住む世界の違うみんなへ
だんだんとわかってきました
血生臭い戦場から離れ、俊は大男と共に近くのルブル村という集落にやってきていた。
そして今は、貸してもらった馬小屋の部屋にいる。
「よし。これで応急処置はできただろう。ひとまずは大丈夫そうだ。」
その言葉に俊は胸を撫で下ろす。
「良かったぁ〜。本当に良かった。」
「まだ安心できない。あくまで応急処置だ。もう少ししたら、ちゃんと医者に診てもらわないとな。私のレーテが回復したら、急いで王都に向かうぞ。」
「れ、れーて?」
また分からないことが一つ増えたな。
俊は異世界にきてから困惑しかしていない。
とりあえず、ここが異世界だと言うことだけは理解している。
しかし、イグルド王国という聞いたこともない国名。
いきなり降ってきた謎の光。
助けてくれた大男が作り出した青い光のドーム。
血だらけで転がっていた多くの死体。
この世界で初めて見た少年の目。
憎しみに満ちた、鋭いあの目。
そして、今ここに横たわっているその少年が、イグルド王国の王子様だということも。
「さて、どうにかひと段落したところだしな」
そう言って、大男は体勢ごと俊の方に向き直した。
「俺はアベイル。王国宮廷第二レーテ術師だ。今回の作戦では反乱鎮圧軍第二部隊の部隊長を務めさせてもらっていた」
「は、はあ……」
「お前と会った時から思っていたが、その年になるまで何をしてきたんだ?  世の中のことまるで知らないじゃないか」
「あ〜、その、なんというか……」
落ち着け落ち着け。こんな時にこの世界の人にも受け入れてもらえる、さらにこの世界のことを知ることができる最高の返答を考えておいたはずだ。
思い出せ思い出せ。いつ異世界に行ってもいいように何度も脳内シュミレーションしただろ?  
「その〜……その〜……そ、そ、そうだ!
  実は俺、なんであそこにいたのかわからないんだ!  その前のことも、一切合切覚えてないんだよ!」
その手段とは、記憶喪失を装うことだ。
しかし、自分が記憶喪失だということを笑顔で話す人はどの世界にもいないだろう。
それに気づいた瞬間、俊は全力で口角を下げる。
だが、夢にまで見たこの手段を実際に使った事実による喜びは、容赦なく口角を上げようとする。
この時の顔は、俊には想像もつかないものになっていたに違いない。
この俊の奇怪極まりない行動に、アベイルは
「それは本当か!?  どうりで全く知らないわけだな。まるでこの世界で生まれていないかのような感じだったから不思議だったんだが……ようやく納得できた」
と、理解を示してくれた。
「え!? 本当に信じてくれ……い、いや、なんでもない。ありがとう」
「ならば、教えてやらねばなるまいな。この世界のこと。そうすれば、一緒に自分のことも思い出せるかもしれん」
かなりの鈍感かバカか天才か。
アベイルは、本当に俊にこの世界のことを教えてくれそうな雰囲気になっている。
このチャンスは逃せない。
「あ、ああ。頼むよ。えっと、まず、アベイルさん達は何と戦っていたんだ?  あんだけの死人が出るなんて、魔獣とかか?」
まずは、あの戦場で戦いあった両者を把握しておかなければいけない。
だがこの質問によって、俊はいきなりこの異世界の現状を知ることになる。
アベイルは答えてくれた。
「あの場所は戦場になる予定ではなかった。俺たちはすでにシヴァゲイノ教団の反乱を鎮圧し、王都ミラリムに帰還していたのだ。そこに、シヴェリザームの『裁き』が降ってきてな。奴の接近を感知できなかった我々は、その攻撃をまともにくらってしまった。そして……」
「ちよっ、ちょっ、ちょっと待ってくれよ!  何なんだしゔぇりなんとかって。もう一つの似た名前の教団?」
「おお、そうだった。まずは言葉を明確にしておかねば」
そしてアベイルは再び口にする。
「シヴェリザームとは、この世界の創造神のことを言う。そして、」
この世界の敵を。
全ての始まりの名を。
「我々の世界を修正しようとする、破壊神の名だ」
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