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「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

ノベルバユーザー267281

第三話 愛ゆえに 中編

「ねー、葵くんはさぁ、何で最近よく学校に来てんの?」
「………たまにしか来ないあなたに言われるとは思わなかったです」
「は?」
「何でもないです、はい」

 あの猫の所為で、いや、猫のおかげでよく学校に顔を出すようになった俺。
 担任の教師も、ここ最近の俺の出席率を不思議に思ったのか、一回職員室に呼び出されて理由を聞かれたりもした。そこは教師として素直に生徒の出席を喜んどけよ。怪しんだりするなよ。

 教師からの質問には、「受験前なので、今の自分に危機感を覚えて………」みたいなもっともらしいことを話せば、そこまで深いことは聞かれなかったな。
 しかし教師以外にも、ここ最近の俺を訝しむ人間はいるわけで。
 例えば、そう。この目の前にいる金髪男(DQN)なんかがそれだ。

「マジ、ほんとに最近のお前ムカつくんだけど。偉そうにしてさ、カビみたいなその地味顔で調子のんなよ」

 カビて。陰で言われてることはなんとなく気づいてたけど、何だか言い得て妙だな。
 しかし、「マジ」と「ほんと」という単語が一度の発言で出てくるなんて、これは相当怒ってるみたいだ。謝って、金でも払えば気が済むかな。

「………そんなつもりは無かったんですけど、すいません」
「何それ?」
「え?」
「棒読みとか、煽ってんの?」
「こ、これは俺がコミュ障だから──」
「オイ!!」
「グゥッ………」

 腹部が一瞬で、激しい痛みと強い圧迫感に襲われ、自分の胃から気持ち悪いものが逆流する感覚に襲われる。
 俺が苦しそうに呻きながら地にうずくまる様子を見て、金髪男は調子を良くしたのだろうか、少し機嫌が良さそうに顔を覗き込んできた。

「ねぇ、もしかしてさ。葵くんの下校道の途中にある、あの雑木林に何かあるの?」
「………っ」
「たまたま、先輩の車に乗ってるとき見えちゃってさぁ。葵くんが、林への道に入っていくのを」
「………何の話を、してるんですか?」
「しらばっくれんなよぉ、あの薄汚い猫の話さ」
「なっ、何で………」

「何でって、あの猫はもともと俺の家にいた猫だもん。一目でわかったよ、あの病気持ち猫だって。ウチのババァが飼ってたやつだけど、ババァが死んでからほんとに邪魔だったんだよなぁ。だから、適当に道に落ちていた箱に投げといたんだぜ?」

 いろいろ言いたいことはあった。
 自分の中に、初めて真っ赤な感情が沸き立つのを感じた。
 ここで、どこかの世界の主人公は自分の体の痛みを跳ね除けて、この目の前の存在に殴りかかるの一つでもするところであろう。
 でも、俺はそんな大層な人間では無い「葵 不律」である。交友関係は0に等しく、ヒロインなんて存在しない、底辺に位置する一般人だ。腹痛に悶え、気を込めた目線で見上げることすら敵わない。

『おい!そこで何をしてるんだ!?』

「チッ、担任かよ」

 俺のクラスではなく、この金髪男のクラスの担任教師が、人通りの少ない屋上へ続く階段の近くを通りすがった。その際に俺と金髪男のゴタゴタを発見したのだろう。
 悔しそうに俺を睨みながら、担任の教師から逃げる様に駆けていく金髪男。

「だ、大丈夫か?確か君は───」

 しかしなぜ、あのDQNはあそこまでイラついていたのだろうか。今までだったら、俺なんかまるで歯牙にもかけなかったのに。
 胸騒ぎがする。
 何か、全てが悪い方向に向かっているようで。



 今日も、雨だった。あの日を彷彿とさせる雨だった。
 あの日と違うことと言えば、傘を持っていることぐらいだ。しかし今、俺は雨に濡れるのも構わず全速力で走っている。

───ブゥゥウン!

