《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

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114話~フォルモルの戦いⅡ~

 ケルベロスが城門棟を崩して侵入してきた。それを切り出しに、モンスターたちが都市の中へとなだれ込んできた。



 防衛していた冒険者たちは統率を失って潰走していた。逃げ遅れてモンスターの餌食になっている者もいた。服をムかれて、ゴブリンたちに犯されていた。まだ男としての本能が残っているのか、あるいは、モンスターとしての生殖本能なのかはわからない。



「見ていて、気持ちの良い光景じゃないわね」



「ノンキなこと言ってる場合じゃねェって、早く逃げなきゃ」



 カールがそう言って、フォルモルの服を引っ張ってくる。



「わかってるわよ」
 わかっている。



 しかしケルベロスの背中に乗っている女の姿を見てしまった。



 タギール・ジリアルだ。



 負傷した冒険者たちが多くいたので、石畳の地面には多くの武器が散乱していた。



 弓矢があった。フォルモルは弓を拾って、矢をつがえた。大きさはショートボウほどだが、それより威力の強いコンポジットボウだ。この大きさならフォルモルひとりでも充分あつかえる。



「おい、なにしてんだよ」
「しッ。黙ってて」



 思い切り弦を引いた。中仕掛けのところにツユを見つけた。おそらくこの弓の所有者がつくったものだ。そこに矢を引っかけた。放つ。弽をしていなかったフォルモルの指が弦によって削げ落ちた。フォルモルの指から鮮血をほとばしらせて、矢は一直線にタギールのもとへ飛んでいった。



 当たった。
 そう思った。



 しかし、タギールのカラダから黒い影のようなものが生えてきて、矢ははじかれてしまった。



「姉ちゃん。あんた指が……」
 カールが心配そうに、フォルモルの欠けた指を見ていた。



「心配ないわ」
 自分の削げ落ちた指に息を吹きかけた。〝治療印〟。すぐに傷はふさがる。



「ホントにすごいな。そのチカラ」



「今、矢をはじかれたわ。直撃していたはずなのに」



「そんなことより、早く逃げねェと」



 モンスターの濁流がストリートに押し寄せてきている。しかし、フォルモルは足を動かすことができなかった。



 目の前に、両親のカタキがいるのだ。



「もう一度……」
 弓を構えようとしたのだが、遅かった。足首をゴブリンにつかまれてしまった。



「ちッ」
 ゴブリンの頭部に矢を突き刺した。ヤジリが深々と刺さったが、ゴブリンはフォルモルの足から手を離さなかった。



(マズイ……)



 このままでは、モンスターの海に呑み込まれてしまう。刹那。景色が陰った。空。巨大な白いドラゴンが降下してくるところだった。



「シラティウス!」



 周囲には建物が多くあったが、シラティウスは構うことなく着陸した。ドラゴンの翼が当たって、建物がいくつか倒壊していた。モンスターが倒壊した建物の下敷きになっている。



「ちょうど良いところに来てくれたわ。助かった」



 シラティウスはケルベロスに食いついた。ケルベロスが横転した。ケルベロスに乗っていたタギールが、フォルモルのすぐ近くに着地した。タギールはあいかわらず、シルベ教の法衣を着ている。



「久しぶりじゃねェか。ヒール教の嬢ちゃん」
「久しぶりね。シルベ教のオバサン」



 タギールもフォルモルとそう年齢は変わりないように思われる。だが、フォルモルが厭味を込めて言った「オバサン」に、タギールは頬をひきつらせた。



「悪いけど嬢ちゃんに興味はねェんだ。あの男はどこにいる?」



「セイのことかしら」



「あれは邪魔なんだ。悪いが引き渡してはくれねェか」



「面白い冗談ね」



 フォルモルは足元に落ちていた、ハルバードを拾い上げた。



 弓矢よりかはハルバードのほうが、まだ自信がある。重さもちょうど手頃だ。人の傷ばっかり癒しているが、これでもレフィール伯爵の騎士なのだ。



 しばらく相対した。



 先に駆けたのはフォルモルだった。フォルモルがハルバードを屋根の構えから、振り下ろした。タギールはショートソードでハルバードを防いだ。



「ケルベロスがなかったら、勝てると思ったかい」



 ショートソードのほうが小回りがきくので、間合いにはいられないようにフォルモルは距離をとった。



 足場が悪い。



 シラティウスが周囲の建物を構わずに破壊したからだ。シラティウスはレフィール伯爵や仲間にたいしては気を使うが、他には無頓着なところがある。そのシラティウスはモンスターの濁流を引きとめてくれていた。ドラゴンの威圧に、モンスターたちはビビっているようだ。



「よそ見してんじゃねェぞ!」



 今度はタギールのほうから疾駆してきた。フォルモルはハルバードの柄を突き出して、タギールを迎え打った。



 柄で軽くタギールの胸を突いた。



 タギールは軽くよろめいたのを、フォルモルは見逃さなかった。すかさず刃を上段から振り下ろした。タギールは身をよじってフォルモルの振り下ろしをかわした。



「当たるかよ」
「甘いね」



 ハルバードは、セイが使う槍のような愚直な戦術武器ではない。すこしだけ付いている刃が活躍する。ハルバードの刃が、跳びずさろうとしているタギールの足を引っかけた。



「おわっ」
 タギールは仰向けに転倒した。



「回復役だからって、後方支援だけが取り柄じゃないのよ。レフィール伯爵の騎士であり、クロカミ・セイに仕えるフォルモル・ラレンチェの名を覚えておきなさい」



「ま、待て……ッ」



 タギールの首にハルバードの刃を落とした。首が、胴体から切断された。

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