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「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

ノベルバユーザー267281

第二十二話 求める力

 ───っと、ふぅ。

 あー、やっと出て来れたよ。全く、いつまで僕を待たせれば気が済むんだ。神様をないがしろにするのも大概にしておけよ、なんてね。
 これは君の夢の中だから、そこまで驚く必要はないよ。死んだと思ったかい?まぁ、目の前に死の国の神様が現れたらそう思っても仕方ないか。
 改めまして、僕の名前はハデス。死の国の神様さ。
 さてさて葵不律くん、せっかく僕がその力をあげたっていうのに、相変わらず生きづらい生き方してるんだね。まだ二日目だろう?二日目にして過労で倒れるとか洒落にならないよ。まぁ僕はそれはそれで見ていて楽しいんだけどね。

 よし、本題に入るか。
 君がどう生きていきたいか、どう死にたいかは自由だ。僕が死ねって言ったところで、君が言うことを聞くはずもないしね。全く、教育がなっていない、なーんて。
 でもね、一つだけ、僕から言っておきたいことがあるんだ。

 死ぬことだけは許さないよ。僕が君をわざわざ生まれ変わらせてあげたんだから、死ぬことは絶対に許さない。

 確かに君にしか、シルビアくんは殺せないだろう。その逆も然りだ、それでも君は生きなければいけない。理由は簡単さ、真っ直ぐに歪んでしまった君の「生き方」を見てみたいんだ。僕を、週刊少年誌の続きを毎週待っている子供の様に思ってくれても良い。
 勝手だろ?正直、生きているのが嫌になってきただろう?あははっ、僕から見た君の存在価値はこんなもんさ。
 生まれ変わらせるのだってタダじゃないんだからね。

 言いたいことは取り合えずそれだけさ「死んでも死ぬな」「死ぬ気で生きろ」。それが例え、大切な人と殺し合うことになってもだよ?
 まぁ、これは単なる僕のお願いだから、無視するのも君の自由なんだけどね。っていうか、目を覚ましたらこの記憶は消えてるはずだから、結局は意味がないんだけど。

 あはは、そんな顔するなよ!僕が一体何をしたいのか全然分からないって顔だね。分からなくていいよ、どうせただの暇潰しだし。
 これは僕が君を信頼してる証さ。この出来事を覚えていなくても、この忠告を覚えていなくても、結果は同じ。どうせ君はみっともなく、醜く、生にしがみついているはずだからね。悪物っていうのはたぶん君みたいな人間のことを言うんだろうな。
 僕からのお話は以上だよ。精々、僕を楽しませてくれ。打ち切りなんかで、がっかりさせないでくれよ?




「っつ………ぅ、ん」

 決して気持ちの良い目覚めでは無いな、むしろ激しく気持ち悪い。
 気絶や失神を経験したことがある人なら分かってくれるとは思うが、失神するときって一気に夢の中に入り込んで、目が覚める時は夢の世界がぐちゃぐちゃになり、激しい不快感と嗚咽に襲われた後に「ハッ」っと意識が戻るんだよな。

 意識が戻るっていうか、脳味噌をズルッと引き抜かれて、無理矢理意識を叩き起こされるような、そんな感覚。つまり、激しく気持ち悪い。
 アニメとかって意識が戻るなり、何ともないようにキャラクターが振る舞っているけど、そんなことは絶対ありえないんだよな。絶対、一~二回は吐くって。

「………不律さん、起きましたカ?」

 おっと、デジャヴ。
 でも、今度はなんだか安心するような声だな。少なくともこれから指の骨をボキボキに折られるなんてことは起きなさそうだ。
 何だか、後頭部から首にかけて凄く柔らかくて、胸焼けするような不快感を落ち着かせるような独特の朗らかな匂いが香る。五感をフル稼働させて、「幸せ」ってやつを感受しているようだ、うん。
 ………うん?後頭部が、温かくて、柔らかい?

「はっ」
「あ、気づきましタ!」

 真っ先に俺の目に入るのは、俺の顔を覗き込むベアトリーチェの整った顔、鼻腔をくすぐるように垂れた艶やかな黒髪、そしてなんともたわわに実った二つの桃源郷。
 さっきまでなんだか死の国の神様と会話していたような気がしていたけど、きっとあれは俺の勘違いだったんだ。今すぐ、三蔵法師に教えてあげたい。ガンダーラを俺は見つけたぞってね!

「不律さん、生きてまス?」
「じぇんじぇん問題ありません」

 ド派手に噛んだなー、俺。

「う、うぅ………だったら良かっタ!」
「むぐっ!?」

 いっぱいに涙を溜めこんでいたベアトリーチェの顔が、たちどころに笑顔に変わったかと思うと、次の瞬間、俺の頭は柔らかなユートピアに挟まれてしまう。
 この一時だけで、今までの不遇が報われたような気がしたことは内緒だ。
 あぁ、いっそこのまま死んでしまいたい。
 褐色の美少女に抱きしめられている間、いや、目が覚めたその瞬間からおんおんと聞こえてくるむさ苦しい泣き声はたぶん鬼の三人組だろうな。

「プハッ………はぁ………ふぅ」
「急に倒れてしまった時は、本当にどうしようかト………」
「不律殿ぉお、よくぞ御無事でぇええ」
「いやいや、何で泣いてるんだよ」
「私たちは、葵殿の身に何かあったのかと思って………まだ、恩を返すことすらできていないまま、死んでしまったのではないかと………そう、思ったらあああ」

 おいおい、縁起でもないな。
 でも、泣くほどか?赤の他人で、そもそも俺は魔族でも何でもない、ただの落ちこぼれの人間なんだぞ?

