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「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

ノベルバユーザー267281

第十九話 ただいま

 人が空を飛べるわけないじゃんと、昔の誰かは嘲笑った。
 俺は今そいつの顔見て指さしながら笑いたい気分だね。だって俺羽もないのに生身でチョー飛んでるもん、人の姿はしてないけど。

「葵様は、本当は、心優しきお方だったのですねっ………」
「我々に、命を捨てるなと仰って下さり、その上無報酬で仲間たちを助けて下さるとはっ、グズッ………」
「我らから仕掛けた此度の戦闘の傷まで治療して下さるなんてっ………」

 これがホントの鬼の目にも涙ってやつか。
 空中飛行しながら鬼達がワンワン泣いているんですが。何なのコイツら、スゲー頭悪そうだぞ。

「ワ、ワタクシはまだ許したわけじゃないからネ。助けてくれるのは感謝するけど、魔王様を侮辱したことだけは許さないんだかラ」
「あ、あー………そのことなんだが、その、悪かったな。俺も頭に血が上ってて、ついな。俺も、大事なもの侮辱されたらやっぱ怒るだろうし、なんというか、ごめん」
「ッ」

 人が米粒くらいに見える位置まで飛び上がりながら、俺は後方に位置するベアトリーチェに顔を向けた。あ、もちろんまだ目は見れないですよ。
 すると、ベアトリーチェの顔が真っ赤にプルプルと震えていた。え、俺また何か怒らせるようなこと言いましたか!?

「ウ………グヌヌ……、ワ、ワタグシも、指とか折っちゃってすびばぜんでしたっ………」

 えっとぉ。これ、許されたってことで良いんだよね?
 こうやって改めて接してみると、魔族って素直すぎる生き物だな。俺みたいな汚染物質がここに居てもいいのかしら。
 そういえば、もしかして俺、コミュ障脱したのかも!と思うことなかれ。これはたぶんあのハデスと接していた時と同じだ、鬼とか、頭から角生えた女性だからたぶんある程度大丈夫なだけだろう。

「葵殿、誠に勝手ながらここでお願いしたいことがもう一つございます」
「………なんかその『殿』付けされるっていうのは妙に恥ずかしいな。まぁ、いいや。それで、何?」

「我らは葵殿の元の姿が人間だということを知っており、それを理解したうえで魔族の未来を救っていただきたいと申し上げました。しかし、最初に我らが葵殿にご無礼を働いたように、魔族の者も葵殿が元は人間だと知れば、混乱を避けられないのは必須。そこで、葵殿には自らが人間だと露呈してしまわぬように振る舞っていただきたく思います」
「あぁ、まぁ、そうか」

 確かに、もう指の骨を折られるのは勘弁願いたい。
 とはいっても、俺がこの姿をどれだけ保っていられるのか、俺自身まだ知らないんだよな。眼鏡のボタンが解除する際のスイッチだということは分かってるんだが、この姿が自動的に解けてしまわないとも限らないわけだし。

「無論、我らも葵殿の元の姿を隠すため尽力致します。話の通じる魔族には、我らから葵殿の説明をしておきましょう。どうか、よろしくお願いいたします」
「………断るメリットもないし、出来るだけ頑張ってみるよ」

 人の目を気にして生きていくのは、慣れたもんだし、今更不安になることはないな。
 それよりも、お風呂の件だ。
 ベアトリーチェも、鬼三人組も、風呂や寝床を俺にいくらでも提供してくれるとは言ってくれたんだが、そこでシルビアの名前も出すと急に雲行きが怪しくなった。それもそうだろう、魔族最大の仇に何かを提供するなんて、逆にできる奴の方が性格的に問題がある。俺みたいな。

 だからと言ってシルビアを切り捨てるなんて今更できるわけないし、せっかくの『お風呂』を諦めることもしたくない。なんて欲深い男、葵不律。自分で言ってちゃ世話ないな。
 別にもてなしてもらいたいわけでも無いから、最低限の環境さえ整ってくれてれば、あとは自分たちで何とかするんだけど………って、それも図々しいか。
 とりあえず今のところは何とも言えないってのが現状だ。話を聞いているに、生き残った魔族の残党をあらかた集め、それらを率いているのがベアトリーチェの父であるカストディオってやつらしい。詰まるところそのカストディオってのをどうにかできれば、ある程度の譲歩はしてくれるかもしれない。

