れたのかそのまま少年は満足げな顔をしてばったりと倒れてしまう。
 奏多かなた 椎名しいなこれはこの世界に彼が来て一年と二ヶ月目のこと。のちに彼は英雄達の鍛冶師となり、その腕を振るい名声を得るのだが、これはまだ誰も知らない。






















 深い眠りに落ちていた意識が浮上する。またか、と僕は思い上半身を起こした。どうにも火床と向き合うと時間の感覚がなくなる。
 するとカチャリ、と小さな音をたて僕が寝ているベッドの反対にある扉が開いた。


 「なんだ、起きたのか。もう少し寝顔を堪能しようと思ったのだが」
 そう言って部屋に入ってきた女性はアデリナ。種族は竜種で、白銀のドラゴンといった風貌をしているが今は人間の姿をしている。彼女は竜の姿の時と同じく白銀の長髪をしていて、それが彼女の着ている黒のドレスにとても似合っている。胸は人並み、というか人並よりだいぶ小さいのだが、それも彼女と整った顔とモデルのような体系と共に清楚な美人。といったイメージを持たせる一因となっていた。


 「あはよう。僕は何時間くらい寝てたんだ?」
 「うむ、二日ほどだ。退屈だったぞ」
 「あはは、ごめんごめん。ご飯にしようか」
 「二日ほどお預けだったからな。期待しているぞ」
 僕はそのまま立ち上がり、キッチンへと向かう。テーブルの方ではアデリナが椅子に座り、子供の用にナイフとフォークを握りしめていた。
 このキッチンと食卓、調理道具から何から何まですべて僕の鍛冶スキルによって作ったものだ。素材と道具がいいため、一流とは言わないがいいものが作れていると我ながら思う。この吸血蛇ヴァンパイアスネークの肉を切っている包丁は魔銀ミスリルで出来ていて、軽いうえに切れ味もよく一度岩の地面に落としたとき岩に突き刺さり抜けなくなってアデリナに抜いてもらったことがある。
 出来上がった吸血蛇の生姜焼きをアデリナに出すとアデリナはガツガツ、と食べていった。僕は四枚目の生姜焼きに手を出し始めたアデリナを眺めながら食事を始める。


 「ん、ところでシーナ。確か爆発する砂を欲しがっていただろ?」
 シーナ、と言うのは僕の事だ。本当は椎名しいな、と言う名前なのだが彼女がどうにも発音しずらいらしくそうよんでいる。これが僕の少々、本当に少しだけ、ちょっぴりだけ女顔であるコンプレックスを刺激しているのだが、命の恩人であり家主である彼女なのでそうそうは逆らえずにいる。


 「え、もしかして今日いけるのか?」
 「うむ。千里眼で確認しいたが、砂嵐がぴたりとやんでいた。行くのであれば今だろう。絶対に火気厳禁だからな」
 それはフリか何かなのだろうか。まあ、絶対に死にたくはないのでうなずいておく。
 爆発する砂、と言うのはアデリナから聞いた話で、どんなに小さな火花だろうと火気がその場にあれば爆発する、と言ったものだ。僕はこれでフルメタルジャケットの銃が作れないか、と思っている。フルメタルジャケット、と言うのは先込め式単発銃のように火薬と弾丸を込めて撃つ。と言ったものではなく、金属で覆われた弾薬のことだ。簡単に言えば、撃った後に薬きょうが出るヤツのことだ。アサルトライフルや自動拳銃のように連発が可能な銃は作れないがボルトアクションの銃や回転式拳銃リボルバーくらいなら作れるのではないかと思っている。スキル《鑑定》で見た結果、《砂爆》と出た。砂漠で砂爆が取れるとは、名前を考えた人はダジャレが好きなのだろう。


 「ん、そっか。じゃあごはん食べたら行こうか」
 「お兄様」
 そういって食卓に近ずいてきたのは妹ウルリーケだ。彼女はアデリナと同じ銀髪をしているが少し青みがかっており、氷のようなイメージがある。実際アドルフォの種族は魔狼マナ・ウルフ。それも氷雪系魔法が得意な最上級種族の氷狂魔狼アイス・ダイアウルフだ。毛並みは彼女の髪と同じで銀に青みがかっていてふさふさだ。今は病弱お嬢様が着ているような白いワンピースを着ていた。
 何故かこの彼女、訳あって命をすくい育てることになったのだが(そのころは小型犬の子供サイズだったが今ではこんなに成長し、僕より背が高くなっている)、いつのまにかお兄様なんて呼ばれるようになった。最近まではお姉さまなんて呼ばれていて、やっと男だと理解したらしい。


