《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第91話~蜥蜴族長のフィル・フィー~
セイはドラゴンになって、西へ飛ぶことになった。
シラティウスは西へ飛んでいった。西には何があるのか――。レフィール伯爵に連絡をとって尋ねてみた。一口に西といってもいろいろあるが、蜥蜴族の集落があると言う。
もしかするとシラティウスは、そこへ向かったのかもしれない。エルフ族――獣人族と来て、今度は蜥蜴族のところに行こうと話をしていたやさきであったから、ほぼ間違いはないだろうと確信があった。
今回はセイは1人で向かうことにした。
フォルモルとキリアは留守番だ。
2人はついて来ようとしたのだが、「シラティウスが戻ってきたとき、誰もいなかったら入れ違いになるだろう」と言って、抑え込んできた。
フォルモルやキリアだけに言えることではないが、最近、女たちの男を求める勢いが激しくなっている。都市サファリアから出ると、桃色の粘液から抜け出したような解放感をおぼえた。
西。
飛んで行く。
真っ直ぐ飛んで行けば、海辺が見えてくると聞いている。霧で視界がかすむ。目をよく凝らしている必要があった。
いきなり蜥蜴族の住処にドラゴンの姿で突っ込んだら、ビックリされることだろう。少し離れた場所に着陸しようと決めていた。
海辺が見えた。
蜥蜴族の住処なのか、藁ぶき屋根の建造物をいくらか見ることができた。セイはすこし引き返して、ひと気のない場所に足をつけた。
「ふぅ」
着陸したのは丘陵だった。山というほどの傾斜はないが、木々は濃厚に生い茂っていた。森――と言うべきなのかもしれない。男の姿で出歩かないほうが良いだろう。女になっておいた。
「はじめまして」
急に背後から声をかけられたので、セイは跳びあがるほどビックリした。
「だ、誰ッ」
「蜥蜴族長のフィル・フィーです」
「蜥蜴族長?」
「はい」
男から女になった瞬間を見られていなかったか心配だった。変身しているところを見たか? 尋ねるのも怖い。あえて何も尋ねないことにした。見ていないことを祈ろう。
しかし、それにしても――。
と、セイは蜥蜴族長の姿を見つめた。
思っていたのと違う。セイは生まれてこのかた、蜥蜴族を見たことがなかった。二足歩行の蜥蜴を連想していた。実際は、巨大蜥蜴にかぶりつかれた人間――といった風貌だった。着ぐるみを着ているようにも見える。
「えっと……蜥蜴族ってみんなこんな感じなのか?」
「はい。フィーはいたって平凡な姿をしておりますが、何か問題がありましたか?」
「いや」
真っ赤な蜥蜴を羽織っているが、顔は人間だ。ドングリ眼がくりくりとして愛らしい。背丈はセイの腰のあたりまでしかない。しかし、人ではない証拠にお尻のあたりから尾が伸びていた。手のつくりも人とはすこし違うようだ。
「偶然だな。まさか、こんな形で蜥蜴族長に会えるとは思ってなかった」
セイは基本的に、偶然、という事態を信じてはいない。運命とでも言うような、大きな偶然は信じている。たとえばセイとレフィール伯爵の出会い。フォルモル、キリアの仇敵との出会い。それは何か縁のようなものがあるとは思う。
だが、蜥蜴族に会いたいと思って、急に族長が現われるなんて、奇妙なものを感じずにはいられなかった。
「フィル――さんだっけ?」
フィーで構いませんということだった。
「無事だったんだな」
「はい?」
とフィーは首をかしげた。
頭部にある蜥蜴の頭も一緒にかしげていた。
「エルフ族、獣人族と〝封印〟を奪われているんだ。だから、てっきり蜥蜴族も襲われたのかと思ってた」
「襲われてはいます」
「襲われてるのか?」
「後ろから、追いかけて来ておりますので」
フィーは淡々と述べた。
「後ろ?」
振り返った。
森になっている。街道というほど立派な道ではないが、獣道よりかは整えられた道が敷かれている。蜥蜴族が整備したのだろうと思った。ならされた道の向こうから、四足歩行で走ってくる獣の姿が見えた。
「な、なんだ?」
「オスの蜥蜴族が悪魔の雨に降られて、ああなりました」
アムマイト。
それもゴブリンやらミノタウロスやらが書かれている資料で見たことがある。
ワニのモンスターだ。頭部はワニなのだが、下半身はライオンのようなカッコウをしている。3匹。疾駆してくる。
「逃げている途中なのです」
フィーは四つん這いになると、素早く地を駆けた。その行為を見ていると、やはり人間ではないんだなと思い知った。