「ッ、くそっ!」
 馬鹿みたいにボンボンと大音量の音楽を流しながら、横を走り去っていく黒い車が水を大きく跳ね上げた。俺の制服に、大量の泥水が染みる。
 もうここまで濡れてしまったら傘をさしてる意味も無い。開いていた傘を閉じ、もう一度走り出す。
 ただの杞憂であればいいんだ。そしたらいつものように食べ物を差し出して、その間に俺の独り言を聞いてもらって。

「ハァ、ハァ………」
「あぁ、葵くんか」
 そこには虚ろな目をしたまま、俺と同じように雨にうたれている金髪の男が立っていた。

「………何を、してるんですか?」
「はははっ、何をしてるんだろうなぁ」
 雨の所為か、その無駄に長い髪が濡れている所為か、その顔は笑っているのか泣いているのかよく分からない。

(あの、DQN野郎だよな?)

 すっかり生気の見えないその顔は、本当にいつものように俺を苛めている人間と同一であるとはとても思えなかった。

「あぁ、そうだ。ねぇ、葵くんはさ、自分の大切な人に裏切られたとき、大切なものを奪われたとき、どうする?」
「質問の意味が………よくわかりませんが」
「じゃあ、こういうのはどうだ?」

 狂気にも似た笑みを浮かべ、金髪男は雑木林の中へと駈け出した。

───ズクン

 手の甲の内側が痛む。
 俺の大切なもの。親から望まれずして俺は生まれ、誰にも期待されずに俺は育った。
 なのに何故、こんなにも俺の胸は締め付けられるのだろうか。

「何を、するつもりだよっ」

 金髪男が今から何をしようとしているのかは薄々分かっている。問題は、なぜそうしようとしているのか。なぜ、「あの猫」に危害を加えようとしているのか。
 でも、もうそんなことはどうでもいい。
 走れ。俺は、俺はまた一人ぼっちにはなりたくない。一度知ってしまったんだ、他の存在を自分の中に受け入れる安らぎを。
 馬鹿だろ?たかが一匹の、醜い猫一匹の為に必死で走ってる俺は、本当に馬鹿だ。

 木の葉が雨にうたれる音が、湿度の高い空気にやけに騒がしく響き渡る。
 ぐちゅぐちゅと鳴る足元の腐葉土は、びしょ濡れの体に更なる不快感を植え付けた。

「お願いします、その猫を離してくれませんか」
「………ははは、なんでこんな汚い生き物に惚れ込んでるんだよ」
「俺も、汚い生き物だからですよ」
「あぁ………それはいいな、それは、何だかすっげぇ頭にくるなっ!!」

 特に抗うでもなく、例の猫はだらりと肢体を下げ、首根っこを掴まれている。
 抗えないのだ、俺と一緒なんだ。きっと、怖くて怖くて仕方がないのだろう。いくら嫌いな雨にうたれようと、あの日、箱から出なかったのは外の世界が恐かったから。
 だからこそ、諦めた。いくら辛いことがおきようが、自分の中で諦めさえつけることが出来るのなら、また新しいことに怯えずに済む。俺の小さい頃が、そうであったように。
 金髪男は猫を持った腕を振り上げる、そして躊躇なく地面に思い切りたたきつけた。

『ギャッ』

 猫が小さく叫ぶ。金髪男は、追い打ちをかける様に走り出す。
 刹那、俺の体が動いた。

「なんの真似だ、このクソカビがぁ………」
「うっせえ!バーーカ!!」

 なけなしの声を振り絞り、精一杯抗う自分がいた。俺はカッコいいセリフも言えないけど、主人公みたいなヒーローにもなれないけど、でも、こればかりは諦めきれなかった。
 俺は倒れ込むようにして、金髪男の片足を抱きかかえ、その走りを止めた。
 勝算なんてない。だから、お願いだから逃げてくれ。散々俺が蹴られて殴られている間に、あの馬鹿猫、怖いと思うままに動いてくれ。

