ファイブレジェンドシリーズ第一部「ラース~哀しみの連鎖」

秋飛

プロローグ1

 草木が焼け焦げる嫌な臭い。
 飛び交う悲鳴と怒号。
 消え行く声。
 微かに聞こえる草をかき分ける音。その音は次第にこの場から遠ざかる。しかし、その後ろからその音を追いかけるようにして、七つほどの音が近付いていく。
 その音等が向かう先には森がある。後ろの七つほどの音から大きな声つが飛んできた。
 「森へ逃がすな!絶対捕まえろ!!」
 どうやら何者等が何かを追いかけているようだ。
 追われる方の何かが逃げながら小さな声で呟いた。
 「クソッ!……。絶対捕まってたまるか。俺は生き抜いて見せる。生き抜いてあいつ等をあいつ等を……」
 憎しみと嘆きが入り混じった声でそう言いながら、茂みの中を掻き分けながら森へと進み行く彼の目の前には開けた空間が広がる。その十メートル先には彼が目指していた森がある。
 「あと少し、あと少しだ。あそこまで辿り着ければ……」
 彼は勢い良く開けた空間を森へと駆け抜けていく。森まであと三メートル……。次の瞬間、彼の右足に激痛が走りその場で倒れ込む。
 「アアアァァ……!!」
 余りの痛さに声を殺しながら悶える。悶えながらも右足を見ると、矢のように細い槍が右足を貫いていた。そこまで確認すると「クソッ!」と言いつつ一回地面を思い切り叩く。
 そして、立ち上がり、右足を引きずりながら森へと一歩一歩進む。
 だが、彼の思いも虚しく、すぐさま次の槍が左胸、右腹、左手、左足そして右足の順に貫く。いずれも完全には突き抜けず、途中で止まっている。
 とうとう彼はその場で倒れ込んでしまう。しかし、彼は尚も執念深く右手を前に伸ばし、森へ向かおうとする。
 上から降って来る一本の槍に右手の甲から貫かれ、その槍は地面に刺さる。
 そして彼は力尽き動かなくなってしまった。
「ハハハハ……。これで人間は殲滅完了っと」
 何者かの高笑いしながら言う声を聞きながら、途絶え行く思考の中で想う。
 ――クソッ!クソッ!絶対許さねえ……。村のみんなはよくも、よくもぉ……。殺してやる!殺し尽くしてやる!!
 彼は憎しみに満ちながらその場で倒れ込んだ。






 深い深い霧に満ちた空間に君たちは立っている。いや、立っているのも怪しい。何故なら、そこは地面も重力も時さえも無いのだから。
 あるのはただただ君たちがそこに存在しているという事実だけ。
 故に、声を発することも瞬き一つすることも出来ない。もちろん、ことも……。
 そんな中、君たちの頭の中に直接、恐らくは三十代半ば程であろう、おだやかな男性の声が聞こえてきた。
 ――またしても一つ希望が消えてしまった。これで何個目だろうか……。
 ――突然、すまないね。ここは、で世界のことわりから除された者だけが捕らわれる所。ここから脱け出すことは不可能なんだ。ここへ捕らわれて長い私が言うんだ。間違いない。
 え、いつ開放されるかって?それは無いんだ。ここへ捕らわれては最後、永遠に開放はない。まあ、脱け出せる方法があるとすれば、それは精神の崩壊かな。アハハハ…………。
 あ、君たちは私の無意識でここへ連れ込んでしまっただけだ。言わば思念体のようなものだからしばらくしたら元の世界に戻れる。安心していい。
 まあ、がね。
 後遺症と言っても体がどうとか、精神がどうとか、そんなものは一切ない。
 ただ君たちは時々ある世界の出来事を見るようになるだけだ。
 ホラ、君たちがここへ来る前に見た虐殺があっただろう。
 あれはね。私が生まれ育ったラースという惑星なんだ。位置はね。地球から遠いようで近く、近いようで遠い。そんな曖昧な場所にある。
 環境は地球とほとんど似ている。恐らく、ラースも遠くから見ると青いだろう。
 そこでは実に多くの種族が住んでいる。君たちが知っている伝説や神話に出て来るような者も住んでいるんだよ。
 しかしね。それ故に争いが絶えないんだ。だからね。私はそんな星の争いを無くそうと思い、を犯してしまってここに捕らわれてしまったんだ。
 でもね。私は何の悔いはない。何故なら、沢山の希望をあの星に残して来たからね。
 でもね、その希望も残るところ最後の一つなんだ。
 さあ、そうこうしているうちにもう時間が来たみたいだ。
 あ、そうそう後遺症のことなんだけどね。次第に私の力も弱まって行く。だから、君たちがラースの事を見続けるには自分たちで強い意思で願い続けねばならない。
 それじゃ、またいつか──。

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