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「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

ノベルバユーザー267281

第十一話 痕

「………ごちそうさまでした」
「なんですか?、それ」
「食べる前に言った『いただきます』と同じで、食べ物への感謝を表する言葉さ。お前もちゃんと両手を合わせて『ごちそうさまでした』って」
「え、あ、はい。ごちそーさまでした」

 なんか俺、人としてとかじゃなく、生き物として強くなれたような、そんな気がする。
 水と薪と、どっかの家の前に置いてあった鉄串を持って戻ってきたら、体のあちこちが血塗れのシルビアと、皮が剥がれ、内臓が取り除かれ、頭が無くなってしまっているギャースが俺を待っていた。
 もう、その光景を見た瞬間に俺の理性が食欲をシャットアウト。もう二度と鶏肉は食べないと神に誓ったぐらいの衝撃が俺を貫いた。

 そして、今になってだが、ひとつ分かったことがある。
 理性よりも、本能の方が強いんだね。………もう、ほんと、おいしかったですごちそうさまでしたありがとうございました。次は塩と胡椒をかけて食べたいです。

「それより、そろそろ寝たいんだが、この体のままじゃなぁ」

 元々癖っ毛のある俺の髪には、砂埃が混じってギシギシと絡まっている。肌は例の砂と汗でベトベト。シルビアはこれに加えてギャースの血まで付着してるんだから。というか早速服を一着無駄にしやがったなコイツ。俺の努力の結晶をこの野郎。また明日買いに行かなくちゃならないのか、考えただけで死ねるな。

「そうですね、私も流石にこの状態じゃ寝れません」
「まー、お前は確かにな。じゃあ、早くまた家に入って濡らしたタオルで髪とか体を拭いておけよ。俺はその間にここの片づけとかやっておくからさ」

 鉄串、返さないとな。めんどくさいから洗わずに返そう。

「そんな、悪いですよ」
「俺も早く体拭いて寝たいんだ。それに詳しくは知らないけど、今のお前はたぶん指名手配中だぞ。いいから、大人しくしてろ」
「うぅ………はい」

 もうとっくに鎧が解除されているシルビアの体は、やはり俺の体と比べると小さくて、しゅんと項垂れている今の姿は、先ほどの「勇者」の面影が全く見受けられなかった。
 とぼとぼと仮宿に入っていくシルビアを見届け、ギャースの血が混ざった水で火を消した。パチパチと燃えていた音が消えて、一気に辺りが静かになる。夜空を見上げて思う、こんなに星って近かったんだなって。あっちの世界の空気がいかに汚れていたのかがよく分かる。

 とりあえず、さっきあれほど派手なギャース狩りをしたんだ。追っ手なんかに感づかれてもおかしくはないだろう。
 薪や骨なんか諸々は、適当に埋めて隠しておこう。それが終わったら………あぁ、鉄串か。

「どこの家から鉄串を借りてきたか忘れたから、結局それっぽい場所に置いてきてしまった。ま、いっか。だって町並みとか家の模様とかほとんど一緒だし、俺は悪くないと思う、うん」

 夜も更け随分暗くなってしまってる。だから、道や町並みが全く違って見えてもしょうがないよね!
 そんなこんなで、俺なりの自己反省を頭の中で繰り返していたら

「………仮宿の前についたな」

 この扉の向こうでは、今まさにシルビアが………?。
 生々しく、俺の喉が生唾をゴクリと飲み込む。これは口内に残っていた肉の油を飲み込んだわけであって、やましい気持ちで飲み込んだわけでは断じてない。うん。

 ………ふっ、どうせ童貞をこじらせてしまっている奴等は何も気にすることなくこの扉を開き、桃色展開に胸ふくらますのだろう。今まさに、そんな期待を抱いている青少年もいるんじゃないのかい?だがしかし、童貞をこじらせていない俺はお前達とは違うぞ。さっきから誰に向かって言ってるんだ俺。

 はっきり言って、シルビアが仮宿に戻ってから随分な時間が経過していて、流石にもう体は拭き終わっている頃だろうと俺は思う。だからといって、この扉を開くなんて浅はかなことはしない。俺は知っている。この状況下はいわゆる「フラグが立った」というやつだ。
 俺がそんな、「テヘペロッ、みんな大好きハプニングイベント☆」みたいなフラグを回収すると思うか?俺は思わない。

 決して、今俺が女の子の生肌を見てしまったら、悶々として夜眠ることが出来なくなるとか、そのせいで明日は過労で倒れることになるだろうなとかいう予測は全くしていない。そして俺は断じてこじらせてなどいない。

「よし、まずは確認作業からだ」

 息を吸って、吐く。よし、そして扉を二回ノックだ。

「なー、もう入っても良いかー?」
『え………えっと、ちょうどよかったです。入ってください、不律さん』
「おー」

 ほらな、これで完璧だ。
 本人の了承を得たということは、もうすでに扉の向こうのシルビアは体を拭き終わっているという事さ。残念だったな貴様ら。


───ガチャリ


『あ、不律さ───』
「………………」


───バタンッ!


