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「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

ノベルバユーザー267281

第九話 弾き者


 雲一つない空に、まるで自分の存在を知らしめるかのように輝く太陽が一つ。石畳や赤茶色のレンガは、そのジリジリとした元気な日差しを己の身に吸い込んで、近くを歩く人々に向けてムワッと熱気を吐き出している。

 空気はとても乾燥しており、かいた汗もすぐに蒸気と化してしまっていた。

 日本のジメジメとした夏とは違うその暑さに不快感を抱くことは無かったが、それでもコミュ障ぼっち(準自宅警備員)の身にこの環境は辛すぎる。
 この地域の人々は、身を隠すように質感の悪いゴワゴワの布をその身に纏い、日光で肌が火傷しないようにしている人が多くいた。
 そして、そんな布地は持っていない俺とシルビア。

 まずなんとかお金を作らないといけないので、売り物になりそうなシルビアのドレスを質屋に入れることにした。元々居たあの世界では気候が冬だったため、幸い厚着のままでこの世界にまで来ている俺。ブカブカではあるものの、俺の上着やズボン諸々を応急対策としてシルビアに着させることで、何とかドレスを売ることに成功した。ちなみに俺の今のファッションは、真っ黒なレギンスと白い長そでのカッターシャツ。アホだ、アホがここに居るぞ!あ、俺か。みたいな状態である。
 対して、シルビアはブカブカの紺色のパーカーと、ダルダルのジーンズを着用している。どこの勘違いDQNだ貴様。まぁ、俺の服なんだけども。
 変態ドアホと勘違いDQN。早く服を購入しないと補導されるぞこれ。

「驚きました、まさかめがねで不律さんの呪いが解けるだなんて、めがねってすごいですね」
「………そうですね」

 質屋にドレスを売りに行ったとき、事情が事情なだけにシルビアを流石に人前に出すことは出来ないので、やむなく俺が売りに行く羽目になったのだが………
 奇妙な変態が高価なドレスを持ってきた、まぁ、人の目にはそうにしか映らないわけで。ドレスを渡したら、貨幣がたくさん入った麻袋を乱暴に渡され、お願いだから早く出て行ってと言われた。大丈夫です、僕はおばさんには興味ありませんよ。勝手に勘違いして「犯される」とか叫ばないでもらえますか?
 おかげでコミュ障ぼっちの俺のHPはもう0です。早く教会で復活させてください。

「………大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」
「早く、服かローブみたいな布地を買いに行こう」

 もういっそ、HPが0の状態でダメージを受けた方が良い。なまじ多少回復してから戦い(服やローブの購入)に臨む方が辛い。

「でも、まさかだよな。眼鏡のあのボタンが元の姿に戻るスイッチだったとは」
「良かったじゃないですか、呪いから解放されたわけですから」
「あぁ、でも俺をこんな体にしたアイツだけは許さん」

 長年、コンタクトではなく眼鏡を愛用し続けた俺にとって、この眼鏡は俺の体の一部も同然。家族以上のつながりを持っているものだ。まぁ、家族のつながりってのはよく分からんが。
 そんな大切なものに、あのナマイキショタはこんなすちゃらか機能を付けたりしやがって。
 今度会ったらガツンと言ってあげなきゃな。うん。
 とりあえず眼鏡拭きを持ってくればよかった。砂埃でレンズの汚れ具合半端ないよ。

 しかし、シルビアは自分の置かれてる状況が分かっているのだろうか?
 処刑台に縛り付けられていたのだ、それ相応の事情を抱えていると思っていいだろう。自分から言い出さない限り、俺も聞きだそうとは思わないが。
 それに、俺の脳内では未だに、一人に寄ってたかって「殺せ」と雄叫びを上げていた大衆の声が離れない。
 生きてきた国や時代観の錯誤のせいかもしれないが、何があれほどまでに人々を駆り立てるのか理解できないのだ。
 しかし、何故彼女はこんなにも笑っていられるのだろうか?

「………何がそんなに楽しいんだ?」

 堪らず口から疑問がこぼれた。

「楽しそう、ですか?」
「あぁ、とっても」
「………不律さんは色々なところを旅なさっていたとか。でも私はそんなことしたことなくて、さっき言っていた『海』なんて文献でしか目にしたことはありません」
「お前勇者なんじゃなかったのか?魔物退治に方々を駆け巡っていそうなんだが」

「はい。村や町の奪還、魔物の大軍との戦闘、私が見てきた場所はどこも同じような場所でした。人間と魔物の死体がゴロゴロと転がっていて、鳥が死肉を漁ろうと空を覆っている、鼻に入るのは血と爆薬の臭いだけ、聞こえるのは様々な叫び声、毎日そんな同じ光景を見続けてきました。だからかもしれません、こんな風に平和で活気あふれる場所で、初めて王政に行動を全て制限されずに出歩くなんて。なんだかいけないことをしているようでドキドキしてますが、十分に楽しいです」

 フードを深くかぶっている小さな体のシルビアの顔が、今まさにどんな表情をしているのか見ることは出来ない。
 それでも俺に分かる事、それは、シルビアと俺の生きてきた世界が圧倒的に違いすぎるということだ。
 だからと言って、俺は自分のことを卑下するつもりは無い。俺だって死ぬほど辛い思いをしたのだから。しかしそれはシルビアだって同じこと、それなのに何故、お前はそんな目で世界を見ることが出来るんだ?何故、その目は曇らないんだ。

「では、私も聞きたいのですが、どうして不律さんは、私を助けてくれたのですか?」
「あぁ………何でだろう。たぶん、俺の友達に似ていたから、かな」
「友達、ですか?」
「俺にとって、たった一人の友達だったよ」
「………そうですか」
「………あのさ」
「なんですか?」
「服屋ってどこかな?」
「え、あ、あっ!あそこです、不律さん通り過ぎちゃいましたよ!」
「もう、人と話すどころか顔も合わせたくないんですが」
「じ、じゃあ私が行きましょうか?」
「それは駄目だ、それは、駄目………いや、もう逆に駄目じゃない気がしてきたぞ」
「それでは私、行ってきますね!」
「いやいやいや、やっぱ駄目だ!止まってくれっ!」

 先ほどから好奇心を押さえていたのだろうか、シルビアは嬉々とした様子で服屋への道へ戻り始めた。楽しいのは分かったから、お願いだから落ち着いてほしい。
 あー、もう。本当に放っておけば良かった、そうすればこんなに必死に今追いかけなくて済んだのに。って、なんかこれ前にも同じようなことを思った気がするな。

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