《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

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第93話~蜥蜴族騎士長ティ・ティル~

 蜥蜴族の暮らしは獣人族とは対照的だった。小舟をつくり海に出る。網を投げては、魚を捕まえてくる。そういった生活をしていた。



 人間が蜥蜴族から交易によって、海産物を手に入れていることに納得がいった。海から魚を担ぎ上げて戻ってくる女たちの姿は、たくましかった。爬虫類によく見られるゴムのような皮膚に、潮のキラメキが輝いていた。



 セイがフィーを連れて浜辺を歩いていると、蜥蜴族の者たちがワラワラと集まってきた。



「姫さま」「いったいどこへ行っておられたのですか」「心配しましたよ」「この人族の女性は?」……といった案配だ。



 クロカミ・セーコとして紹介してもらった。蜥蜴族の女たちはたいてい、セーコの存在を知っていた。



「私、知ってるわ」「人族には〝英雄印〟を持つ男がいるんですって」「クロカミ・セーコというと、そのお姉さんなんでしょう?」



 セイの名前は、こんなところにまで広まっているらしい。



「蜥蜴族の男性も、やはりみんな?」
 と、セイは誰にというわけでもなく、そう問いかけた。



「ええ。全滅してしまったわ」
 と、ひとりの蜥蜴人が応じた。



 とにかくセイの歓迎をしてくれると蜥蜴族の者たちは言った。



 蜥蜴族の者たちがセイを歓迎してくれる理由は、8獣長のニヤから手紙をもらっているからではなく、男性とのつながりを持っているからとしか思えなかった。都市サファリアの女たちが、セーコに媚びへつらってくる理由と同じだ。



 蜥蜴族はさすがに性癖の範疇はんちゅうには入らないと思っていたのだが、こうして見てみると、なかなか色っぽい人もいる。なにせ顔は人間と大差ないし、乳房や脚部も人と同じように見える。ただ、背中の部分や尻尾は、トカゲのそれだった。



(そうか……)



 英雄王ハーレムの時代に、フィルドランタの生物は滅びかけている。その際に、英雄王ハーレムはすべての種族にたいして、自分の子種を与えたのだ。



 つまり、あらゆる種族に英雄王ハーレムの――人族の血が流れていることになる。蜥蜴族と言っても、どこか人間らしく見えるのは、英雄王ハーレムとの交わりがあったからなのだろう。



 浜辺を歩く。
 靴の中に砂が入ってきた。歩きにくい。



 蜥蜴族の手足は人とは違った構造になっている。そこはトカゲに似ている。足元の砂にも適応しているのか、なんの苦もなく足を進めていた。



 藁ぶき屋根の建物が見えてきた。



「どうぞ、どうぞ」
 と、なかば強引に招き入れられることになった。



 簡素な部屋だ。
 天井には梁が通されていて、その上に藁がかぶせられているカッコウだ。床には葉っぱが敷き詰められていた。



 生臭い。部屋には魚が積み上げられていた。魚や昆虫は悪魔の霧の対象にはならない――と言っていたレフィール伯爵のセリフをなんとなく思い出した。



 フィーと他の蜥蜴族は、別の建物に行ったようだ。室内にいるのは、セイと3人の蜥蜴人だった。



「フィー姫を保護していただき、ありがとうございました」



 そう頭を下げてきたのは、人族の用いる武装とはやや違った武装をした女性だった。きっと蜥蜴族独特のものなのだろう。



 フィーと同じく着ぐるみみたいな蜥蜴を頭につけていたし、尻尾も生えていた。だが、フィーのような紅色ではなくて、桜色をしていた。そして、フィーよりもたくましいカラダをしている。その表情からはやや冷徹な印象を受けた。眉がないからだと気づいた。



「私は蜥蜴族の騎士長をつとめている。ティ・ティルと申します」



 ティルと呼んでくれ、ということだった。
セイも名乗った。



「ホントウに保護してくれていなければ、いまごろどうなっていたことやら……」
 ティルは安堵の息を落とした。



「いえ。私は保護したというより、偶然見つけたというか」



「フィーは何をされていたのでしょうか?」



「何――って、よくわかりません。ただ、アムマイトに追いかけられてたみたいですけど」



「そうでしたか……」
 と、ティルは首をかしげた。



 この生魚の臭い。どうにかならないものだろうか。セッカク招かれた家なので、出るわけにもいかない。臭いと言うのも遠慮がはたらく。鼻の奥がムズムズする。



「どういう状況で、フィーと出会ったのか、詳しく教えてはもらえないだろうか?」



 ティルがそう頭を下げてきた。

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