逆転した世界で楽しんでやる!
カレー作り。あと、むさくるしい男風呂。
あれから五分、ようやく立ち上がることができた僕は、野菜を切ってはボウルに入れる作業をに戻る。途中、包丁と食材の持ち方が間違っていた男の子に、猫の手で持つんだよ。ほら、にゃーん。と言ってしぐさをしてみせると周りの女の子ともども、彼も顔を真っ赤にしていた。正直、そっちには求めていない反応をされた。
そんなこんなで食材を切り終わり、かまどで火をつけようとしているあやちゃんたち女の子チームの方へと向かう。
余裕層に表面上は装っているものの、先ほどのことを思い出さないように必死だ。とてもうれしいハプニングではあったが、もうちょっとムードがあるときに起きてほしかった。思い出しただけで顔から火が噴き出そうだ。ぷしゅう。
作業は進み、ふう、と息をついているとふと気づく。どうやら奈菜ちゃんが汗をぬぐうときにすすがついている軍手を装着したまましてしまったようで、頬にすすがついてしまったようだ。五十鈴と目があうと、やれ、と合図を出された。
アーイヤダナー、コンナ純朴ナ思春期突入前ノ少女ニイタズラナンテデキナイヨー。デモ今ノ僕ハ言ウコト聞カナイト、五十鈴チャンニ何サレルカワカンナイカラシカタナイナー。
「奈菜ちゃん、ちょっと」
「どうしたんですか」
「ちょっとね」
身長を合わせるようにしゃがみこみ怪訝そうな顔をした奈菜ちゃんを逃げられないようにしっかりと捕まえる。もちろん、必要以上に顔を近づけてだ。
「すす、ついてるよ。ぬぐったげる」
そう言ってからハンカチでぬぐうと案の定、奈菜ちゃんは真っ赤になる。くすり、と笑って離れると、奈菜ちゃんはしばらくぼーっとしながら僕がハンカチでぬぐったところを触っていた。そのあとすぐ、ゲテモノ枠でゲットしたマーマイトをカレーに居れようとするあやちゃんを班員全員でとめることになった。
出来上がったカレーは、少ししゃびしゃびしていたが小学生が作ったにはおいしかった。みんなでしっかり片付けをしたあと(職員の人がやたらと厳しく、三回ほど往復させられた)小学生たちはレクがあるらしく、別行動になり風呂までは高校生組は自由時間兼、部屋で寝泊りの準備をすることになった。
部屋の準備と言っても、たいして時間はかからない。すぐに準備を終えた僕らは柊さん(少し気まずい)と合流し、琉斗の持参したトランプでババ抜きをしている。
琉斗から配られたカードを見るとなかなかにそろっていて、それは琉斗も同じようでほくほく顔でカードを捨てている。反対に柊さんはカードがそろっていないらしく、何とも言えない顔をしていた。琉斗、僕、柊さんの巡でカードを引っ張っていく。
「そっちはどうだったよー。やっぱそんな簡単にはそろわんか」
「んー、普通かな。お転婆な子がカレーにマーマイトぶち込みそうになったくらい。お、そろったそろった」
「なんでマーマイトなんてゲテモノ持ってたんだ。はい、柊」
「ありがとう。マーマイトって何?」
「イギリスのビール版味噌。クイズの報酬であったんだよ」
「もうちっとましな食材用意しろよ……」
「柊さんはどうだった?」
「へ? あ、えと、元気だよね、みんな。すっごい体力。あ、ババ来ちゃった」
「「なんで言った」」
先ほどから柊さん、ババが自分の手札にくるとわかりやすいくらい動揺する。初回は口に出してしまいそれはもう、あわわわわわと。本当にかわいい。今度ダウトでもやらせてみようかな。動揺し冷や汗をかきながら嘘をつきカードを場に出す柊さん。僕を萌殺す気か。
「やぁ、高校生諸君。おつかれさん」
ニヒルな笑みを浮かべ、現れたのは東条先生。口にはここが全面禁煙のためかたばこの形をした駄菓子が加えられている。
「東条先生、いいんですか? ちびっこたちは」
「ほかの先生が見ていてくれる。それに、高校生と言っても私らからしたら君らもちびっこだ。一応、様子を見てみようと思ってね」
「そうですか」
「まあ、端的にいえばサボリだ」
苦笑いをする琉斗と柊さん。それでいいのか国家公務員。すると、これまでの会話が建前であったかのように本題を切り出す東条先生。
「それで、七峰は大丈夫だったのか? 滑って転んだと聞いたが、けがは?」
思い出すように真っ赤になる柊さんと、顔に出ないように必死になる僕。僕は何とか返事する。
「大丈夫でしたよ、柊さんが抱き留めてくれました。怪我もありません」