「っ!?──こっちに来るなよっ!!」
『フシャーッ!』
「イッてぇ!」

 体を強く地面に打ち付け、そんなに体も強くないくせして、猫は自分の身のことを一片も考えず、金髪男の腕に鈍い切れ味の牙を突き立てた。
 あぁ、馬鹿野郎が。
 何のために俺が痛い思いしていると…………。本当に、俺と考えることすら同じ───

「死ねやぁっ!」
「え?」

 腕に噛みついた猫は、濡れた木の幹に思い切り頭を打ち付けられる。この騒がしすぎる雨音の中、俺の耳には、はっきりと何かが砕けるような粘着質な音が聞こえた。
 毛の生えていない額から赤色が溢れ出し、醜い毛並に染みていく。牙は力なく腕から離れ、声もあげず、ただ濡れた腐葉土に体を落とした。
 俺は目を凝らすが、息をしている気配はないし、体はピクリとも動かない。俺は耳を凝らすが、あのいつもの情けない鳴き声を聞き取ることは出来なかった。

 俺はまた、ひとりから始めないといけないのだろうか?

 体全身に激しい痛みを蓄えながら、俺の肢体はゴロゴロと土の上を転がって行っていた。

(なんで…………?)

 あぁ、もう無理だよ。
 これから、たぶん、この痛みを抱えたまま生きていくことなんて出来っこない。

「たかが猫一匹でメソメソしてんじゃねーよ、俺なんかなぁ───」
「───黙れ」

 ………あれ?俺の体がまるで別物みたいだ。
 なんでこんなにも俺の体は煮えたぎっているのだろうか。なんで俺の手にはカッターナイフが握られているんだろうか。あぁ、俺が駆けだしたときにスクールバックの中身が全部外に出てしまったんだ。恐らくそれを拾って………
 猫は、あの馬鹿猫は、動いてない。
 俺が一体、何をしたっていうんだよ………。

「ああああああああああああっ!!」




 …………………………っ。

「ここは………?」
 鼻を抜ける土の臭い、少しでも体を動かそうとすると、俺の体はギシギシと叫び声をあげる。
 全身が気持ち悪い。耳に入ってくる雨音がやけに騒がしい。
 目を開けると、腐りかけの落ち葉、そして目線の遠く先には弱々しく横たわる醜い猫の姿があった。

「あぁ、そっか………」

 錆びついた歯車を無理やり駆動させるように、俺は体を起き上がらせる。全身の至る所に付着している泥は、今となってはもうどうでもいい。
 猫に近づく。
 俺は獣医でも何でもないが、この猫が死んでいると一目見ただけで理解することが出来た。

「いつものように、また一人ぼっちだな………」

 不意に手に握られている物に気づく。
 微かに赤色が刃に残るカッターナイフ。少し前の出来事が、頭の中でフラッシュバックした。

 猫が殺されたあの瞬間、俺は体中の力が抜けてしまい、それにより拘束からするりと抜けだした金髪男に胸部を思い切り蹴り飛ばされたんだ。俺が転がった先には、自分がぶちまけていたバックの中身が散乱している。

 そこからはよく覚えていない。ただ一つ分かっていることは、俺はこの手に持ったカッターナイフで、アイツを本気で殺そうとしたということだ。

 結果的には、ボロボロの状態の俺のカッターナイフなんて、軽く相手の肌を切っただけだ。そのあとはお察しの通り、俺は返り討ちにされた。気絶するほど強く、何度も殴られた。

 俺は、この手で、人を殺そうとしたのか?
 強く体が震える、カッターナイフは自分の見えない遠くまで放り投げ、両手で自分の体を抱きしめる。


 怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


 涙があふれ、嗚咽がこぼれる。
「俺は、俺は、どうすれば良かったんだ。一体これは、どういうことなんだよ………」
 猫の死体に涙が落ちる。俺の叫びは、もう、誰にも届かない。
 分からない。これは一体、どういうことですか。





 何で、俺の背後に、包丁が心臓に突き刺さった金髪の男が、倒れているんですか?

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