アゲハは骸の夢を見る

不動ジュン

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「お前さ、どうせモテるだろ」
あくまでもさりげなく、といった風に芦谷あしやがボヤいた。聞き逃すことなく俺は返す。
「知るかよ。基本興味無えし」
「勿体ないなぁ……そちらさんだって、選び放題じゃねーの?あ、もしかして女じゃなくてオトコ好きか?」
「……、無えよ」
「だろーな…はは」
 芦谷はそうケラケラと笑って、目にかかる前髪をさらと払った。赤茶けた毛先が西陽を透かして、色も方向も不揃いな光が俺の瞳を刺す。
 ……冗談じゃねえ。
「お前もモテてんだろ?遊びすぎんじゃねえぞ」
咄嗟、そんな言葉を口にした。
芦谷はちょっと驚いたように目をくるりと動かした。
「はあ?なんで俺が」
「その…見た目だよ」
 率直に感想を言いそうで焦る。
 すかしたようで真っ直ぐな瞳も、色の白い見た目にも滑らかな肌も、華奢ながらどこもかしこも整った端正な容姿も。
「……良いもんじゃねえさ。それこそ遊べるほどにはな」
 このクソ生意気な口の利き方も。
 いっそ胸くそ悪いほど、綺麗だった。


 壊れちまえよ。
 欲しいと、思う自分ごと。





「あしやくぅーん、今日この後ひまぁー?」
「なんだよ…きもっちわりい声出しちゃって。……空いてるけど」
 よし。
 口実も言い訳も後回しだ。
「俺ん家、来いよ」
 芦屋あしやかなめ
 俺はお前を、今すぐにでもぶっ壊したい。


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