「え、そんなことがあったのか命?」
「それは何ともうらや……んんっ、よかったな、けががなくて。柊も女を見せたな。いろいろ七峰の体を触ってしまっていたと思うが、柊を責めないでやってくれよ」
「いえいえ、助けてくれただけですし、そもそもそんなこと思ってもいません」
「ごめんね、七峰君。ありがとう」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
「七峰が無事だという確認もできたし、そうだな、私もお前らに混ぜろ」
そう言いつつ椅子の背もたれを股の間に入れるようにして座り、背もたれの上で組んだ腕に顔を乗せ早くカードを切れーと視線で催促する。
いまだにカレー作りの件を気にして深刻そうな顔をしている様子に柊さんに、僕はそっと顔を近づける。あそこまで気にされると、純粋に助けてもらった僕が青春イベントひゃっほいと喜んでいるのに罪悪感を覚える。
「助けてくれてありがとう。本当に気にしてないから、いつも通り接してくれるとうれしいかな。あとでお礼しなきゃね」
「いいよ、そんなこと。助けたいとおもってしたことだから」
そう耳元でささやくと、すっきりした顔で返事をしてくれる柊さん。ホンマええこや……。この後、東条先生はザマス口調の先生に引っ張られながら連れ去られた後も、入浴の時間になるまで僕たちのカード遊戯はつづいた。
すっ、ぽん、ぽぉん。勢いよく服を脱ぎ棄てさっさと風呂に入る。こういう大浴場は好きだ。なんだかテンションが上がる。昔、はしゃぎまくって父親に拳骨を落とされたのを思い出した。
琉斗が意外に筋肉質なのに驚いた。健康的に日焼けもしている。Tシャツから露出する範囲でだが。細マッチョという訳か。僕の方? 運動もせず外にもでないから、病的なまでに真っ白な肌に、体は簡単に折れてしまいそうなほど細い。琉斗がこちらをみて意味ありげに「肌、白いのいいな……」とつぶやいていた。やべぇよ……、やべぇよ……。
大浴場、学校行事、その中でも心躍るイベントと来れば、それはもう覗きイベントだ。だが、残念ながらこの大浴場は完全に室内だし、厚いコンクリートとタイルの壁でのぞき穴なんてものはない。泣く泣く断念する。
頭を洗っているときに流した涙は、決してシャンプーが目に染みただけが理由ではないと思う。
ふと視線を感じた方を見ると、そこにはこちらを見ている小学生の男の子が。男性職員もいるがそれだけでは面倒も見きれないし、時短といういみもおまけで含めて一緒に大浴場に入ってほしいという説明を先ほど受けていた。横には琉斗も一緒だ。
あまりに凝視されるので耐えきれなくなり、尋ねてみる。
「どうしたの?」
「どうしたらおっきくなれるのかな」
「身長? 煮干しとかを食べてよく寝れば「えっと、そうじゃなくて」
確かに。僕はそうたいして身長は高くないし、身長に関してなら隣にいる僕より背の高い琉斗に聞けばいい。背丈、と言うよりどちらかといえば下腹部に視線が向けられているような……。
困った顔で琉斗に助けを求めると、少し気まずそうな顔で答えてくれる。
「その、お、おちんちんのことだ」
「マイサンのことか」
「ちょ、その表現はやめろ」
やはりか、と納得し自らの愚息をうつむくように見つめる。十六年間、連れ添ってきた息子は健在で、このへんてこな世界に迷い込む前と何ら変わりなく、普通サイズでいつもそこにぶら下がっている。いまだ未使用だ。
「大きいのか、これ? 普通サイズだと思うけど」
「あー、えっとだな、大きいと思うぞ、ソレ。それに、この子ぐらいの時期はそういうのが気になりだす時期だし、命は、あーえと、綺麗な体をしているから、聞きたくなったんだろう。できれば答えてやってほしい」
いいことえを言うが、僕のマイサンをみて顔を赤くする琉斗。キモイからやめろ、凝視スンナ。僕にそっちのケはない。だからその視線を外せ。
深刻そうに僕の顔を見ている男の子。答えてやりたいとは思うが、そんなもの個人差だろうし、どう答えていいかわからない。でも、よくよく考えてみると、これは思春期の女の子が自身の胸をみて、大人の女性にどうやったら大きくなるの? と聞いているようなものか。
「えっとね、僕は特に何もしてないよ? 君も、成長していけば体と一緒に大きくなっていくから、心配しなくてもいいよ。そもそも、コレのサイズなんて人それぞれだから、誰かと比べなくてもいいんだよ」
