『理外の無才者』〜不利すぎる状況でおれは強くなる〜

アルエスくん@DeusVtuber

勇者編 第二十六話 スレイブエルフ

勇者編 第二十六話 スレイブエルフ
 
 
 
 世の中には、嘘をつく人はたくさんいる。
 
 その嘘が完璧な理論なら、バレることもないだろう。
 
 しかし、ベッドで休もうとしたおれは気づいてしまった。
 
 おれの、体からは、心臓の音は聞こえる……。
 
 でも、それは、魂のおかげだ。
 
 なにがどうなってるかは知らないが、おれは自分の肉体を魂でうごかしているからだ。
 
 勝手に動く心臓の筋肉のように、『勝手に動く魂』があるらしい。
 
 だからこそ、心臓の音を聞いたからこそ、おれは気づいた。
 
(おれはもう死んでいるのではないか?)
 
 だとしたら、ブラックカーテンの言っていることは嘘になる。
 
 素直に聞くしかない。それが真実とは限らないが。
 
「なあ、ブラックカーテン、死に戻りの条件である『死』って、少なくとも『肉体的な死』ではないよな?」
 
 ブラックカーテンはニヤッと笑った。
 
「さすがにバレるか。そこまで魂を使いこなしているのだからな……」
 
「なら、お前が言った『死』とはなんだ!」
 
「『魂的な死』だよ……!」
 
 魂……だと?
 
「魂にも死ぬことがあるのか?」
 
「正確には、魂の核が粉々に砕かれた上で、人格、精神と言ったものがなくなった場合だよ」
 
「それって、裏を返せば、そういうことをできるやつが敵になる……ということだよな?」
 
「まぁ、そのとおりだ。これ以上話すことはできないな。なにせ、私は私がやりたいように行動してるからな!」
 
「ま、お前の言ってることが真実とは限らん、参考程度に留めておこう……」
 
「それが問題なんだ!」
 
 は? なんか問題か?
 
「なにをどうやっても、君が手に入らないんだ!」
 
「いや、喋りかたとか違うだけで同じ声のやつの所有物になりたいとは思わんだろう、気持ち悪い……」
 
「なにをやってもだ! どんだけ精神的に追い詰めても! 逆にどれだけ救ってもだ!」
 
「なるほど、だから自分が都合のいいようになることだけ手助けするのね、エルフの奴隷の子も怪しくなってきたなぁ……」
 
「では、私はそのエルフくんを迎えに行ってくるよ、バァイ!」
 
 そういって、ブラックカーテンは出ていってしまった。
 
「…………あいつと一緒にいて大丈夫だろうか? 考えても結論は出ないか……ハァ……」
 
ーーーーーーーーーー
 
 しばらくして、突然ドアが強引に開かれた。
 
「連れてきたよ〜! では、あとはゆっくりしていってくれ、城から迎えが来ると思うからな!」
 
 ブラックカーテンはそうそうに出ていってしまった、首輪をつけたエルフの子を置いて。
 
 連れてこられた子は、肩にかかるくらいの金髪で、耳が尖っていて、両目は緑色の少女だった。
 
 ただし、死んだような目と表情をしていた。
 
「えっと……君の名前は?」
 
「………………ありません」
 
「そういや、ないほうが多いんだったな。なんて呼べばいい?」
 
「………………そこの奴隷とでも」
 
 どうしよう、なかなかに厄介そうだ。
 
「ふむ、じゃあエルフくんと呼ぼう、奴隷はみんなそんな絶望した顔をしてるのかい?」
 
「………………いいえ、私が絶望してるだけです」
 
「なんで絶望してるんだい?」
 
「………………その質問には答えられません」
 
 ほんとどうしよ?
 
 少し悩んでいると、エルフくんが首輪を見せてきた。
 
「………………首輪の後ろの白い四角のところを触ってください」
 
「え? まあ、いいけど……」
 
 エルフくんの後ろに周りこんで、触る。
 
「………………これで所有権はあなたに移りました」
 
 そういうシステムなのね。よくわからんけど。
 
「どういう仕組みだい?」
 
「………………これは、所有者の登録のためのボタンです。普段は、奴隷商人によって、ロックされてます」
 
「ここの奴隷商人ってどんな人?」
 
「………………太っていて豪華な服を着た男です」
 
「はぁ、まあブラックカーテンの言うこともわかるな。おれが君を見たら、買いたくなるかもしれない。」
 
「?」
 
「君みたいな少女がそんなひどい表情をして売られてたら、なんとかしたいって思うはずだね、きっとな!」
 
「………………あのぉ」
 
「なんだい?」
 
 まさか、エルフくんから話しかけてくるとは、少しびっくり。
 
「………………私に性別はありません」
 
「……へ?」
 
 性別がないとは……どういうことだ?
 
「それってどういう?」
 
「………………家族が言ってたからです、私には性別がないって、私にもよくわかりません」
 
 謎が深まるばかりなんだけどぉ!
 
「……ま、見た目は少女だから女の子ってことでよろしく!」
 
 本人にもわからないんじゃあ仕方ないしな!
 
 
 

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