 あ、ありのまま今起こったことを話そう。俺はシルビアに、「もう大丈夫か」という意を訪ねて、「大丈夫」という意で返事をされたので扉を開けた。しかし、扉の向こうで待っていたシルビアの姿は、全く大丈夫では無かったんだ。何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった。もう、こじらせてるとかこじらせてないとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。もっといやらし、恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

「何でお前は服を着てないのにドアを開けて良いように言った!?」
『だ、大丈夫ですよ、いくらなんでも下着はつけてますし』
「そういう問題じゃねーよ!」

 下着はつけてるっていうか、下着しかつけてなかったよね。

『あの、今こんなこと頼めるの不律さんしかいないんです。みっともない姿を見せてしまって申し訳ないんですけど、ひとつ、私のお願いを聞いてくれますか?』
「な………何かあったのか?」
『いえ、実は背中にも血などの汚れがついているようでして、石鹸も持たない今、不律さんに私の背中を拭いてほしいというわけなんです』

 そういうことか。しかし、良いのか、これ?
 なんというか、胸熱というか、据え膳食わぬは男の恥というか。まぁ、据え膳食う前に、男ではなく人としての礼節をもって対応した俺は、この扉を開ける権利を十二分に持っているはずだというか。
 何を言ってるのか分からない?では大丈夫だ、俺も分かってない。
 ていうか、背中にまで返り血がつくってどゆこと?

「分かったよ。じゃあ、開けるぞ」
『あ、はい』

 もう一度、ギィギィと不快な音を鳴らす扉に手をかけて、ゆっくりと引く。
 光源もなく閉鎖的な空間である為か、部屋の中は夜の外よりも暗い、窓枠から差し込む月の光だけがこの部屋を何とか見える程度に照らしていた。
 そんな暗い部屋の扉を開けて俺は中に入ったわけだ、すると必然的に開かれた扉から差し込む月明かりが一番大きな光源となる。

「っ………」

 思わず溜め息が出た。感嘆の溜め息だ。さっきまでゴチャゴチャしてた頭の中も、いつの間にか空っぽになる。
 そう、それほどまでにシルビアは神秘的なまでに綺麗であった。

 扉を開いた俺に背を向けるかたちで、元々部屋にあった背もたれのない小さな椅子に腰かけているシルビア。
 流れる様に伸びている銀色の長髪は、月の光を淡く返しており、まるで自身がその透明な銀色の光を周囲に滲ませているかのようであった。そしてその銀髪から覗かせる白く細い腕は、健康的に引き締まり、横向きの整った顔立ちは月明かりと相まって、鮮やかな濃淡を描き出している。
 薄暗い空間にいるせいか、彼女の細部を確認することは敵わない、だがそれが良い。

「あ、あの、不律さん?」
「………え?あ、あぁ、すまない」

 体を少しすくめるシルビア。その俺を呼んでいる声は細く、彼女が寒がっているのだと気づいてすぐさま扉を閉じた。
 より一層暗くなる室内。目が慣れるまでしばらくかかりそうだなこれ。

「外の片づけまでしてもらったというのに、本当にすいません。私は厚意を享受するばかりで………」
「よく分からないけど、気にするな。なんか、男として調子が狂うわ。こういう時の女の子っていうのは、恥ずかしがって『見ないでください』って言ってるくらいが調度いいんだよ」

 分かったような風を装っているが、念のため言っておこう。
 この女の子情報は、ラノベやアニメで仕入れたものです。現実の女の子がどうするかは知りません。

「これ以上、私が不律さんに迷惑をかけるわけには」
「あー、はいはい、じゃあそれでいいよ。とりあえず真っ直ぐ背中向けてくれ、すぐ終わらせるから」
「う………申し訳ないです」

 シルビアは自身の銀髪をまとめて右肩に寄せ、それを前に流す。あぁ、水で濡れて湿っていたからこんなにも綺麗に月光を返していたのか。納得だ。
 俺は彼女の横にある桶に掛けてある濡れた布を手に取り、水に一回つけてそれを捻じり絞る。
 下着をつけているとは言っていたが、胸にしているのはどうやら『さらし』のようなもので、俺が背中を拭きやすいようにと気を使ったのであろうシルビアは、今まさにそのさらしの布地を解いていた。
 あー、ヤバい、なんかドキドキしてきた。一回脇腹でもつねっとくか、いててて、よし。

