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ノベルバユーザー273307

猫まんまEXと百合姉

 「おい、起きろ命。みーこーと」
 誰だ、僕の睡眠を邪魔しているのは。朝チュンは美少女とって決めているんだ。


 「えと、七峰君? 次移動教室だし、担当の先生厳しいから早くいかなきゃ怒られるよ」
 む、この声は朝教室を教えてくれた柊さんではないか。これは起きねば。いやしかし、この心地いい微睡まどろみには抗いがたく……


 「んー、むー」
 「あーもう。ほら、起きろよ命」
 そう言って命を持ち上げようとする琉斗だが、寝起きで力が入らなくスルリと琉斗の手から体が離れていく。
 すると、助けてくれようとしたのか誰かに抱き留める形で受け止められた。たぶん柊さんかな。思いのほか心地いい体温で、寝起きで頭の回らない僕はそのまま抱き着いてしまう。思いの外平らな胸だが、僕はどちらでも行けるのでノー問題。


 「え、ちょ、命!?」
 焦った琉斗の声が僕の頭の上・・・から聞こえてくる。おかしいな、僕は柊さんに抱き着いているのだ。琉斗の声が僕の頭上から聞こえるのはおかしい。そこで僕の意識は急覚醒した。
 顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした琉斗と柊さんがいた。柊さん可愛い。
 肝心の僕の位置だが、琉斗の腕の中にいる。だから顔赤らめんな気持ち悪い。


 「み、命? 離れてくれるとうれしいんだが……」
 と言う琉斗。ええ、そうしましょう早急に直ちに即刻に。


 「さ、いこっか」
 「おい、無かったことにしようとしてるだろ」
 当たり前だ。誰が好きで野郎なんかとハグしなきゃいけないんだ。はぁ、抱き着くなら柊さんがよかった。野郎の体温なんて知りたくもなかったよ……
 結局、三人で仲良く科学教師にこっぴどく怒られた。






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 「ただいまー」
 「あ、お帰りみー君」
 そう言って帰宅した僕を出迎えてくれたのは、実姉である百合姉だ。ほんと、義理じゃなくてよかったと思う。義理だったら僕のエクスキャリバーが火を噴くぜ。
 部活のある百合姉よりも遅く帰宅したのは、どこぞの化学教師に居残りをさせられたからだ。ちきしょう、あの中年オヤジめ。
 自室に行き着替えてからリビングに戻る。制服と言うのは見た目はいいが私生活出来るには不便すぎる。すると、テレビでは男性に対するセクシャルハラスメント問題のバラエティーが放送されていた。被害者の男性は、しくしくと泣きながら語っている。


 「みー君も気をつけなきゃダメなんだよ? 最近薄着なんだし」
 薄着、とはいっても少し胸元が伸びた半袖のTシャツに、短パンだ。こちら・・・に来るまでは大型ショッピングセンターの書店にライトノベルを買い求めに行くときも大体似たような恰好なのだ。どうやら胸元が緩いのがダメらしいが、たいして筋肉のついていない男の胸などで興奮するのだろうか。……するだろうな、こういう世界だし。


 「んー、気を付ける」
 適当に返事をしながら冷蔵庫にあるペットボトルの麦茶を取り出しコップに入れて飲む。ふと顔を上げると、超至近距離に百合姉の顔があった。危うく麦茶を噴き出しそうになる。


 「な、なに?」
 「ほんとに気を付けるんだよ? みー君。何かあったら携帯ですぐ電話するんだよ?」
 と、どうやら適当に返事をしたのがいけなかったらしい。


 「わ、わかったわかった気を付けるよ」
 「よろしい」
 と言って離れる百合姉。ほんとに弟思いの姉である。義理じゃなかったら僕のエクスキャリバーが以下略。
 僕はそのまま二つ折り式ゲーム端末を開き、オンライン通信を始める。それなりに売れている作品だ。すると、またもや百合姉が至近距離にいた。ゲーム機を落としそうになる。
 それにしても百合姉、今回もそうだが、気付かぬうちに隣に居たりするのはよくあるのだ。気配でも消せるのだろうか。ハッ、まさか失われしジャパニーズNINJAなのだろうか。アイエエエエエエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?


