異世界エルフの奴隷ちゃん

柑橘ゆすら

小心者

冒険者ギルドを後にしたご主人さまはようやく自宅に戻ってくる。
 ご主人さま、エルフちゃん、犬耳ちゃんの3人が住んでいる家は、家賃8000コルの一軒家だった。
 ちなみにこの世界における1コルは、現代日本の価値に換算すると大まかに10円くらいである。
3人の住んでいる家は、それなりに広さこそあるものの、周囲の家に比べて築年数が高く、一目に見てボロボロだということ分かるものだった。

「ごめんね。2人とも。俺の稼ぎがもう少し良ければ2人をもっと良い家に住ませることだって出来るはずなんだけど」

 謙遜のタイミングは、2人にとっての『さすごしゅチャンス』の到来である。
 小まめに持ち上げてご主人さまの好感度を稼いでいくことは、奴隷にとっての重要な責務であった。

「そんなことありません! ご主人さまは私たちにとっても良くしてくださっています」
「オレだって……ご主人さまに拾われていなかったら今頃どうなっていたか……!」

 2人は本音と建て前の入り混じった迫真の演技で持ち上げていく。

「大袈裟だよ……。俺なんて全然、大した男じゃないし……。本当に大丈夫? 今の家に不満はない?」

 気分良くしたご主人さまは、頬を赤くして目線を下げていく。

((おねだりチャンス到来!?))

 奴隷ちゃんたちの眼がキラリと光る。 
 引っ越しを勧めるのであれば今しかない。
 2人とってもボロ家での生活は可能な限り避けたいことだったのである。

「……そもそも疑問なのですが、どうしてご主人さまは未だに迷宮の1階で戦っているのでしょうか?」
「ご主人さまが本気を出せば、もっと幾らでも良い家に住めるはずだぜ!」

 ここぞとばかりにエルフちゃん&犬耳ちゃんは、普段は聞きづらい質問を投げかけていく。
 ご主人さまの戦闘能力はまさに『チート』と呼ぶに相応しい神がかり的ものがあった。
 恵まれたスペックを持ちながらも、ダンジョンの1階でスライム狩りに執着するご主人さまの姿には以前から疑問を感じていたのである。

「えっ。だって強いモンスターと戦うのって怖いし……。嫌だよ……」

 無敵の能力を持っている割には、意外にも小心者のご主人さまであった。


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