 「どした? ウル」
 「お兄様、砂爆が採取できるという事は明日には移動ですか?」
 「うん、そろそろ王都に向かおうと思う。アデリナなら一週間と掛からないはずだよ」
 と、そこで準備を終えたアデリナがせかす。おそらく竜化しているから部屋の外なのであろう。


 「シーナ、準備はできたのか? できれば早くしてくれ。こんな熱い所にいたくないからな。取るものとって早く次へ行こう」
 「同意です。ここは暑すぎます」
 どうやら二人ともここはお気に召さなかったらしい。確かに、ウルリーケの種族、氷狂魔狼アイス・ダイアウルフの生息地はカナダのイヌイットが住むようなところだし、アデリナもこれまで比較的涼しいところに住んでいたのでこの場はあまり合わないかもしてない。
 僕が急いで部屋をでると、やはり竜化していたアデリナが乗れ、と促してくる。僕は素直にそれに応じ、アデリナの背中に乗っかった。どうやらアドルフォはお留守番で出発のための準備をするらしい。バサリ、と羽音をたてアデリナが飛び立つ。
 この移動にも慣れたものだ。初めは尻が痛くなったり、ずり落ちそうになってひやひやした。冗談で「お尻が痛い……、もうお婿に行けないよう……」と言ったことがあるのだが、思いのほか冷静にそうか、では我の婿になればいいと真顔で言われたため面食らった経験がある。実際に婿にされることを約束してしまった。まぁ、婚約というやつだ。この辺はおいおい話そうかと思う。
 ズルズルッ
 そんなことを思い出していたら危うく落ちかけそうになる。


 「うわわわっ!」
 「何をやっているんだ。危ないだろう?」
 そう言われて今度はしっかりアデリナの首にしがみつく。どうやら思い出に浸っている間に力を緩めていたらしい。
 そういえば砂漠だというのに全然熱くない。これも異世界だからなのうか。


 「気になっていたのだがシーナは何故あの爆発する砂を求めるのか?」
 「銃を作れないかと思ってね。これなら自衛手段にもなるしね」
 「じゅう? じゅうとは一体なんだ? 武具の名前か? 聞いたことがないぞ」
 「銃っていうのはね……
 アデリナに銃の説明を一通り説明する。僕の職業は鍛冶師で、はっきり言えば槌にしか武器のボーナスが掛からない。しかし、《ヘファイストスの一番弟子》を装備による補正なしで扱うことのできない僕には戦闘用の大戦槌バトルハンマーなど使えるはずもない。その辺の安物なら補正を入れたら扱えるだろうがそんななまくらでは意味がない。短剣やナイフのスキルなら、アデリナが狩りをして得た得物を裁いているのでどこをどう斬ればいいのかがわかってきたし、僕でも十分に振ることができるのだが如何せん範囲が狭いし接近されたら使える体術のない僕には無意味だ。だから僕は剣と比べて攻撃範囲の広い銃が必要になる。欲をいうなればボルトアクションでもいいから射程の長いライフルが欲しい。


 「ふむ、音に近い速度で飛んでくる見えない矢を何発もマナの消費なしで放てるのか。それもじゅうとやらさえあれば誰でも!?」
 「まあ、当たるか当たらないかは本人次第だよ。それに完成できるかもわからないんだ」
 「うーむ」
 銃の話をしている内にどうやらついたみたいだ。ここに来てから砂嵐が一週間止まなかったのだが今はぴたりとやんでいる。


 「どのくらい持って帰るのだ?」
 「うーん、山三つくらい?」
 そう言って僕はアイテムリングに砂爆を詰め込んでゆく。アイテムリングは、どこぞの未来の猫型あおだぬきが持っている四次元なポケットのようなものだ。操作は簡単でででくるウィンドウで入れたいものの名前と量を決めるだけだ。が、一度に何キロなんてやっていては面倒なので、山三つと指定する。




