《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第99話~夜~

 藁ぶき屋根の家屋。



 なんの植物かわからない巨大な葉っぱが床に敷かれている。おそらく、蜥蜴族はこの葉をカーペットがわりにしているのだろう。座り心地は悪くない。



 シラティウスは身を丸めてくつろいでいる。シラティウスは自身のふくらはぎを、ナめていたりする。そういう仕草を見ると本性は、ドラゴンなんだよなぁ、と思い知らされる。



 それは良いのだが――。



「セーコさま。私の傷も見てください」「私が先ですよ」「あなたはさっき見てもらっていたでしょう」……と押し合いへしあい、蜥蜴人たちが詰めかけてくる。



〝治療印〟を使うのに、そんなに体力は必要ない。片っ端から診ているのだが、どうもたいしたケガではない者が多くまじっている。



「指を切ってしまいました」
 とか。
「尻尾がちぎれてしまいました」
 とか。
 その程度だ。



 尻尾がちぎれたと聞くと、大惨事に思える。だが、聞くところによると、蜥蜴族の尻尾というのは勝手に生えてくるものらしい。



「男だってバレてるんじゃない?」
 とシラティウスが耳打ちしてきた。



「いや、まさか」



 複数の魔法を使ったことは認める。だが、男だと露見するような態度をとった覚えはない。極力気を付けているのだ。



 ただ、人気。
 というだけだろう。



 アムマイトを追い払ったことと、ケガ人を治療していく活躍による人気と思われた。



「シラティウスのほうは、入江に戻らなくても良いのか?」



「今日はもう遅いから、明日にする」



「そうか。行くときは言えよ。一緒について行くから」



「ふぁー。私は眠くってきたから寝る」
 と、シラティウスは葉っぱに身をくるめて眠っていた。シラティウスには、こういう勝手なところがあるようだ。



 もう夜だ。外は暗い。
 藁ぶき屋根の中には、カンテラがつるされていた。



 人族は明かりを灯すとき、二つの方法がある。1つは火打石などの小道具を使うことだ。もう1つは、ロウソク番に頼むことだ。



 炎を出す印をつかって炎を灯してくれる。オマケにロウソクの芯切りなどもしてくれる。都市サファリアでも、依然として活動している者を見かけたこともある。



〝炎印〟というのだが、自在に炎を発生させる印を持つ者が、ロイラング王国ではイチバン多いと聞いたことがある。



「こらこら、お前たち。セーコさまに迷惑だろう。重症の者たちから優先して診てもらうようにしろ」
 と、ティルが入ってきた。



 ティルの声を受けて、何人かがしぶしぶ部屋から出て行った。



「申し訳ありません。セーコさま。客人だというのに、オモテナシをするどころか、迷惑をかけてしまって」



「大丈夫ですよ。それに、セーコと呼び捨ててもらって構いません」



 セーコと女の名前で呼ばれるだけでも、居たたまれないのに、「さま」まで付け加えられると、赤面をおぼえる。



「そうですか」



「蜥蜴族の集落というのは、ここだけなのですか? 他にもあるのですか?」



「他にもあります。ただ、蜥蜴族はあまり他の部族と交流はありません。敵対しているわけではありませんが、海水淡水にかかわらず、この辺りの水辺をさまよって生活しています。1部族おおよそ50人といったところですかね」



「そうでしたか」




 獣人族の場合は、ゴルゴン鉱山がいわゆる王都と聞いている。8獣長という8人の族長がいたというから、全体でそれなりに統率はとれていたのだろう。一方で、蜥蜴族はかなり自由に生きているようだ。エルフに関しては、よくわからない。



「人族のほうはどうです? 都市はちゃんと機能していますか?」
 と、ティルが尋ねてきた。



「把握できておりません。自治都市であるサファリアと、その近辺はかなり治安が良くなっていると思います」



「ひとつ頼みがあるのですが」
 ティルはそう言うと、セイの前にひざまずいた。



「なんです?」
「一度、クロカミ・セイに蜥蜴族のもとに訪れてもらいたいのです」



「どうしてです?」



 それはその……とティルは言い淀んだ。そして意を決するように、目を合わせてきた。今、気づいた。ティルの瞳は海のように青く染まっていた。



「子種が必要だからです」
「ああ……」
 と、セイのほうから目をそらすことになった。



 エルフのピュラや、獣人のニヤからも同じようなことを言われた。女性しか残っていない。つまり、子どもを埋めない。そうなると絶滅することになる。今、この状況で、雄の存在はどうしても必要なのだ。



「そう伝えておきます」
「よろしくお願いします」



 人族、エルフ族、獣人族、蜥蜴族――。いったいどれほどの女性を相手にしなければならないのだろうか。



 そこまで体力が持つのか……。



 セイは今、自分の顔が赤くなっているのか、青くなっているのか、よくわからなかった。

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