住む世界の違うみんなへ
くわしくわかりました
アベイルは深妙な表情で語る。
ーこの世界は7日間で創られたー
最初に教えてくれたのはこの世界の成り立ちだった。
「創造神シヴェリザームは1日目に大地と海を創り出した。今まで何もなかった無の空間に初めて色が生まれ、命を育むための準備が整った」
ゆっくりと語りかけるように話すアベイルは、その見た目に反して、まるで牧師の様に見えた。
「2日目には光を創り出した。その光は大地と海を鮮やかに照らした。やがて光はひとつの集合体となり、太陽となった。そして3日目は何もせず、大地に力が宿るのを待った。そしてついに4日目、神は命の種を海にまいた。そこからはもう神は見守るだけだった。5日目に海で生命が生まれ、6日目に大地へと移っていった」
「なあ、ちょっといいか?」
「ん?  どうした?  何か思い出したか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。今話してるのは神話か?」
「まさか。全て事実だぞ。一時期は様々な自然現象によって創られたと言われた時期もあったようだが、現在は否定されている」
どうやらこの世界の成り立ちは俊のいた世界とは真逆に進んでいるようだ。
「そうなのか……悪い、話を続けてくれ」
「ああ、そうだな。そして、最後の7日目だが……」
突然、アベイルは口を閉ざし、その場を見渡し始めた。
「どうしたんだ?  いきなり」
「静かに。……何か動いた音がした」
すると突然、馬小屋の戸が勢いよく開き、
「うおおおおおおおお!!」
 1人の少女が、ナイフを構えながら俊たちに向かってきた。
その刃はアベイルの腹めがけて一直線に突き刺さる。
「くっ……クッソォ!」
「突撃の際は、敵の注意をそらす事。忘れるなよ」
ーーの前にアベイルに受け止められる。
そしてそのまま背負い投げのようにして、少女は地面に投げ捨てられる。
「離せ!  離せ!」
「さすがにそうはいかん。その黒服に赤のハチマキ……シヴァゲイノ教団の者だな」
その少女は日本の袴に近いような黒の衣装に身を包み、頭には赤のハチマキを巻いていた。
「……だからどうした」
少女はアベイルへの抵抗をやめ、代わりにより強い敵意を込めて睨みつけた。
「なぜ知恵を手放すことに恐怖を覚えているのだ!  その知恵のせいで、人間は何をした!?  戦争、紛争、虐殺……どの時代でも戦争は絶えず、苦しみだけが蔓延したこの世界は地獄同然ではないか!  この苦しみから解放されるには、創造神シヴェリザームに知恵を奉納するしかないのだ!  
人間全てがその意思を固めた時、この世界は救われるのだ!」
少女は雄弁に語る。だが、それはアベイルや俊を諭そうとしているのではなく、ただ一方的に主張を繰り返しているだけの様に見えた。
そんな彼女にアベイルは言う。
「知恵は人間が自らの手で勝ち取った物だ。それに、今のあいつは創造神などではない。破壊の限りを尽くす破壊神だ」
「黙れ!  黙れ!」
アベイルの言葉を、少女は怒りで吹き飛ばす。まるで会話になっていない。
すると、アベイルは俊に対してこう言った。
「これが、神がこの世界を滅ぼそうとする理由であり、この世界の創造の過程で起きた7日目の出来事だ」
この時、俊の中には答えの予想がついていた。
そしてそれが、アベイルの言葉で確信に変わった。
「7日目、人間は知恵を手に入れたのだ」
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