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クロム

やらかしました


 目を開けると、そこは豪華絢爛ごうかけんらんな装飾が施された空間だった。
 あちこちに施された金や銀、宝石が、窓から差し込む光を反射している。
 
 「目が覚めたようだな」

 俊がこの光景に唖然としていると、すぐ近くで声が聞こえた。

 「ここ、どこなんだ?」

 「イグルド王国の王都、エイメル。シャルメリア宮殿の王の間だ」

 声の主はアベイルだった。
 頭が冴えてくると、俊は赤い絨毯の上にいて、その両脇には統一されたマントと鎧を着た衛兵と思われる人たちが、剣を突き立てて一列に立っていることが分かった。
 絨毯の先には明らかに王座のようなものが一段上のステージに置かれている。
 俊はアベイルに担がれるような形で、今も膝をついているアベイルの大きな背中に寄りかかっている。
 
 「目が覚めたなら、俺たちと同じようにしてもらいたい。右膝をつき、左手を左膝に置くんだ。そして右手で拳を作って地につけろ」

 すると今度は、アベイルの右斜め前に膝をついているアラードが言った。

 「早くしろ。王がいつお見えになるか分からん」

 「お、おう」

 アベイルにも催促をされ、俊は少し重い体を動かして、指示された形をつくる。

 「いきなりですまんな。父上は礼儀を重んじる人でな。無礼な態度をとれば、どんな処罰がくだるかわからないのだ」

 「ああ。それはいいんだ。それより、俺どのくらい寝てた?」

 「正確には 気絶していた だがな。瞬間移動の結晶石は大量のレーテを使うからな。慣れていないと、レーテの波に意識を持っていかれてしまうことがある」

 「そ、そうなのか……。ところでその結晶石とかレーテとかっていうのは……」

 「待て、詳しいことは後だ。父上がお見えになる」

 アラードは俊とアベイルの会話を中断させ、前を向いて静止する。
 辺りが静まり返り、ここにいる全員の顔が少し硬くなった。
 全員が動かなくなったのを見計らい、執事のような服装をした人物声を発する。

 「それでは、イグルド王国第15代国王、ボルグリフ陛下のご登場です」

 すると、俊たちを除いた、王の間にいる全員が一斉に拍手を始めた。

 「王様って、こんな感じで出てくるもんなのか?  」
 
 「しっ!  喋るな!」

 少し拍子抜けした俊をアベイルが強くいさめる。

 それと同時に、舞台袖から、一人の男が現れた。
 衛兵と同じ赤いマントを身につけ、つま先の反り上がった靴を履き、黄色の服には色とりどりの宝石が飾られている。
 頭には王冠。間違いなくこの人が、この国の王様だ。

 「この人が……ボルグリフ陛下?」

 「静かにしろ!  まだ拍手は続いている!」

 再びアベイルに怒られた俊だったが、さすがに驚きを隠しきれない。

 大きく出っ張った腹、膨らんだ顔。額には宝石の光に負けないほど光り輝く汗。
 よほど疲れたのか、王座に座ると、ゼェゼェと肩で息をする様。

 名前負けしてるーーーー!!!

 俊は心の中で叫んだ。

 王座に体重がかかると、すぐに王の間は静寂に包まれた。
 王の呼吸が落ち着くまでの数十秒が過ぎ、ようやく王は口を開く。

 「ふぅ〜、少しこのイス座りづらいな。後でもっと大きなのを用意しといてくれ」

 「はい。かしこまりました」

 「そういえば、ここ最近宮殿で見かけていた鳥の巣が見当たらないのだが、まさか除去したのではあるまいな」

 「ご心配なく。ひな鳥達が立派に巣立っていった後、親鳥が北に渡ってから除去致しました」

 「おお、巣立ったか。ひな鳥達を見るのが最近の楽しみだったんじゃが、まあ仕方ないか」

 「僭越せんえつながら陛下、アラード殿下とアベイル第二レーテ術師が、今回のシヴァゲイノ教団の反乱の鎮圧報告にいらっしゃっております」

 「そうじゃったそうじゃった。して、息子達は今どこにおる?」

 「陛下の御前おんまえにいらっしゃいます」

 「む?  お、おおおおおお!  アラード!そんなところにおったのか!  無事で何よりだ」

 「父上、お久しゅうございます」

 「アベイルもおるではないか!此度こたびの件は、そなたに苦労をかけたな」

 「滅相もございません。このアベイル、陛下のため、王国のため、粉骨砕身で働く所存であります」

 「いや〜よかったよかった。ところで……そなたは誰じゃ?」

 …………………………まじか。

 俊は真面目に、この国の政治体制が気になってきていた。

 「この者は、今回の戦闘の中でアラード殿下のお命を救ったものです」

 「私はその時気を失っていたのですが、その事実を知り、何か恩返しがしたく、ここに参上させた次第でございます」

 俊のことを不思議そうに見つめるボルグリフにアラード達が補足を加える。

 「おお〜そうだったか。それは国王として、一人の父親としても何かせんとな。そなた、名は?」

 「あ、ええと、飯田俊と致し申します!」

 「なっ……」
 
 「バカっ……」
 
 その瞬間、あたりの空気が凍りついた。

 「……おぬし……今なんと言った?」
 
 
 
 
 

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