シラティウスは西へ飛んでいった。西には何があるのか――。レフィール伯爵に連絡をとって尋ねてみた。一口に西といってもいろいろあるが、蜥蜴族の集落があると言う。
もしかするとシラティウスは、そこへ向かったのかもしれない。エルフ族――獣人族と来て、今度は蜥蜴族のところに行こうと話をしていたやさきであったから、ほぼ間違いはないだろうと確信があった。
今回はセイは1人で向かうことにした。
フォルモルとキリアは留守番だ。
2人はついて来ようとしたのだが、「シラティウスが戻ってきたとき、誰もいなかったら入れ違いになるだろう」と言って、抑え込んできた。
フォルモルやキリアだけに言えることではないが、最近、女たちの男を求める勢いが激しくなっている。都市サファリアから出ると、桃色の粘液から抜け出したような解放感をおぼえた。
西。
飛んで行く。
真っ直ぐ飛んで行けば、海辺が見えてくると聞いている。霧で視界がかすむ。目をよく凝らしている必要があった。
いきなり蜥蜴族の住処にドラゴンの姿で突っ込んだら、ビックリされることだろう。少し離れた場所に着陸しようと決めていた。
海辺が見えた。
蜥蜴族の住処なのか、藁ぶき屋根の建造物をいくらか見ることができた。セイはすこし引き返して、ひと気のない場所に足をつけた。
「ふぅ」
着陸したのは丘陵だった。山というほどの傾斜はないが、木々は濃厚に生い茂っていた。森――と言うべきなのかもしれない。男の姿で出歩かないほうが良いだろう。女になっておいた。
「はじめまして」
急に背後から声をかけられたので、セイは跳びあがるほどビックリした。
「だ、誰ッ」
「蜥蜴族長のフィル・フィーです」
「蜥蜴族長?」
「はい」
男から女になった瞬間を見られていなかったか心配だった。変身しているところを見たか? 尋ねるのも怖い。あえて何も尋ねないことにした。見ていないことを祈ろう。
しかし、それにしても――。
と、セイは蜥蜴族長の姿を見つめた。
思っていたのと違う。セイは生まれてこのかた、蜥蜴族を見たことがなかった。二足歩行の蜥蜴を連想していた。実際は、巨大蜥蜴にかぶりつかれた人間――といった風貌だった。着ぐるみを着ているようにも見える。
「えっと……蜥蜴族ってみんなこんな感じなのか?」
「はい。フィーはいたって平凡な姿をしておりますが、何か問題がありましたか?」
「いや」
真っ赤な蜥蜴を羽織っているが、顔は人間だ。ドングリ眼がくりくりとして愛らしい。背丈はセイの腰のあたりまでしかない。しかし、人ではない証拠にお尻のあたりから尾が伸びていた。手のつくりも人とはすこし違うようだ。
「偶然だな。まさか、こんな形で蜥蜴族長に会えるとは思ってなかった」
セイは基本的に、偶然、という事態を信じてはいない。運命とでも言うような、大きな偶然は信じている。たとえばセイとレフィール伯爵の出会い。フォルモル、キリアの仇敵との出会い。それは何か縁のようなものがあるとは思う。
だが、蜥蜴族に会いたいと思って、急に族長が現われるなんて、奇妙なものを感じずにはいられなかった。
「フィル――さんだっけ?」
フィーで構いませんということだった。
「無事だったんだな」
「はい?」
とフィーは首をかしげた。
頭部にある蜥蜴の頭も一緒にかしげていた。
「エルフ族、獣人族と〝封印〟を奪われているんだ。だから、てっきり蜥蜴族も襲われたのかと思ってた」
「襲われてはいます」
「襲われてるのか?」
「後ろから、追いかけて来ておりますので」
フィーは淡々と述べた。
「後ろ?」
振り返った。
森になっている。街道というほど立派な道ではないが、獣道よりかは整えられた道が敷かれている。蜥蜴族が整備したのだろうと思った。ならされた道の向こうから、四足歩行で走ってくる獣の姿が見えた。
「な、なんだ?」
「オスの蜥蜴族が悪魔の雨に降られて、ああなりました」
アムマイト。
それもゴブリンやらミノタウロスやらが書かれている資料で見たことがある。
ワニのモンスターだ。頭部はワニなのだが、下半身はライオンのようなカッコウをしている。3匹。疾駆してくる。
「逃げている途中なのです」
フィーは四つん這いになると、素早く地を駆けた。その行為を見ていると、やはり人間ではないんだなと思い知った。
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