 すると。
 目の前の砂爆の山が消え去り、ボトボトボトボトッ、と巨大な何かが落ちてくる。よく見るとそれはビックサンドワーム・ボムだった。どうやら群れが住みついていた山を収納していたらしく、指定していないビックサンドーワーム・ボムが五、六十匹はいた。大量の芋虫がうごめくさまはみていて気色が悪い。
 ビックサンドワームとは、通常のワームより一〇倍ほど大きく、うねうねしている乳白色の芋虫だ。名前の尻にボムが付くと、攻撃を受けた際砂爆を主食にしているためか赤く点滅し爆発する。爆発した際、非常に危険な胃酸がそこらじゅうに飛び散り、群れていた場合仲間の胃酸を攻撃自分へのだと勘違いし誘爆していくのだ。これほどグロテスクで厄介な敵はみたことがない。
 とりあえずアデリナの上に避難し、アデリナもこれは嫌なモノを見たという顔をして上空に飛ぶ。すると巨大でグロテスクで危険なワームたちが塔をなしてこちらに近づかんとする。その光景をみて少し吐いてしまったが許してもらえるだろう。アデリナにもらった装備のおかげで胃酸には耐えられるだろうが芋虫の内臓と胃酸が体に降りかかるのは精神衛生的によろしくない。


 「アデリナ! あっちあっち!」
 僕が指さした方にアデリナは一目散に逃げる。ビックサンドワーム・ボムが追いつかんとして飛び上がったり転がったりしてくる。こいつらなかなかに素早いのだ。僕が乗っかっていてアデリナがスピードを出せないのもあるが、それでも空を飛んでいるアデリナに追いつかんとしている。
 塔の一番上にいたビックサンドワーム・ボムがアデリナの真横に飛び上がりワームが悪食である証拠の胃酸を吐こうとする。


 「うわあっ! 《衝撃砲》エア・キャノン!!」
 慌てて風属性中位魔法、《衝撃砲》を放つ。まっすぐサンドワーム・ボムへ向かっていった空気の砲弾は見事命中し、爆発四散した。
 危うくアデリナに飛び散った内臓やら胃酸が降りかかってくるが、それを綺麗に回避した。


 「シーナ!! 砂嵐が来たからそう高くは飛べんぞ!!」
 そう言われて周りを見渡せばそこらじゅうに竜巻のような物がたくさん渦巻いていた。どうやら眼下の芋虫たちに気を取られすぎていたらしい。


 「アデリナ! 下のヤツ全部爆発させよう!」
 「それでは中身が我らにかかってしまうぞ。さしてダメージはないだろうがかぶりたいものではない」
 「アデリナの魔法で掛からないようにできないかな?」
 「風魔法で散らせと言う事か! それなら可能だ! 合図を出せ!」
 「3,2,1。《風弾撃》エア・ショット!!」
 「《風壁》エア・ウォール!」
 パンッ! と風船が割れるような音と共に飛び散った胃液とその他もろもろが四方八方に飛び散り、それがまた次の爆発を呼ぶ。こちらに大量に飛んでくるが、こちらに向かって飛んでくるものは風の壁によってはじかれた。
 砂嵐を次々と躱し巻き上げたサンドワームボムの残骸をはじきながら進む。結局拠点へと戻れたのは一時間後だった。










 何とか帰ってきた汗だくの僕らを見てウルリーケは不思議そうな顔をした。


 「私のかけた耐熱の魔法は三時間は効果が持つはずです。その汗、どうしたのですか?」
 「ビックサンドワーム・ボムの群れに遭遇して逃げてきたんだ。準備はあとどのくらい?」
 「半分ほどです。あとはこの部屋の物と鍛冶場だけかと」
 「そっか、じゃあ鍛冶場だけやって明日アイテムリングでいいね」
 そう言って鍛冶場に向かう。明日は移動だ。アデリナの速度なら目的地である王都まで一週間と掛からないだろう。
 僕はそう考え鍛冶場の整理を始めた。アイテムリングは物を収納することができ、とても便利なのだが一度に複数の物をしまうことができない。おまけに生き物(死体を含む)も収納不可だ。つまり、机を収納するのであれば、その中の文房具やノートはそのまま残るのだ。ゆえにこの作業は必須となる。
 この世界に来たとき一緒にいたクラスメイト達を思い出しつつ、僕は荷造りを続けた。

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