 「誰と通信してるのかな? ネットは危険が危ないんだよ?」
 「日本語間違っているから。猫まんまEXさんだよ。フレンド」
 プーピー、と気の抜ける笛の音でクエストが始まる。


 「それ終わったら少し貸してほしいんだよ」
 これはかなり苦労して装備を集めたデータだが、まぁ、自分の好きなゲームをプレイしてもらえるのだ。これを機会に玄人向けの武器である、ランスの布教でもしようか。
 ものの五分でクエストを完了させ、町に移ると百合姉に渡す。ネットには画面の向こうの相手が人だとは思わない大きなお子様がいるものだが、百合姉なら大丈夫だろう。
 すると、百合姉はこのゲームの売りであるボイスチャットをオンにし(ちょ、僕でも使いこなせてないのに一発でオンにしやがった)マイクに口を近づけ、


 「うちのみー君に手を出したらミンチにするんだよ!!」
 と、恐ろしいことを言い放った。


 「ちょ、百合姉!?」
 僕の声が思いのほか大きく出て、マイクが僕の声を拾ったのかチャットで猫まんまEXさんが男!? と驚いていた。どうやら向こうもボイスチャットを開くらしい。ああ、重くなる重くなる……
 僕の声は声変りをしてもそれなりに高く電話では女性と間違えられることが前の世界ではよくあることだがどうやって聞き分けたのだろう。これも地球に似た異世界のご都合主義だろうか。ご都合主義万歳!!


 『男ってどういうこと!?』
 猫まんまEXさんが再び驚きの声を上げる。デキる女性、と言った声をしていた。


 「こら泥棒猫! みー君に話しかけるんじゃないんだよ!」
 無視された百合姉が怒り出した。
 

 「まぁまぁ百合姉。これゲームだし」
 「ゲームだからと言ってなめちゃいけないんだよ!! ネットは危険が危ないんだよ!!」
 だから日本語間違ってるって。


 「フシャーーーー!!」
 猫のように威嚇する百合姉。最早日本語ですらない。とりあえず百合姉を落ち着かせるためにいったん逃げ出そう。
 百合姉から視線を外しリビングから出ようとすると、目の前に百合姉がいた。なに!? なんなの!? ニンジャなの!? アイエエエエエ!? ……いや、それはもういい。


 「どこへいこうとゆうのかね」
 おい、お前はどこの天空の城の王でもある悪役大佐だ。


 「いや? 別に? 部屋でゲームの続きをしようかなーって」
 「甘い、甘いんだよみー君。この状況で逃げようなど思っちゃいけないんだよ」
 そうしてパタンとゲーム端末を閉じる百合姉。このゲーム端末は閉じると自動でスリープモードになるもので、通信中に閉じると通信が切れてしまう。ああ、猫まんまEXさんが……。あの人は基本ネットでもぼっちなのでフレンドは僕以外いないらしい。地獄のソロプレイに戻って行くのか。まぁ、通信が切れただけなのでもう二度と会えないとかいう事にはならないが。
 が、挨拶もなしにいきなり落ちるというのはネットではマナー違反だ。ここはしっかり言わなければならないだろう。


 「百合姉」
 「ん? 何かな?」
 「いきなり通信を切るのはマナー違反」
 「で、でもみー君のことを思って……」
 いつにもなく真剣な僕の声に百合姉は動揺する。


 「それでもいきなり通信を切るのは失礼だよ。猫まんまEXさん心配しているかもしれないし」
 猫まんまEXさんはボッチだが気配りをするのがうまい。優しい人なので心配してくれているだろう。もともと彼女は人の機嫌や人同士の関係などが知らなくていい部分まで見えすぎるタイプなのだ。表面上は仲が良くても実際はお互いの陰口を言い合うような友人二人に囲まれていて、その板ばさみが嫌で自分から一人になっていったと彼女は言っていた。


 「返して、百合姉」
 「い、いやでもみー君」
 「返して」
 そう強く言うとしぶしぶではあったものの返してくれた。端末を開くとそこにはやはり[通信が切断されました]、と表示されていた。
 通信をつなぎなおすと猫まんまEXさんが心配そうな声で、