「とにかく、勇者と魔族の喧嘩を止めない事にはどうにもならんよなぁ。さて、と、方角はこっちで合っているんだっけ?」
「はい、もうそろそろだと思います」

 ………敬語、慣れん。そんなに畏まらなくても良いって言ってもたぶん無駄なんだろうけど。今までクソ同然で、ヒエラルキーの最底辺、食物連鎖に置き変えれば植物と同じ位置に存在してきた俺が、太古から人々に恐れられていた鬼に敬語を使われることになろうとは、人生って何が起きるか分かりませんね。

「そういえば、名前をまだ聞いてなかったけど、失礼じゃなかったら教えてくれませんかね?」
「我らの名を、ですか?」
「ダメなら別にいいんだけど」
「いえ、お気を使わせてしまい申し訳ない。全然構いませぬが、何故そのようなことを聞かれるのかと思いまして。我らの名など取るに足らない物事の一つでございましょう?」

 うーん、やっぱりここら辺が人と魔族の違いというところなんだろうか?
 人間ならだれもが知っているあの悪しき風習「自己紹介」。それを知らないとか、うん、俺も魔族に生まれたかった。何が楽しくて大勢の前で自分の名前と、当たり障りのないステータスを発表しなくてはいけないのだ。どーせこの「自己紹介」の時間だけで誰かの名前なんて覚えられるわけないだろ。俺、覚えれたことないぞ、佐藤君ぐらいだぞ。

「取るに足らないなんてことは無いけど。いや、名前を知っておくだけでもこれからの意思伝達に役立つかなと思ってね。ほら、俺が人間だってことも隠さないといけないんだし」
「………ふふ、なるほど、『名』は意思伝達に役立つ、か。魔王様と同じことを葵殿も仰られるのですな。だったらなおさら名を話さなければなりますまい」

 飛ぶ速度を少し落として、俺は体ごと後ろに振り向いた。後方の四名は綺麗に並んでいる。
 この鬼三人組の名前が、閻魔大王様の一の子分たちと同じだったら面白いなとか、そんなことは別に考えてないでおじゃる。

「予め、話しておきます。我々魔族のほとんどの者の名前は魔王様から直接いただいたものですので、本来ならば軽々しく他人に話すようなことは致しません。名を自ら打ち明けるということは、心を許したことと同義だということを知っておいてもらいたいのです」
「分かった」

 そんなに仰々しく扱ってしまったら、『魔王様』の意図した意思伝達が上手く働かないんじゃあ、とか思ってしまう俺はいけない子。

「自分の名はオートゥイユと言います」
「私の名前はヴェベールです」
「我の名はマナドゥと申す」
「ワタクシの名前はベアトリーチェ、どうぞベアと呼んで下さいネ」

 おぅふ。一気に言われると記憶が追い付かないぞ、名前を覚えるとか苦手なんだよなぁ。でもなぜかポ○モンは全部言えるから不思議だ。
 ベアトリーチェは覚えたんだよ。問題はこの三人、魔族から見たら違いが分かるんだろうが、俺からすれば三人とも同じ顔に見えるんだよなぁ。
 下手に名前間違ってしまうと、絶対に不機嫌になるだろうし。おいおい慣れていこう。

「分かった。じゃあ急ぐか、状況は俺が思っている以上に危ないんだろ?」
「お願いいたします」



 ここは、野原だった場所。
 短く生えそろっていたはずの草花は広い範囲で焼け果て、土は大きく抉れ、むせるほどの焦げ臭い煙が辺り一帯に上っていた。

「命を捨てる覚悟、ですか。無駄に大技を連発させることがそうだとでも?何を企んでいるのですか、あなたらしくもないですよカストディオ卿」
「クッ………この、化け物め」

 カストディオはヒューヒューと気管を鳴らし、苦しそうに全身で息をしている。体中に戦いの跡である裂傷や火傷が、あまりにも痛々しく刻まれていた。
 それと対照的なのはシルビアの方だ。荒れ果てた土地の上でも映えるほど、神々しい銀色を全身から放ち、その身に受けていたであろう傷はみるみるうちに回復していく。『勇者』、かつて魔を砕き民を救った英雄の姿は今なお健在である。
 シルビアの持つ剣の先が、地に膝をつくカストディオの眉間に向けられた。