「拭くぞ」
「あの………はい」
「?」

 シルビアが何か言いかけようとしていたが、ま、いいか。
 絞った布を四つ折りにして片手に乗せ、シルビアの背後に近づく。


───ズクン


「っ!?」

 思わず両手を瞬時に桶の中へと突っ込んでしまった。塞がっているはずの火傷跡が疼く。水の中に手を入れていても痛みが和らぐことが無いことくらい知ってるはずなのに、クソっ。
 もう一度シルビアの背に目を向ける。

「おい、それは一体?」
「っ………やはり、こんなもの見せるべきでは無かったですよね」

 痛みはひとまず落ち着いた。もう一度布を手に取ってシルビアの背後に立つ。
 小さな少女の、小さな背中には、あまりにも痛々しく残った大小さまざまな傷跡が多数刻まれていた。恐らくこの傷は背中だけにとどまらず、体中に広がっているのであろう。裂傷、火傷、黒ずんだ痣、思わず目を背けたくなる現実の数々、一体この世界は彼女に何を望んでいるのだろうか。
 シルビアの体が小刻みに震えている。たぶん、怯えているんだ。

「聞いてもいいか?」
「………はい」
「この傷を見せたのは、俺が初めてなのか?」

 シルビアが小さく頷く。


「どうして、俺にここまで見せようと思った?今日会ったばかりの、俺に」
「………それは、不律さんが、私のことを本当に知らなかったから、でしょうか。勇者として世界中で戦ったシルビア・ランチエリの名前を、不律さんは全く知らないようでした。肩書も、名声も、全てを知らない状態の、ありのままの私に、不律さんはとても優しかった。だからでしょうか」
「そっか………まぁ、お互い大変だな」

 俺はそう言って、濡らした布でシルビアの背中を擦る。

「ひゃっ!?」

 シルビアは驚いた様な声を上げ、逃げる様にビクンと体を反らした。

「ん、どうした?」
「そ、そんな、何してるんですか!?」
「何って、お前が背中を拭いてほしいって言ったんだろうが。っていうか、どうして背中にまで血が付くかな、どんな血抜きをしたんだよ全く」
「それは、そうですけど、でも、もういいんです。こんな醜い体を無理に洗っていただかなくても、もう大丈夫ですので。だから、その、私から頼んでおいて本当に申し訳ないですけど………」
「よいしょ」
「うひゃぁっ!なな、何でっ、私の話を聞いていましたか!?」
「え、あー、うん。聞いてた聞いてた」
「絶対聞いてないですよね!?」
「はぁ………」

 醜い体とか、そんなのあの馬鹿猫に比べれば全然マシだ、とか言ったらアイツに怒られるかな。ははは。
 まぁ、今までずっとひた隠しにしていた傷跡なんだし、心配になる気持ちも分からんでもないけど。それは何というか、杞憂なんだよなぁ。
 ぼっちで最底辺の俺だからこそ分かる。

 案外他人ってのは、思っている以上に自分を見ていないんだ。だから、あまり自分の見てくれに気を遣わなくても大丈夫!
 ………って、あれ?これって俺みたいな最底辺ぼっちにしか通用しない法則なのか?ま、いーや。

「ほら、これを見てみろ」

 俺は右手をシルビアの顔の前に回して、火傷跡のある手の甲を見せた。

「………これは、どういうことですか?」
「お前だけじゃない、俺も一緒だ。だから、その、大丈夫だろ?」
「し、失礼でなければ、どうして不律さんが、火傷をしたのか教えてくださいませんか?」
「あぁ、体洗い終わって、寝る時になったらな。とりあえず気にするな。見てくれがどうだったとしても、俺はそんなもんに興味は無い。むしろ、俺にはお前のその傷すらとても綺麗に見える。だから、大丈夫だろ?」
「っ………わ、わかりました。ありがとう、ございます」

 俺の友達がアレだからな。ははっ、俺もシルビアもあの馬鹿猫も、本当、お互い苦労してるね。
 こういうとき、どっかのおモテになるイケメソ主人公さん達は、もっと気のきいたセリフでフラグを乱立させるのだろう。だけど俺は『興味がない』とか言うのが精いっぱいだ。

 それからというもの、シルビアは何か言うでもなく、ただ大人しく俺に身を任せているだけだった。

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