そういってからほほ笑むと、安心したようにありがとう、と言ってから近くの洗い場で体を洗い始めた。そうだ、個人差があるんだ。大きいおっぱいも小さいおっぱいもみんな違ってみんないいんだ。
そんなこんなで食材を切り終わり、かまどで火をつけようとしているあやちゃんたち女の子チームの方へと向かう。
余裕層に表面上は装っているものの、先ほどのことを思い出さないように必死だ。とてもうれしいハプニングではあったが、もうちょっとムードがあるときに起きてほしかった。思い出しただけで顔から火が噴き出そうだ。ぷしゅう。
作業は進み、ふう、と息をついているとふと気づく。どうやら奈菜ちゃんが汗をぬぐうときにすすがついている軍手を装着したまましてしまったようで、頬にすすがついてしまったようだ。五十鈴と目があうと、やれ、と合図を出された。
アーイヤダナー、コンナ純朴ナ思春期突入前ノ少女ニイタズラナンテデキナイヨー。デモ今ノ僕ハ言ウコト聞カナイト、五十鈴チャンニ何サレルカワカンナイカラシカタナイナー。
「奈菜ちゃん、ちょっと」
「どうしたんですか」
「ちょっとね」
身長を合わせるようにしゃがみこみ怪訝そうな顔をした奈菜ちゃんを逃げられないようにしっかりと捕まえる。もちろん、必要以上に顔を近づけてだ。
「すす、ついてるよ。ぬぐったげる」
そう言ってからハンカチでぬぐうと案の定、奈菜ちゃんは真っ赤になる。くすり、と笑って離れると、奈菜ちゃんはしばらくぼーっとしながら僕がハンカチでぬぐったところを触っていた。そのあとすぐ、ゲテモノ枠でゲットしたマーマイトをカレーに居れようとするあやちゃんを班員全員でとめることになった。
出来上がったカレーは、少ししゃびしゃびしていたが小学生が作ったにはおいしかった。みんなでしっかり片付けをしたあと(職員の人がやたらと厳しく、三回ほど往復させられた)小学生たちはレクがあるらしく、別行動になり風呂までは高校生組は自由時間兼、部屋で寝泊りの準備をすることになった。
部屋の準備と言っても、たいして時間はかからない。すぐに準備を終えた僕らは柊さん(少し気まずい)と合流し、琉斗の持参したトランプでババ抜きをしている。
琉斗から配られたカードを見るとなかなかにそろっていて、それは琉斗も同じようでほくほく顔でカードを捨てている。反対に柊さんはカードがそろっていないらしく、何とも言えない顔をしていた。琉斗、僕、柊さんの巡でカードを引っ張っていく。
「そっちはどうだったよー。やっぱそんな簡単にはそろわんか」
「んー、普通かな。お転婆な子がカレーにマーマイトぶち込みそうになったくらい。お、そろったそろった」
「なんでマーマイトなんてゲテモノ持ってたんだ。はい、柊」
「ありがとう。マーマイトって何?」
「イギリスのビール版味噌。クイズの報酬であったんだよ」
「もうちっとましな食材用意しろよ……」
「柊さんはどうだった?」
「へ? あ、えと、元気だよね、みんな。すっごい体力。あ、ババ来ちゃった」
「「なんで言った」」
先ほどから柊さん、ババが自分の手札にくるとわかりやすいくらい動揺する。初回は口に出してしまいそれはもう、あわわわわわと。本当にかわいい。今度ダウトでもやらせてみようかな。動揺し冷や汗をかきながら嘘をつきカードを場に出す柊さん。僕を萌殺す気か。
「やぁ、高校生諸君。おつかれさん」
ニヒルな笑みを浮かべ、現れたのは東条先生。口にはここが全面禁煙のためかたばこの形をした駄菓子が加えられている。
「東条先生、いいんですか? ちびっこたちは」
「ほかの先生が見ていてくれる。それに、高校生と言っても私らからしたら君らもちびっこだ。一応、様子を見てみようと思ってね」
「そうですか」
「まあ、端的にいえばサボリだ」
苦笑いをする琉斗と柊さん。それでいいのか国家公務員。すると、これまでの会話が建前であったかのように本題を切り出す東条先生。
「それで、七峰は大丈夫だったのか? 滑って転んだと聞いたが、けがは?」
思い出すように真っ赤になる柊さんと、顔に出ないように必死になる僕。僕は何とか返事する。
「大丈夫でしたよ、柊さんが抱き留めてくれました。怪我もありません」
「え、そんなことがあったのか命?」
「それは何ともうらや……んんっ、よかったな、けががなくて。柊も女を見せたな。いろいろ七峰の体を触ってしまっていたと思うが、柊を責めないでやってくれよ」