「分かりません。この程度の勢力で、例え全員が命を捨てる覚悟を持っていたとしても、私に勝ち目がないことくらい賢いあなたなら分かっていたはずでしょう。あなたは、人間の血を摂取していないとも言いましたね。そんな本調子ではない姿で、勇者である私と戦いに来る。罠があるとしか考えられませんが、どうでしょうか?」
「フン………生娘が、上から物を言うでないわ。儂の方こそ、貴様の行動が不可解じゃ。昔は何の躊躇いもなく、行く手を阻むものの全てを斬り伏せてきた貴様が、なぜじゃ。傷つけることはしても、どうして我らの命を奪おうとはしない」
「………気に喰わないから、でしょうか。私も自分に驚いているんです、なぜここであなた達を殺すことがなぜできないのか。つまりはそういうことです、悪党を殺さない理由なんて気に喰わないからで十分です」

 カストディオは鼻で笑う。
 殺すことは出来ないまでも、眉ひとつ動かさずに切り伏せていくことは出来るのかと。辺りを見渡せば、傷を負った仲間たちが気を失い、激しい痛みに対してくぐもった声を上げている。
 戦場での迷いは、必ずその身を亡ぼす。カストディオの見る光景は、目の前ではなく遥か先。

「言ったじゃろうが、命を捨てておると。迷うものが迷わぬものより先に、終着点へとたどり着けると思うとるのか?」
「その迷いなき意思が、必ずしもゴールに繋がってるわけではないと、考えないのですね」
「若いくせによく言うわ」

 カストディオは、口の中に溜まった血を乱暴に吐き出し、もうとっくに動く事を止めた四肢に力を込める。錆びついた歯車を無理矢理回すように、ギシギシと体中が悲鳴を上げていた。
 明らかなる不自然。シルビアは何らかの罠を危惧したうえで、今動き出すより、攻撃や周囲の変化に対して構えていた方が良いだろうと考え、腰を落とし剣を構える。そして何より、今のカストディオにならば、例え自分が後手に回ろうとも、完璧に彼の攻撃に対処できる自信があった。
 辛うじて立ち上がったカストディオが両の手の平を合わせる。傷つきながらも衰えないその気迫で、ビリビリと空気が震えた。
 シルビアは目を逸らさない。一体どこに残っていたのかというほどの魔力がカストディオから溢れ出し、やがてそれは膨大な「力」を形成していく。

「儂の、カストディオの策は、これからじゃ………」
「………何があなたを、ここまでさせるのですか」

 予想をはるかに上回る敵の行動に、シルビアは思わず呼吸を忘れてしまっていた。
 辺り一面を、カストディオの魔力の結晶である真黒の球体が浮遊する。その一つ一つの球体が、シルビアだけに向けて殺気を放っているようであった。
 『──パンッ』と一つ、柏手が響く。

「勇者よ、きっとこれもお主には効かぬのだろうな」

 空気が、動き出す。
 カストディオの命を削り出した魔力がシルビアに牙をむく。爆発に次ぐ爆発が一人を集中的に襲い、辺りの砂埃の全てが巻き上がる。呼吸なんて出来やしない、圧迫された空気が怒涛のように押し寄せ、地震を錯覚させるほど足元が震える。

───それでも、勇者は落ちない。

 月面の如くボコボコに凹んだ地に、一片の曇りも見せず銀色に輝くシルビア。見受けられる変化と言えば、多少息が上がっていることぐらいだろう。
 カストディオは、虚ろな瞳にそんなシルビアを写し、力なく地に落ちた。木の枝が倒れたような、あまりにも軽い音。かつてその名一つで人々を震え上がらせた魔族、カストディオの姿はもうどこにもない。
 文字通り虫の息。一気に老け込み、乾ききった灰色の肌。細く、弱々しい手が、土を引っ掻いた。

「このまま朽ちるのは、あなたも望んでいませんよね。せめてもの情けです、私が介錯を務めます」

 勇者として、全力で切り捨てる。それが、シルビアの今の心内にある全てだった。
 銀色が増して、シルビアの持つ剣の刃が、持ち主とさほど変わらぬほどの大きさをもった大剣へと変化する。
 大きく地面を右足で蹴った。一足飛びでカストディオに迫る、流れ星を彷彿とさせるその姿で、シルビアは大上段に大剣を振りかぶった。


「───ただいま。ちょっとばっかり帰りが遅くなってしまった」


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