《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第99話~夜~
藁ぶき屋根の家屋。
なんの植物かわからない巨大な葉っぱが床に敷かれている。おそらく、蜥蜴族はこの葉をカーペットがわりにしているのだろう。座り心地は悪くない。
シラティウスは身を丸めてくつろいでいる。シラティウスは自身のふくらはぎを、ナめていたりする。そういう仕草を見ると本性は、ドラゴンなんだよなぁ、と思い知らされる。
それは良いのだが――。
「セーコさま。私の傷も見てください」「私が先ですよ」「あなたはさっき見てもらっていたでしょう」……と押し合いへしあい、蜥蜴人たちが詰めかけてくる。
〝治療印〟を使うのに、そんなに体力は必要ない。片っ端から診ているのだが、どうもたいしたケガではない者が多くまじっている。
「指を切ってしまいました」
とか。
「尻尾がちぎれてしまいました」
とか。
その程度だ。
尻尾がちぎれたと聞くと、大惨事に思える。だが、聞くところによると、蜥蜴族の尻尾というのは勝手に生えてくるものらしい。
「男だってバレてるんじゃない?」
とシラティウスが耳打ちしてきた。
「いや、まさか」
複数の魔法を使ったことは認める。だが、男だと露見するような態度をとった覚えはない。極力気を付けているのだ。
ただ、人気。
というだけだろう。
アムマイトを追い払ったことと、ケガ人を治療していく活躍による人気と思われた。
「シラティウスのほうは、入江に戻らなくても良いのか?」
「今日はもう遅いから、明日にする」
「そうか。行くときは言えよ。一緒について行くから」
「ふぁー。私は眠くってきたから寝る」
と、シラティウスは葉っぱに身をくるめて眠っていた。シラティウスには、こういう勝手なところがあるようだ。
もう夜だ。外は暗い。
藁ぶき屋根の中には、カンテラがつるされていた。
人族は明かりを灯すとき、二つの方法がある。1つは火打石などの小道具を使うことだ。もう1つは、ロウソク番に頼むことだ。
炎を出す印をつかって炎を灯してくれる。オマケにロウソクの芯切りなどもしてくれる。都市サファリアでも、依然として活動している者を見かけたこともある。
〝炎印〟というのだが、自在に炎を発生させる印を持つ者が、ロイラング王国ではイチバン多いと聞いたことがある。
「こらこら、お前たち。セーコさまに迷惑だろう。重症の者たちから優先して診てもらうようにしろ」
と、ティルが入ってきた。
ティルの声を受けて、何人かがしぶしぶ部屋から出て行った。
「申し訳ありません。セーコさま。客人だというのに、オモテナシをするどころか、迷惑をかけてしまって」
「大丈夫ですよ。それに、セーコと呼び捨ててもらって構いません」
セーコと女の名前で呼ばれるだけでも、居たたまれないのに、「さま」まで付け加えられると、赤面をおぼえる。
「そうですか」
「蜥蜴族の集落というのは、ここだけなのですか? 他にもあるのですか?」
「他にもあります。ただ、蜥蜴族はあまり他の部族と交流はありません。敵対しているわけではありませんが、海水淡水にかかわらず、この辺りの水辺をさまよって生活しています。1部族おおよそ50人といったところですかね」
「そうでしたか」
獣人族の場合は、ゴルゴン鉱山がいわゆる王都と聞いている。8獣長という8人の族長がいたというから、全体でそれなりに統率はとれていたのだろう。一方で、蜥蜴族はかなり自由に生きているようだ。エルフに関しては、よくわからない。
「人族のほうはどうです? 都市はちゃんと機能していますか?」
と、ティルが尋ねてきた。
「把握できておりません。自治都市であるサファリアと、その近辺はかなり治安が良くなっていると思います」
「ひとつ頼みがあるのですが」
ティルはそう言うと、セイの前にひざまずいた。
「なんです?」
「一度、クロカミ・セイに蜥蜴族のもとに訪れてもらいたいのです」
「どうしてです?」
それはその……とティルは言い淀んだ。そして意を決するように、目を合わせてきた。今、気づいた。ティルの瞳は海のように青く染まっていた。
「子種が必要だからです」
「ああ……」
と、セイのほうから目をそらすことになった。
エルフのピュラや、獣人のニヤからも同じようなことを言われた。女性しか残っていない。つまり、子どもを埋めない。そうなると絶滅することになる。今、この状況で、雄の存在はどうしても必要なのだ。
「そう伝えておきます」
「よろしくお願いします」
人族、エルフ族、獣人族、蜥蜴族――。いったいどれほどの女性を相手にしなければならないのだろうか。
そこまで体力が持つのか……。
セイは今、自分の顔が赤くなっているのか、青くなっているのか、よくわからなかった。