「いえいえ、助けてくれただけですし、そもそもそんなこと思ってもいません」
「ごめんね、七峰君。ありがとう」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
「七峰が無事だという確認もできたし、そうだな、私もお前らに混ぜろ」
そう言いつつ椅子の背もたれを股の間に入れるようにして座り、背もたれの上で組んだ腕に顔を乗せ早くカードを切れーと視線で催促する。
いまだにカレー作りの件を気にして深刻そうな顔をしている様子に柊さんに、僕はそっと顔を近づける。あそこまで気にされると、純粋に助けてもらった僕が青春イベントひゃっほいと喜んでいるのに罪悪感を覚える。
「助けてくれてありがとう。本当に気にしてないから、いつも通り接してくれるとうれしいかな。あとでお礼しなきゃね」
「いいよ、そんなこと。助けたいとおもってしたことだから」
そう耳元でささやくと、すっきりした顔で返事をしてくれる柊さん。ホンマええこや……。この後、東条先生はザマス口調の先生に引っ張られながら連れ去られた後も、入浴の時間になるまで僕たちのカード遊戯はつづいた。
すっ、ぽん、ぽぉん。勢いよく服を脱ぎ棄てさっさと風呂に入る。こういう大浴場は好きだ。なんだかテンションが上がる。昔、はしゃぎまくって父親に拳骨を落とされたのを思い出した。
琉斗が意外に筋肉質なのに驚いた。健康的に日焼けもしている。Tシャツから露出する範囲でだが。細マッチョという訳か。僕の方? 運動もせず外にもでないから、病的なまでに真っ白な肌に、体は簡単に折れてしまいそうなほど細い。琉斗がこちらをみて意味ありげに「肌、白いのいいな……」とつぶやいていた。やべぇよ……、やべぇよ……。
大浴場、学校行事、その中でも心躍るイベントと来れば、それはもう覗きイベントだ。だが、残念ながらこの大浴場は完全に室内だし、厚いコンクリートとタイルの壁でのぞき穴なんてものはない。泣く泣く断念する。
頭を洗っているときに流した涙は、決してシャンプーが目に染みただけが理由ではないと思う。
ふと視線を感じた方を見ると、そこにはこちらを見ている小学生の男の子が。男性職員もいるがそれだけでは面倒も見きれないし、時短といういみもおまけで含めて一緒に大浴場に入ってほしいという説明を先ほど受けていた。横には琉斗も一緒だ。
あまりに凝視されるので耐えきれなくなり、尋ねてみる。
「どうしたの?」
「どうしたらおっきくなれるのかな」
「身長? 煮干しとかを食べてよく寝れば「えっと、そうじゃなくて」
確かに。僕はそうたいして身長は高くないし、身長に関してなら隣にいる僕より背の高い琉斗に聞けばいい。背丈、と言うよりどちらかといえば下腹部に視線が向けられているような……。
困った顔で琉斗に助けを求めると、少し気まずそうな顔で答えてくれる。
「その、お、おちんちんのことだ」
「マイサンのことか」
「ちょ、その表現はやめろ」
やはりか、と納得し自らの愚息をうつむくように見つめる。十六年間、連れ添ってきた息子は健在で、このへんてこな世界に迷い込む前と何ら変わりなく、普通サイズでいつもそこにぶら下がっている。いまだ未使用だ。
「大きいのか、これ? 普通サイズだと思うけど」
「あー、えっとだな、大きいと思うぞ、ソレ。それに、この子ぐらいの時期はそういうのが気になりだす時期だし、命は、あーえと、綺麗な体をしているから、聞きたくなったんだろう。できれば答えてやってほしい」
いいことえを言うが、僕のマイサンをみて顔を赤くする琉斗。キモイからやめろ、凝視スンナ。僕にそっちのケはない。だからその視線を外せ。
深刻そうに僕の顔を見ている男の子。答えてやりたいとは思うが、そんなもの個人差だろうし、どう答えていいかわからない。でも、よくよく考えてみると、これは思春期の女の子が自身の胸をみて、大人の女性にどうやったら大きくなるの? と聞いているようなものか。
「えっとね、僕は特に何もしてないよ? 君も、成長していけば体と一緒に大きくなっていくから、心配しなくてもいいよ。そもそも、コレのサイズなんて人それぞれだから、誰かと比べなくてもいいんだよ」
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