逆転した世界で楽しんでやる!

ノベルバユーザー273307

お弁当は学園イベントにはかかせない。

 百合姉がから揚げ弁当税込450円のから揚げを頬張りもきゅもきゅと食べる。なにこれ可愛い。てかどうやったらそんな音がでるんだ。


 「ほういえばふぁ、ゴクン。みー君そのお弁当どうしたの? 自分で何とかするって言ってたから一食分だけお金渡してたけど」
 そういいながら百合姉が僕の(先輩から借りた)机の上に置いてあるお弁当を見ながら言う。


 「ああ、これね。そのお金で食材買ってきて自分で作った」
 「ええ!? この前カップ麺にお湯注いでこれが料理だとか言ってたのに?」
 「失礼な! 全部手作りだよ!」
 もちろん冷凍食品の類は一切使っていない。朝早くから百合姉に見つからないように作ったのだ。隣の百合姉の親友らしき人が男子力高っ! と言っていた。らしき人、と言うのは自己紹介をしようとしたら百合姉に邪魔されたからだ。百合姉曰く、こいつは野獣の中の野獣で性欲の塊なんだから名前なんて知る必要ないし、警戒してもしたらないんだよ。とのこと。あとで絶対アドレスと名前を聞き出してやる。


 「ほんとに? これが見た目だけおいしそうな劇物でしたーとかそんなオチは嫌なんだよ」
 「んなっ、そんなこと言うなら実際に食べてみなさい!」
 そう言ってから揚げを百合姉の顔の前に箸でとって出す。大根おろしとニンニクおろしを使った自信作だ。慣れない早起きをしたため一限目はめちゃくちゃ眠かった。
 目の前に突き付けられたから揚げを百合姉がポー、と見つめる。ん? これってあーんイベントと呼ばれるものではないだろうか。ヒロインが手作り弁当を主人公にあーん、をして食べさせ、周りにもげろ、とか言われちゃったりする例のアレ。手作りで家庭力のある男子のイメージ付けをしようとは思ったが、まさかあーんまでできるとは思わなかった。


 「おお、まさかのあーん!」
 百合姉の親友らしき人が……ええい、長い! この場に限って親友さんと呼ぼう。親友さんが声を上げる。僕の顔とから揚げを交互に見る百合姉。いいかげん腕が疲れてきた。ここは王手をかけようと思い、


 「お姉ちゃんが食べないなら親友さんに食べて貰おっかな~。「え!? マジで!?」でも親友さん、性欲の塊だからそんなことしたら僕の貞操が危ないな~」
 「食べる!! 食べるんだよ!!」
 「さすがみー君。あざとい、あざとさMAX」
 落ち込みぶつぶつ言い始める親友さん。みー君って呼んでいいのはボクだけなんだよ! と百合姉に殴られていた。てか百合姉、一人称ボクだったのか。この世界、一人称が乱れに乱れていて、女でもボクとか俺とか使っていて、珍しいのではそれがしとか拙者なども珍しくはあるものの、その辺にいるのだ。つまり俺っ娘ボクっ娘に会えるのだ。それもかなりの確率で。本当にこの世界は都合がいいな。
 パク、と僕のから揚げを食べる百合姉。それから再びもきゅもきゅと咀嚼し始めた。だからどうやってやるんだそれ。


 「ん! おいしい!」
 「そうかそうか。じゃあそっちのから揚げも食べさせて」
 そう言ってあーんと口を開ける僕。あーんしてやったのだ、報酬にあーんしてもらってもいいだろう。すると百合姉はうろたえはじめ、


 「え、え、でもボクの食べさししか残ってないんだよ…」
 「今更姉弟でなにいってんの。いいからあーん」
 しぶしぶと行った様子でから揚げを口に運ぶ百合姉。よく見ると頬が赤い。なんだ、照れているのか、可愛いやつめ。
 すると、昼休みを終えるチャイムが鳴る。ちっ、他にも卵焼きとかあったのに。


 「ん、昼休みおわったね。僕そろそろ教室に帰る」
僕は仕方なく立ち上がり、教室へと戻った。




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 教室に戻ると、琉斗が購買のパンの袋を片付けていた。


 「お、命。どこ行ってたんだ?」
 「百合姉んとこ」
 「ん? お前姉いたのか?」
 「うん。二つ上に一人ね」
 「そうか、仲いいんだな。おっと、先生が来たぞ。席につこうぜ」
 と、担任の須々木先生が入ってくるのが見えた。これは琉斗に聞いた話なのだが、教壇の段差でこけかける須々木先生はもう恒例行事なのだとか。あ、今回は完全にこけた。


 「うー、いたたたた。こけちゃいました~」
 「須々木先生、大丈夫ですか?」
 心配して声をかける女子生徒。それにしても、須々木先生の言うセリフは野郎じゃなくて美少女に言ってほしいものだ。
 女子生徒が助け起こし、授業が始まる。


 「はい、では現国の教科書を開いて下さいー。ページは前回と同じでー」
 そう言いながら黒板に今日の日付を書き始める須々木先生。しかし困った。前回の授業に出ていないのでページがわからない。すると、


 「16ページだよ、七峰くん」
 と、こっそり柊さんがささやいて教えてくれた。この学校、一人ひとりが離れた席ではなく、男女二人が机をくっつけた列が横に三列、縦に五列ある。といっても、このクラス。男子は僕を含めて10人しかいないので、廊下側は女子だけになる。この世界の女子高生の思考で考えたらハズレなのだろうが、僕からして女の子同士で隣にいる空間は百合百合しくて目の保養になる。片方が教科書を忘れ、もう片方が、『あんた教科書また忘れたの? ああ、もう。しょうがないから貸してあげる』と言って一つの教科書を肩を寄せ合って見ているのはもう、たまらんとです。うんうん、勤勉なのは何よりだ。フヒヒ。
 少し遅れながら返事をかえすと、


 「あ、ありがとう。助かったよ」
 「ううん、別にいいよ」
 と言ってノートを写す作業に入っていった柊さん。時折耳に髪をかけている姿があり、少し見とれてしまった。
 すると、弁当を作るために早起きしたためか睡魔が唐突に襲ってくる。普段から遅寝遅起きをしていたため、体内時計が狂ってしまっている。今度から生活リズムをなんとかしなきゃなー、と考えつつ僕は睡魔に逆らえず眠りに落ちてしまった。

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