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剣と魔法の輪廻譚

にぃずな

苦しみの海

『わかっているよね!?ヒーローなんて、この世には存在しないってことぐらい』
真っ暗な視界から、突如幼い声が響く。
(どこ、ここ?)
喉の焼ける感覚。
目元が焼けるように熱い。
「それは………」
否定しようとしても、その言葉は喉で引っ掛かって上手く出ない。
『ヒーローも、魔法少女も、どれも全て、全て、どのおとぎ話も主人公もヒロインも、サブキャラもモブキャラも、皆が皆助かる、報われるなんて、そんなのありきたりな万人向けの御伽話フェアリーテイルでしかないんだよ』
「そんな、わけ」
『君だってわかっているでしょう!?』
(待って)
今、そんな他愛ないことを否定されてしまったら。
どうしてだろうか。
自分の存在意義が薄れてしまう気がして。
正義の味方を転生前からずっと信じてきて、今も心のどこかで信じているとでも言うのだろうか。
わかっているはずだ、理解したはずだ、突きつけられたはずだ、ありきたりなおとぎ話なんて、偽りにまみれた幻想譚だと。
_______望むファンタジーなんて、この世にはないってことぐらい。
「わかってる、わかってる、わかってるわかってるわかってるわかってるわかってるわかってるわかってる………っ」
涙声を漏らして、自分に言い聞かせる。
(私は、ミフユ=シャルティア………お姉ちゃんは……お姉ちゃんは…?)

あれ、お姉ちゃんって。




(………………誰、だっけ)




すると、急激に体が重たくなる。
熱が走る、しかし、何かが抜け落ちる。
(ぁ、これ、は……)
存在の溶けだす感覚、精神が崩壊していく。
苦しい、辛い、泣きたい、わからない、どうして。
「あがぁああああぁぁぁあぁぁぁああああああああああっ!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいたいぃぃぃぃいいいいいいっ!!!!
涙腺が崩壊する、涎を垂らして悶え、のた打ち回る。
脳がオーバーヒートする。
苦しい、苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しいぃぃいいいいっ!!
(やだ、やめて)
幼子のように惨めに影に溶けている誰かに懇願している。
(奪わないで、奪わないでよ……)
存在する理由を、自分の大切な何かを。


「ぁああ、あぁあああああぁぁあぁぁああぁあああぁあぁああああ!!!!」
「あら、どうしたのかしら?もしかして、こんなに《幻惑空虚ファントム=トリック》が効くなんてね。どれ程の過去があったのかしら?」
スピカがニタニタと笑って足蹴にする。
「がぅ……っ!」
無様に喰らって、地面に転がる。
(苦しい、痛い……)
焼き切れそうな脳をスピカの蹴りが冷やしてくれたようだ。
ふらふらと立ち上がって、頑張って足に力をいれる。
(…………どんなタイミングで、詠唱魔法を…?)
何か、スピカなりの何かがあるはずだ。
そうじゃなかったら、初っぱなから使ったっておかしくない。
脳の片隅で記憶を漁る。
それを解明しない限り、自分に勝ち目はない。
(もう一度喰らったら、狂い死にそうだ…)
だから、考える。
自分の存在意義を奪われないために、大切な者を奪われないために。


時間は遡る。
「望むところよ、ミフユ=シャルティアァ!!!」
吼えたスピカが無詠唱で炎系の魔法を放ちながら短剣を振るってくる。
(無詠唱自体は私にもできるけど、この世界のどの学校の教えに反しているんだよね)
学校の教えは世界の理的な理論が根付いている中で、これ程までに完成された無詠唱が出来るのは、魔法を独学で学んだ者ぐらいしかできないだろう。
(何者だとしても、驚異だな)
前々から、無詠唱の対策を考えてきていたものの、それを完璧にするまでに至れていないのが現状。
それほど、無詠唱はどれだけ経っても避けるのが難しい。
(厄介だ……)
相手の次の手を見極め、その上での攻撃を繰り出さなければ。
白銀剣ラルグレルフを振り抜き、炎を纏わせる。
そして、斬撃を繰り出す。
「ふんっ、小癪ねっ!!」
スピカは蹴りを入れるモーションと共に、足先から水弾を作り、迎撃してくる。
水蒸気爆発が起こるが、私にとってはどうってこと無い。
一般人なら、大怪我なんだろうけど。
(面倒……)
スピカの短剣での連撃を剣で弾きながら、策を練り続ける。
すると、スピカの魔法が放たれようとしている。
が、少し変だ。
(嫌な予感……)
反射で後方に大きく跳ぶ。
「あら?勘が良いわね。でも、無意味よ」
「何が…………」
スピカが短剣を掲げ、闇色の波動を纏わせる。
そして、横に薙ぐ。
大波のように迫ってくる波動を剣で斬り裂く。
しかし、手応えが変である。
「何…………あっ」
(まずい、まずい……)
この魔法は、接触してはいけない類いの、侵食型魔法。
剣を握っていた手の、指先の感覚が鈍くなっていく。
そして、変なものが流れ込んでくる。
「あははっ、ちゃんとくっついたわね。じゃあ、始めようかしら」
「なにが」




「_______《幻惑空虚ファントム=トリック》」



スピカが呟くようにそう唱えた瞬間に、侵食が急速に進行する。
「が、ぁ」
腕を伝って、喉の方まで、そして首を絞めてくる。
顔の方も侵食され、視界は真っ暗だ。
呼吸が荒くなる。
「せいぜい楽しみなさいよ、地獄をね。まぁ、とはいえ、貴女に通用するかは未知数ね」
遠くで聞こえるスピカの台詞に、首をかしげる暇すらない。
苦しい、ただただ、苦しい。
目眩、耳鳴り頭痛。
その他の嫌なものが体を蝕む。
(も、無…………)
そう思った瞬間に、私は意識を手放した。



(…………小型の一般的な魔法は、無詠唱で固有魔法らしきものは、詠唱有りと仮定しよう)
断定するには、まだまだ材料が足りない。
考えろ、考えろ。
このままじゃ、死ぬ。
確実に。
だから、考えろ。
(どうすれば、勝てる………)

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