『触れる』
αルート
♦︎♢♦︎♢  αルート
「……梨花。梨花!」
頬を伝う涙で目を覚まし、ふと周りを見渡す。部屋には、カップ麺の空容器や飲みかけの炭酸飲料、そして投げっぱなしの洗濯物が散らばっている。
「夢……か」
伏せていた座卓の上のお香が、役目を終え灰に変わっている。
そのお香が入っている四角いガラス瓶の下に一枚の紙が見えた。
『俊ちゃんへ
少しの間だったけど、また会えて幸せでした。どうか生きて、幸せになってください。あたしの分までね! 梨花より』
梨花が死んだ時に枯れたと思っていた涙が、再び溢れ出てきた。
どれくらいの時間泣いていたのだろうか。俺はいつのまにか泣き疲れて寝てしまっていた。
カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ますと、胸の中が驚くほどスッキリしていた。
あれだけ泣いたのだから目はかなり腫れていたけど、こんなに清々しい朝を迎えられたのは久しぶりだ。
ある決心をしてスマホを手に取り電話をかける。
「もしもしーー」
東京から新幹線に乗り、三時間ほどかけて新潟に着いた。
そこからタクシーに乗り、のどかな海沿いの道をしばらく走ると、大きな平屋の一軒家が目の前にあらわれた。
車を降りると周りにはいくつもビニールハウスがあり、さくらんぼやイチゴの甘い香りが漂っている。
玄関の前で一回、二回と深呼吸をしてチャイムを鳴らした。
「はぁーい」と大きな声を出しながら駆け足で向かって来る。
そして俺の顔を見ると
「俊介君。遠いのに、ほんによく来てくれたねぇ。さぁあがってあがって」と梨花のお母さんは俺を招き入れてくれた。
「申し訳ありません。来るのが遅くなりました。心の整理がつかなくて……」
床の間にある仏壇の前で、お参りを済ませて話を始める。
「気にしなくていいんよ。あたしもお父さんもまだ整理ついてないからねぇ。でもこうしてお参りに来てくれたんだすけ、梨花も喜んでるてさぁ」
梨花のお母さんが自宅で収穫した果物などを振舞ってくれていると、梨花のお父さんも畑仕事を中断して、来てくれた。
「俊介君、よく来てくれたね。ありがとう」
「いいえ、来るのが遅くなってすみませんでした。えっと……今日はこれをお父さんとお母さんに渡しにきました」
一枚の写真を二人の前に出す。
写真にはウエディングドレスを着て、ニコリと笑っている梨花が写っている。
前撮りの時に撮ったものだ。
「あら、梨花ったら凄く綺麗ね。あたしに似たのかしらね」
「ほんとだなぁ。母さんの若い頃にそっくりじゃないか」
二人は写真に写る梨花をとても嬉しそうにそしてとても愛おしそうに眺めている。
二人の目から零れ落ちる涙は、梨花への深い愛情を物語っていた。
「ほんとに綺麗ですよね……梨花ずっと、お父さんとお母さんにウエディングドレスを着た姿を見せたいって楽しみにしていました。だからせめてこの写真だけでもと思って……」
「ありがとう……ありがとう俊介君」
それから少し、果物の収穫などを手伝って俺は梨花の実家をあとにした。
帰り際、両手に持てるだけのお土産をこれでもかというほど沢山貰った。
「またいつでも遊びにおいで」と言って梨花のお父さんとお母さんは俺の背中を押してくれた。
梨花が死んだあの日から、止まってしまっていた俺の時間は、ゆっくりと再び動き始めた。
αルート  End
「……梨花。梨花!」
頬を伝う涙で目を覚まし、ふと周りを見渡す。部屋には、カップ麺の空容器や飲みかけの炭酸飲料、そして投げっぱなしの洗濯物が散らばっている。
「夢……か」
伏せていた座卓の上のお香が、役目を終え灰に変わっている。
そのお香が入っている四角いガラス瓶の下に一枚の紙が見えた。
『俊ちゃんへ
少しの間だったけど、また会えて幸せでした。どうか生きて、幸せになってください。あたしの分までね! 梨花より』
梨花が死んだ時に枯れたと思っていた涙が、再び溢れ出てきた。
どれくらいの時間泣いていたのだろうか。俺はいつのまにか泣き疲れて寝てしまっていた。
カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ますと、胸の中が驚くほどスッキリしていた。
あれだけ泣いたのだから目はかなり腫れていたけど、こんなに清々しい朝を迎えられたのは久しぶりだ。
ある決心をしてスマホを手に取り電話をかける。
「もしもしーー」
東京から新幹線に乗り、三時間ほどかけて新潟に着いた。
そこからタクシーに乗り、のどかな海沿いの道をしばらく走ると、大きな平屋の一軒家が目の前にあらわれた。
車を降りると周りにはいくつもビニールハウスがあり、さくらんぼやイチゴの甘い香りが漂っている。
玄関の前で一回、二回と深呼吸をしてチャイムを鳴らした。
「はぁーい」と大きな声を出しながら駆け足で向かって来る。
そして俺の顔を見ると
「俊介君。遠いのに、ほんによく来てくれたねぇ。さぁあがってあがって」と梨花のお母さんは俺を招き入れてくれた。
「申し訳ありません。来るのが遅くなりました。心の整理がつかなくて……」
床の間にある仏壇の前で、お参りを済ませて話を始める。
「気にしなくていいんよ。あたしもお父さんもまだ整理ついてないからねぇ。でもこうしてお参りに来てくれたんだすけ、梨花も喜んでるてさぁ」
梨花のお母さんが自宅で収穫した果物などを振舞ってくれていると、梨花のお父さんも畑仕事を中断して、来てくれた。
「俊介君、よく来てくれたね。ありがとう」
「いいえ、来るのが遅くなってすみませんでした。えっと……今日はこれをお父さんとお母さんに渡しにきました」
一枚の写真を二人の前に出す。
写真にはウエディングドレスを着て、ニコリと笑っている梨花が写っている。
前撮りの時に撮ったものだ。
「あら、梨花ったら凄く綺麗ね。あたしに似たのかしらね」
「ほんとだなぁ。母さんの若い頃にそっくりじゃないか」
二人は写真に写る梨花をとても嬉しそうにそしてとても愛おしそうに眺めている。
二人の目から零れ落ちる涙は、梨花への深い愛情を物語っていた。
「ほんとに綺麗ですよね……梨花ずっと、お父さんとお母さんにウエディングドレスを着た姿を見せたいって楽しみにしていました。だからせめてこの写真だけでもと思って……」
「ありがとう……ありがとう俊介君」
それから少し、果物の収穫などを手伝って俺は梨花の実家をあとにした。
帰り際、両手に持てるだけのお土産をこれでもかというほど沢山貰った。
「またいつでも遊びにおいで」と言って梨花のお父さんとお母さんは俺の背中を押してくれた。
梨花が死んだあの日から、止まってしまっていた俺の時間は、ゆっくりと再び動き始めた。
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