「心配、したんですヨ?」
「………心配、俺に?」

 何だ?胸が、締め付けられる。

「あっ、そういやアイツは?」

 徐々に前後の記憶が鮮明になっていく中、俺は倒れる直前まで腕に抱えていた白銀色の少女の存在を思いだす。
 きょろきょろと周りを見渡してみた。寝心地の良い高そうなソファーで、俺が美少女に膝枕をしてもらっていることは、一番最初にまず分かった。ヤバいぞ、こんなことネット上で呟いてみろ、ものの数分で身元特定されるぞ。
 暖房が利いているのか、昨日の夜みたいに寒くはない。窓の外は、部屋の中と対照的にだいぶ暗い。っていうか、この状況じゃ全く何も頭に入ってこないっていうかなんというか。

「勇者なら、ほら、そこで眠っております」

 オートゥイユの指し示す方へと首を動かすと、そこには確かに敷き布団に寝かされている、穏やかな寝顔のシルビアの姿があった。
 やっと部屋の全体像が見えてくる。この乾燥帯の地域には珍しい木製の壁や床や天井。どうやって電力を作っているのか、そもそもこれほどの技術力があったのかと驚くほど、部屋全体を照らす明るい蛍光灯が天井に一つ。

「運んでくれたの?」
「勇者はベアトリーチェ様が、不律殿は自分が運ばせていただきました。不律殿が酷くうなされていたようなので、自分たちも心配してたのです」

 過労で身体機能が一旦ストップしたせいだろうか、俺の体はすっかり人間の姿に戻ってしまっている。うーん、なるほど。こういう戻り方もあるんだな。
 でも、少し意識を手放した程度で完全回復とまではいくわけなく、未だ体全体が重い。まぁ、これでもだいぶマシな方なんだろうな、あの姿のままで失神するほどの疲労が溜まっていた訳だし、むしろ意識を手放していてよかったと思う。

「………無理矢理になってしまったけど、俺とアイツを引き入れてくれてありがとう。とりあえず俺はアイツが起きるまで横になっておこうって思ってるんだけど、カストディオさんはどこなんだ?」
「カストディオ様は現在、屋外で安静中です。魔族の体の活力の源は『魔力』ですので、せめて通常の状態に戻るまで短時間安静にして、魔力の自然治癒を計っておられます」
「だからパパの魔力が回復するまで、この家でワタクシたちは何もできないの。とりあえず不律さんの為に、この部屋の魔力はワタクシたちで供給しているんだケド」
「この部屋の魔力?電力じゃなくて?」
「何ですか、ソレ?」

 なるほどな。この世界では、電力の代わりに魔力を代用しているのか?
「ベアトリーチェ様、恐らく『電力』とは人間の世界で使用されていた、主なエネルギー源の事ではないでしょうか?今現在は、人間も魔力を使用出来るようになってきているので、その存在はほぼなくなってきているようですが。よくご存じですね不律殿、異国では未だ電力を使用なさっているのですか?」

「あ、あぁ、逆に魔力や魔族なんてものを知らなかったからな。ちょうど良いし、魔族の事なんかも俺に教えてくれないか?まだ全然この世界の歴史や時代背景も知らないから」
「この、世界?」

 あ、ヤベ。別に隠してるわけじゃないけど、なんかややこしくなるから誤魔化しとかないと。
「えっと、この国のことだよ。あ、あと、ベアトリーチェさん?もう俺の頭、下ろしてもらっても構わないですよ?」
「勇者が起きるまで下ろせないの、これはパパからの命令だシ」

 あのご老体は何を考えているんだ?あれか?俺を殺したいのか?死因は「萌え死」とか「キュン死」ってやつか?くそぅ、策士め!
「では葵殿、私、ヴェベールが簡単に分かっている範囲でですが、この国の情勢と、魔族の説明を申し上げさせていただきます」
「えっと、あの、ね?もうちょっと砕けた態度をしてくれると、ね?」

 いやもうほんとに、俺ってそんな高尚な人間じゃないからね?
 例えるなら「このまえ公園で葵不律くんを見つけたと思って、近寄ってよく見てみたら犬のフンだったわー」くらいの人間ですから。凄く、居たたまれないです。はい。

「まずは魔族と人間の違いからでございます。最初に申しあげておきたいのは、魔族の中には私たちの様な人間に似た姿を持った者達もいますが、種族的には全く違う存在でございます。もちろん人間と魔族では子を成すことも出来ません」
「へー、何か地味な驚き」
 いや、別にガッカリしてないけどね。ベアトリーチェから露骨に目を反らしてる?う、うるせえやい。

