《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

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第95話~入江~

 蜥蜴族の集落である浜辺からすこし離れて、森の中を歩いた。入り組んだ道ではなかった。軽くならされた道がまっすぐ伸びていて、左右には木々が生い茂っていた。



 左右の茂みからいつなんどきモンスターが跳びだしてくるかわからない。そう警戒したせいか、左右に茂る木々がチョット怖ろしく思えた。



「そう言えば、クロカミ・セーコさんは、〝英雄印〟を持つ男の姉だとか?」
 と、ティルが問いかけてきた。



「ええ。まあ」
「いいですね。男が残っているというのは」



 ティルの桜色の尻尾がパタパタと揺れていた。



「いろいろと苦労もありますが」



 このときの苦労というのは、セーコとしてというより、本来の姿であるセイにとっての苦労という意味で吐露した。



「8獣長のニヤから、いろいろと武勇伝は聞いております。エルフ族のケルベロスを圧倒して、暗殺者からニヤを守り抜いて、そして、獣人族の〝封印〟を奪った者を、あと一歩のところまで追いつめた――と」



「はぁ」



 セイ自身の活躍なのだが、今はセーコなので、別人のことのように聞かなければいけない。どうも1人で二つの姿を使い分けるというのは難しい。



「蜥蜴族の〝封印〟が無事で幸いです。他2種族の〝封印〟が奪われているとなると、なんとしても守らなくてはいけませんね」



「〝封印〟は族長のフィー姫が?」



「はい。代々、族長の血を引く者たちが、受け継いで来たのです。とはいえ、かつて悪魔の雨が降ったのは大昔のこと、〝封印〟のことを信じている者は、あまりおりませんでしたが」



「そうですか」
 それは人族も同じだ。



〝英雄印〟の能力も軽視されてきたし、レフィール伯爵の警告も、ロイラング王国の貴族たちは黙殺してきたのだ。



 古い書物というのは、なかなか手に入りにくい。レフィール伯爵のように財のある者が買い集めるか、あるいは教会関係者でなければ容易に手に入る物ではない。



 悪魔の雨や〝封印〟の話――それに〝英雄印〟のことも、世の中に知られていなかったのは、知識がちゃんと広まっていなかったからだ。



「おっと、見えてきました」
 と、ティルが言った。



 視界が開けると、潮の香りがいっきに吹き付けてきた。



 左右の木々に押しつぶされてしまいそうな閉塞感から逃れられたので、ホッとした気分になった。



 いた。
 シラティウスだ。



 入江というだけあって、海辺に面している。黒々とした岩が、潮の満ち引きにさらされていた。



 岩辺に白いドラゴンがたたずんでいた。見ているだけで圧倒されるものがある。海風にさらされたシラティウスの白銀のウロコは、いつも以上にかがやいていた。だが、どことなく寂しそうにも見えた。



「私はこれで失礼します。フィーのもとに付いていなければなりませんので」
 と、ティルが怖れるように言った。



「はい。ありがとうございました」
 ティルはキビスを返していった。



 入江にはセイとシラティウスの2人になった。いや。1人と1匹と言うべきか。セイが浜辺を歩いて近づこうとすると、シラティウスは翼を広げて威嚇してきた。



「どうしたんだ? 何か厭なことでもあったのか?」



「グルゥゥゥ」



 気分が昂ぶってドラゴンになってしまうとは聞いていた。だが、無闇に暴れている様子はない。ムリに止める必要はないだろう。シラティウスが落ちつくまで待とうと決めた。岸辺の硬い岩に尻を落ちつけた。



 おそらく1時間ぐらいだ。



 セイとシラティウスは見つめ合っていた。静かな時間だった。ただ、海が浜辺に打ちつけては、砂を引きずってゆく時間が流れていた。シラティウスは退屈そうに身を丸めていたり、ジッとセイのことを見つめたりしてきた。



 トツゼンだった。
 異質な気配を感じた。



 敵に囲まれている。そんな感覚だった。セイは背負っていた槍を構えて、入江のほうに背中を向けた。セイが歩いてきた森のほうから、敵意は向けられていた。敵意の正体はすぐにわかった。



 アムマイトだ。
 それも1匹や2匹ではない。



 茂みの中からワラワラと出てくる。いったい、どうしてこんなにモンスターが集まってくるのか。



 その疑問はすぐに氷解した。



 先頭に立っているアムマイトの胴体に傷がついていた。最近できた傷だ。勘違いでなければ、それはついさきほど、セイが追い払ったアムマイトに違いない。



 意趣返しにやって来た――といったところか。

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