なんの植物かわからない巨大な葉っぱが床に敷かれている。おそらく、蜥蜴族はこの葉をカーペットがわりにしているのだろう。座り心地は悪くない。
シラティウスは身を丸めてくつろいでいる。シラティウスは自身のふくらはぎを、ナめていたりする。そういう仕草を見ると本性は、ドラゴンなんだよなぁ、と思い知らされる。
それは良いのだが――。
「セーコさま。私の傷も見てください」「私が先ですよ」「あなたはさっき見てもらっていたでしょう」……と押し合いへしあい、蜥蜴人たちが詰めかけてくる。
〝治療印〟を使うのに、そんなに体力は必要ない。片っ端から診ているのだが、どうもたいしたケガではない者が多くまじっている。
「指を切ってしまいました」
とか。
「尻尾がちぎれてしまいました」
とか。
その程度だ。
尻尾がちぎれたと聞くと、大惨事に思える。だが、聞くところによると、蜥蜴族の尻尾というのは勝手に生えてくるものらしい。
「男だってバレてるんじゃない?」
とシラティウスが耳打ちしてきた。
「いや、まさか」
複数の魔法を使ったことは認める。だが、男だと露見するような態度をとった覚えはない。極力気を付けているのだ。
ただ、人気。
というだけだろう。
アムマイトを追い払ったことと、ケガ人を治療していく活躍による人気と思われた。
「シラティウスのほうは、入江に戻らなくても良いのか?」
「今日はもう遅いから、明日にする」
「そうか。行くときは言えよ。一緒について行くから」
「ふぁー。私は眠くってきたから寝る」
と、シラティウスは葉っぱに身をくるめて眠っていた。シラティウスには、こういう勝手なところがあるようだ。
もう夜だ。外は暗い。
藁ぶき屋根の中には、カンテラがつるされていた。
人族は明かりを灯すとき、二つの方法がある。1つは火打石などの小道具を使うことだ。もう1つは、ロウソク番に頼むことだ。
炎を出す印をつかって炎を灯してくれる。オマケにロウソクの芯切りなどもしてくれる。都市サファリアでも、依然として活動している者を見かけたこともある。
〝炎印〟というのだが、自在に炎を発生させる印を持つ者が、ロイラング王国ではイチバン多いと聞いたことがある。
「こらこら、お前たち。セーコさまに迷惑だろう。重症の者たちから優先して診てもらうようにしろ」
と、ティルが入ってきた。
ティルの声を受けて、何人かがしぶしぶ部屋から出て行った。
「申し訳ありません。セーコさま。客人だというのに、オモテナシをするどころか、迷惑をかけてしまって」
「大丈夫ですよ。それに、セーコと呼び捨ててもらって構いません」
セーコと女の名前で呼ばれるだけでも、居たたまれないのに、「さま」まで付け加えられると、赤面をおぼえる。
「そうですか」
「蜥蜴族の集落というのは、ここだけなのですか? 他にもあるのですか?」
「他にもあります。ただ、蜥蜴族はあまり他の部族と交流はありません。敵対しているわけではありませんが、海水淡水にかかわらず、この辺りの水辺をさまよって生活しています。1部族おおよそ50人といったところですかね」
「そうでしたか」
獣人族の場合は、ゴルゴン鉱山がいわゆる王都と聞いている。8獣長という8人の族長がいたというから、全体でそれなりに統率はとれていたのだろう。一方で、蜥蜴族はかなり自由に生きているようだ。エルフに関しては、よくわからない。
「人族のほうはどうです? 都市はちゃんと機能していますか?」
と、ティルが尋ねてきた。
「把握できておりません。自治都市であるサファリアと、その近辺はかなり治安が良くなっていると思います」
「ひとつ頼みがあるのですが」
ティルはそう言うと、セイの前にひざまずいた。
「なんです?」
「一度、クロカミ・セイに蜥蜴族のもとに訪れてもらいたいのです」
「どうしてです?」
それはその……とティルは言い淀んだ。そして意を決するように、目を合わせてきた。今、気づいた。ティルの瞳は海のように青く染まっていた。
「子種が必要だからです」
「ああ……」
と、セイのほうから目をそらすことになった。
エルフのピュラや、獣人のニヤからも同じようなことを言われた。女性しか残っていない。つまり、子どもを埋めない。そうなると絶滅することになる。今、この状況で、雄の存在はどうしても必要なのだ。
「そう伝えておきます」
「よろしくお願いします」
人族、エルフ族、獣人族、蜥蜴族――。いったいどれほどの女性を相手にしなければならないのだろうか。
そこまで体力が持つのか……。
セイは今、自分の顔が赤くなっているのか、青くなっているのか、よくわからなかった。
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