ルクレツィア戦記

Chronus

第2話 episode1




  神様は虚空から取り出した湯気立つ紅茶を優雅に飲みながら、ある世界の理を教えてくれた。




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      この宇宙に数多ある世界のひとつに、ルクレツィアと呼ばれ、天界、人界、冥界、時空の狭間、幻象界の5つに分けられている世界があります。「天界」には妖精、天使達などの宙族ソラゾクが、「人界」には人間、獣人、ドワーフやエルフらの精霊族、人魚などの海霊族が、「冥界」には悪魔族や魔族、霊魂族が住んでいます。「幻象界」ではルクレツィアの神々が世界を支えています。「時空の狭間」は別名、「灰色の空間」とも呼ばれ、時の静止した空間でルクレツィアの時間軸とはまた別にある次元です。言わば、ルクレツィアの裏の世界、影と言っても良いでしょう。
       幻象界とを除いた3つの世界は互いに手を取り合いながら、平和的にルクレツィアを治めていたのです。
       しかし、創世から4億7521万2083日が経ったある日、天界の住人が人界への侵攻を開始したのです。目的は豊かな食料と、それを生み出す労働力と土地でした。攻め込まれた人界は冥界の各種族と同盟を組み天界に対抗しました。当初は拮抗していたのですが、天界は単独ライブで戦い、人界と冥界はそれぞれの最大戦力を合わせながら戦っているのですから、いくら宙族が強いと言っても人界側の勝利は明白でした。ですが、突然人界側の海霊族と冥界の霊魂族の一部の者達が反旗を翻し始めたのです。戦場真っ只中での味方の裏切りに人界側は大きく動揺し、その隙をつかれて優勢から一気に劣勢へと追い詰められてしまうのです。誰もが敗北を予想した絶対絶望の中に現れたのが後に八聖の英雄と呼ばれるようになる八部族の勇気ある者達でした。彼らは果敢に敵に立ち向かい、天界の首領を倒し、霊魂族の英雄の命と引き換えに天界を封鎖する事でルクレツィア世界大戦を終わらせたのです。
       人界と冥界の人々、そして天界の代表者は大戦後の世界会議レヴェリーによって、人界と冥界の間に関所を設けて自由な交易を制限し、また封鎖した天界にも関所を設け、国際警察の監視の元で貿易をする事が決められました。人々はようやく以前の安寧秩序の世界を取り戻すことが出来たのです。





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    「ふぅ」と一息をつく神様。
     正直、ルクレツィアとか言う世界の歴史を今聞かされてもよく分からない。
     ぶっちゃけ、どうでもよい。多分、私はそのルクレツィアとか言う世界に派遣されるのだろう。
     ならばさっさと送って何かしらの問題を解決させれば良い。今までの話を聞いていた間が時間の無駄だった気がする。

「あら、無駄ではないんですのよ?」

     心を読まないでほしい。

「貴方が送られるのは確かにこのルクレツィアですわ。1人では寂しいでしょうし、他にも同じように説明をした方々を送り届けていますから、大丈夫とは思いますけど一応ね?それに、今起きている問題が少々面倒になりそうなんですの。」

     「それに多分、」と続ける神様は、私の表情に気づいていないんだろうか。

「まだ確かではないのだけど、再び大戦がルクレツィアで起きることになるでしょう。しかし、どうもその大戦には裏がありそうで、、、。貴方にはその”裏”も含めて解決して頂ければ嬉しいですね。」

「面倒、、、ですね」

     茶を飲み干すと、神様がニコニコしながら入れてくれる。有難いが、そういうことではない。

「、、、私には不可能だと思われます。そんな世界の根本に触れるような戦いにおいて私が人々を導くような行動をとるなんて出来ないのが普通でしょうね。私は生前、世界の隅っこで1人を好んで生きていたのだから。」

「あらぁ、大丈夫ですのよ〜。なんてったって私が加護を授けますからね。ルクレツィア創造神の力を舐めないでくださいね?それに、貴方が持っている才能に可能性を見出したから、私は拾ったのよ?」

「では、その加護とやらの代償が何かを教えてください」

     神様はその言葉に眼光を鋭くさせた。

「あら、下等種族である者が道理をわきまえているとは、珍しいことですねぇ。」

     急に言葉尻がキツくなった神様の威圧に少し押されながらも、言葉を吐く。やはりコイツは神様と呼ばれるほどの存在で、そしてその程度・・・・・でしかないのだ。
     こんな風に毒づいているのに気づいていながら表情を変えないあたりが不気味だ。

「、、、親から教えられた言葉に”タダなものほど裏がないものは無い”とありまして。」

     神様はしばらく無言で私を見つめていたが、1つ大きなため息を着くと先の柔らかな表情に戻った。

「それは素晴らしい教えだわ。こんなにも疑い深い人間は久々よ。」

「それで、して欲しいこと、与えられる能力とその代償とは?」

「して欲しいことは簡単よ。先程も少し触れたけど、ルクレツィアの世界大戦を収めること。理想は未然に防ぐ事だけどね。申し訳ないけど与える能力に関して、今は言えないわ。そこは他の勇者と同様にフェアプレイでいかないとね?」

「そして、代償は”失っても気づかない大切なもの”よ。」

     失っても気づかない、?それでは一見有利なように思われるが、神様のことだ。そう小さくはない代償のはず。それに能力が分からない時点で代償を知ってもどうしようもないだろう。交渉の余地もない。

「それではそろそろ時間ね。これでもだいぶ縮めた方なのだけど、ギリギリだわ。他の勇者達に遅れてしまう。」

「最後に一つだけ」

「何かしら?」

「全てを知ったいつか、私はまた、あなたに会いに行く。」

     私としては様々な皮肉と感情を込めて言ったつもりだったが、神様はものともせずに笑っている。

「あぁ、面白いです!これだから下等種族は!さぁ、旅立ちですよ!私を失望させないで頂戴ね!」

     そうして、私は新たな世界へ降り立った。

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