「でもパパが言ってたけど、魔王様の姿をした状態だったら、不律さんとワタクシでも子供が出来るトカ」
「一体何者なんだ、あの爺さん」
 いや、別にほっとしてないよ。何ださっきから言いがかりつけてきやがって、このやろぅ。

「詳しいことを言うと魔族と人間には様々な違いがございますが、一番大きな相違点は『自力で魔力を生み出せるかどうか』ですね」
「え?」
「魔族は自分で魔力を生み出すことができ、人間はそれが出来ません。魔族は体の機能のほとんどを魔力で補っているんですけれど、人間は体外から食料を摂取することで身体機能を整えています。なので魔族は全くとは言いませんが食料を必要としないんです」
「え、でも、それじゃあ………」

 チラリと俺がシルビアに目を向けたのが分かったのか、ヴェベールが気を使ってか一瞬の間を置いた。
「そうですね、勇者はかなり特殊な存在です。人間なのに、唯一自らの力で膨大な魔力を生み出すことが出来るんです」
「ってことは、アイツも魔族ってことにならないの?」
「いえ、魔族は角を持っています。魔族はこの額に持つ角によって魔力をコントロールすることが出来るんです。その角が無いということは、勇者が完全に人間だということです」
「じゃあ、魔法を扱える希少な存在の人間は、勇者だけっていうことなのか」
「うーん、その話はこの国の情勢も含めた話になってくるのです。少し時間をとってしまいますが、よろしいですか?」
「え、あ、うん」
「えー、それでは。まず、葵殿は魔結晶についてご存知でしょうか?」
「あ、あー………知ってる」

 あれだ、シルビアから渡されたあの水晶のようなものの事だ。
 いくらポケットを探してみても見当たらない。あの一連の騒動の中で、どこかに落としたんだろう。
「魔結晶というのは、自然界で本当にごく少量数生成される結晶の事です。これは多量の魔力を保有する結晶で、その希少さは、爪の先程度の大きさの魔結晶を見つけるだけで、人間界では一生働かないで暮らせるくらいのお金が手に入ると言われています」

 え、なにそれ、チート?
 やばいやばい、そんな大層なものをシルビアはポッキリと折って、俺はその欠片を無くしてしまったのか?自分の無神経さに軽い恐怖を覚える。
「人間は自ら魔力を生成することは出来ませんが、保有し、魔法として魔族と同じように使用することが出来ます。その魔力を補う道具として用いられているのがその魔結晶なんです」
「じゃあ、その魔結晶があれば、結構なエネルギーを得ることが出来るんじゃない?」
「そうなんです、恐らくそれが、現在の人間側の軸となる政策だと思うのです」

 少しだけ、空気がピリついたのが分かる。
 鬼たちの表情もそうだが、ベアトリーチェの表情がより一層キツくなっていた。

「………別に、無理して話さなくてもいいんだけど」
「あ、いえ、申し訳ございません。これは葵殿にも知っておいてほしいことですので、最後までお話しさせていただきます。ここからは私たちの推測、いえ、カストディオ様の考察なのですが、恐らく現在人間側は安定したエネルギーを確保する為に、膨大な魔力を持った魔結晶を本格的に採掘する為に動き出しているのだと思われます。葵殿の握りこぶし程度の魔結晶で、一つ二つの国のエネルギーをおよそ百年は供給することが出来ると言われていますから。そして、魔結晶には魔力を溜めることも出来るのです」
「なるほど、そんで、魔力が減ってきたらちまちまと、また新しく採掘した魔結晶の魔力を補充しつづければいいのか」

「そのとおりです。ですが、補充する方法にはもう一つございます。それは、魔族を奴隷にすることで、絶え間なく魔力を補充し続けていく方法です」

 は………?
「ちょ、ちょっと待てよ。じゃあ今日、俺とアイツでカストディオさん達をここに転移させなかったら………」
「はい、恐らく私たち全員が今頃奴隷として、無理矢理魔族同士で子を孕まされ、死ぬまで魔力を供給させられていたでしょう。特にカストディオ様とベアトリーチェ様は、解剖や実験の繰り返しを行われていたかと。皮肉にも、勇者に私たちは救われたということです」

 ベアトリーチェの名前が不意に出てきたので、俺は見上げるようにして彼女の顔を見る。
 やはり相変わらずその表情は曇ったまま。俺のその視線に気づいたのか、ベアトリーチェは「大丈夫ですヨ」と小さく呟いた。

「ん………話を、続けてほしい」
「分かりました。少し前にも軽くお話ししたと思いますが、カストディオ様とベアトリーチェ様は『ヴァンパイア』と呼ばれる、魔力、知能共に最上クラスの魔族です。ヴァンパイアは『結界』という極めて珍しい魔法を使用することが出来る唯一の種族でございます。この『結界』は実に汎用性が高く、様々な使用方法がありますがここはあえて省きますね。その使用法のうちの一つに、『探知』といった効果を持つ使用法があるんですが、人間達が一番求めている技術がこれらしいのです」


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