 『だいじょぶでした?』
 「ちょ、いきなりなんで敬語?」
 『え、男の子ですしその年じゃ男子高校生…、この男性の少ない世の中じゃ家族以外普通は敬語ではなしますよ』
 いつものすこしふざけた猫まんまEXさんではなく少し怯えているような感じだ。まぁ、町ですれ違っただけでパシリにされてしまうことも少なくない世の中だ。これまで大量にネットでのネタや軽度の下ネタでやり取りしていたこともあり、セクシャルハラスメントなんかで訴えられないか心配でもあるのだろう。男性は数が少なくただでさえ保護しなければならないのだ。これで女性に恐怖心を持ち将来子を生せなくならば困る。と言うことで、男性に対する女性の犯罪は前の世界のセクシャルハラスメント(厳密に言えばセクシャルハラスメントは『性』を意識させる言動をするとあてはまるのであり、たとえ女性から男性へ、同性同士でも適合するが一般的には男性から女性にするものと言うイメージがあるため、今回は男性⇒女性のケースとする)とくらべると罪は重いものになっている。僕は前の世界で過ごした15年間の記憶があるので大丈夫なのだが、女性からの野獣のような視線に耐えられず女性恐怖症になってしまう人もいる。それを怖がっているのではないだろうか。
 そういえば僕のこと男と一回も言ってなかったなぁ、と思い出す。この世界は一人称がバラバラに乱れているので一人称で性別を見分けるのは難しい。ただ、『私』と言えば確定で女性になるが。


 「え? いつも普通に話してたじゃん。いつもとおなじでいいよ」
 『え、でもセクハラで訴えたり………』
 「しないよ」
 「!? 訴えられるようなことをみー君に言ったりしたの!?」
 『ヒッ!!』
 「百合姉、少し黙って」
 そう言って軽く睨むと百合姉がしぶしぶ黙る。
 『お、お姉さんいたんですね……』
 「お前にお姉さんと呼ばれる筋合いはないんだよ!!」
 お姉さんと呼ばれたのが気に障ったのか再び怒り出す百合姉。まさかこんなところで伝説の《お前にお父さん(お母さん)と呼ばれる筋合いはない!!》に出会えるとは思わなかった。


 「百合姉」
 「いくらみー君でもこれは譲れないんだよ!!」
 ふむ、覚悟はある様子。ならばその覚悟、見せてもらおうか!!


 「これ以上口出ししたらもう口きいてやんない」
 「ごめんなさい許してください何も言いませんから許してください」
 といってスチャッ! と正座する百合姉。歪みのない綺麗な正座だ。もし正座選手権があるのであれば百点満点中百七十点の評価を得るだろう。さっきもそうだが百合姉の気配を消したりこの素早さのもとである身体能力はどこからきているのだろう。まさか本当にニンジャなのだろうか。アイエエエエエ!? ニンジャ……コホン。天丼はこのくらいにしておいて、本題に移ろう。


 「訴えるつもりがあるなら最初から訴えてるでしょ? それに普段の猫まんまEXさんのほうが一緒に居てて楽しいし」
 『んぶぅ!?』
 ボッチだからなのか、純粋に女性に男性が好意を向けることが極端に少ないのか猫まんまEXさんが驚く。百合姉が何か言いたそうな顔をしていたが《もう二度……》と言うと伸びていた背筋をさらに伸ばすと、豊かな胸がぷるんっ、と揺れた。これを柊さんが見たら人知れず涙を流すだろう。


 「それで本題だけど、さっきは百合姉がゴメンね? 悪気はなかったんだ」
 『えと、そのことなら問題ないです……問題ないよ。君みたいな子なら過保護になるのも当然だと思いますか……思うし、大丈夫です…大丈夫だ』
 敬語でなくてもいいと言われたものの反射的に敬語になってしまう猫まんまEX。なんかかわいい。まあ、これについてはおいおい慣れて貰おう。


 「ほら、百合姉も」
 「その、いきなり閉じてしまったことは悪かったんだよ」
 『ええ、大丈夫ですよ。弟思いなんですね』
 「当然のことなんだよ。うちのみー君は優しくてかわいくて気遣いができて料理もできて………」
 と、二人は仲良くしゃべり出す。まあ、一件落着して良かったのではないだろうか。この後百合姉の僕の自慢話は一時間ほど止まなかったのだが、それはまた別のお話。

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