《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第89話~シラティウスの行方~

 カール・セルヴィルがいくつかの薬を、クロニル・セルヴィルに飲ませていた。15分もすれば、クロニルは目をさました。



 感謝された。



「助かった。ホントウに感謝しても感謝しきれない」
 カールはそう言って、床にヒザと頭をこすりつけた。そこまでされると、気後れしてしまう。命を救ったと言えば、仰々しく聞こえる。だが、セイからしてみれば、ちょっと手を触れただけなのだ。



「頭をあげてくれ。知りたいことがあって来たんだ」
「なんだって答えるよ」



 とにかく、適当な場所に腰かけてくれ――と言われた。腰かけてくれと言われても、イスはない。セイはベッドに座ることにした。カールは茶を淹れてくると言って、奥の部屋に消えた。



 上体だけ起こしたクロニルがボンヤリとセイのことを見ていた。傷が治ったところで意識がモウロウとしているのかもしれない。



 セイはクロニルのことを見つめ返した。



 前髪を切りそろえており、ショートボブにしている。青い髪は、今まで会ってきた誰とも似ていない。ロイラング王国の人たちの髪の色は、実に多様だ。それだけいろんな人種の血が混じっているのかもしれない。



「えっと……。もしかして、《キングプロテア級》の冒険者さんじゃないですか?」



 そう話しかけてきた。



「よく知ってるな」
「す、すみません」



「別に謝ることないじゃないか」
「いろいろと調べさせてもらって……」



 クロニルは申し訳なさそうに目を伏せた。姉のカールの気が強いのにたいして、妹のクロニルは大人しそうだった。双子ということだから、たしかに面立ちは似ている。だが、性格は真逆のようだ。



「調べた? オレ――じゃなくて、私のことを?」



 人前ではいちおう、私と自称するようにしているのだが、癖でどうしても「オレ」が先行してしまう。



「ええ。クロカミ・セイさんのお姉さんということでしたから、でも、セイさんもセーコさんの情報も、あんまり見つかりませんでしたけど」



 だろうな、とセイは苦笑した。



 悪魔の雨が降る以前は、セイはただの一兵卒だったのだ。そんな小者の情報なんか出てくるわけがない。セーコにいたっては、セイが化けているだけの存在だ。



「しかし、意外だな。君が物書きのクロニルだろう?」



「あ、はい」
 まだ幼い。



 幼いのに、フォルモルが全巻そろえるほどのエッチな小説を書いてるのかと思うと、変な目で見てしまいそうだ。



「その……すみません」
 と、クロニルはフトンで顔を隠してしまった。



 カールが戻ってきた。都市サファリア付近で採れる薬草を煎じてつくった御茶だということだ。



 甘くて、美味しい。



「ほら、あんたを助けてくれたんだ。顔を出しなよ」
 と、カールは強引に、クロニルのことをフトンから引っ張り出していた。



「あうっ」
 と、クロニルは顔を赤くしていた。



「それで、私たちに聞きたいことってのは、なんだい?」



 カールは緑がかった髪を、乱暴にゴムひもでまとめながら尋ねてきた。



「クロニルを襲ったドラゴンについてだ」
 と、セイは率直に尋ねた。



「白いドラゴンだったよ。私はドラゴンなんて見るのは、はじめてだった」
 思い出したのか、ぶるっとカールは華奢なカラダを震わせた。



「場所は?」



「薬草を摘みに、サファリアの裏にある山にね。どこから現れたのかもよくわからないんだ。急に現れたんだ。別に私たちに危害をくわえるつもりはなかったのかもしんねェ。だけど、ドラゴンの爪がクロニルの背中をかすったんだ」



 カールは早口でそう言った。



 白いドラゴン。
 おそらくシラティウスだ。



 どうしてドラゴンになってなったのか。やはり気分の昂ぶりが生じたということだろうか。危害を加えるつもりはないようだった――という言葉を聞いて、すこし安心した。



「そのドラゴン。どっちに行ったのかわかるか?」



「西のほうに飛んで行ったと思う。ずっと見てたわけじゃないから、わかんねェけど」
 と、カールは部屋にある窓のほうを指差した
 そっちが西なのだろう。



「そうか。助かった」
 セイはロイラング王国の王都から、あまり出たことがない。そのため、世界情勢に関してはそこまで詳しくない。西、と言われても、シラティウスがどこへ向かったのか、ハッキリしなかった。



 あとでレフィール伯爵に連絡をとって、西に何があるのか教えてもらおうと思った。



 御茶をすする。
 カールがジッとセイのことを見つめていた。



「えっと……何か?」
 あんまりにも見つめられているものだから、セイは困惑してそう尋ねた。



「いや。私は気づかなかったんだが、あんたがウワサのクロカミ・セーコって女だったのか」



「すみません。名乗り遅れました」



 ウワサというのは、何だろうか。
 気になった。



「いや。それは良いんだ。私のほうこそ名乗り遅れた。私はこの薬店で薬師をやってる。カール・セルヴィル。それでこっちが、物書きで妹のクロニル・セルヴィルだ」



「どうも」



 ベッドわきにあった小さいテーブルに、お茶の入ったカップを置いた。握手をかわす。カールはしばらく視線を泳がせていた。そして、意を決するようにセイを見据えた。



「これ、あんたに渡しておくよ」
 カールはそう言うと、布袋をひとつ渡してきた。



 お姉ちゃんッ、とクロニルがあわてるような声を発した。



「開けても?」
「ああ」



 開ける。
 中にはよくわからない粉末が入っていた。



「これは?」



「ドラゴンに襲われたときに、裏山に行ってたって言ったろ。そこで摘んでたものさ。実は、《愛を求めるもの》アストランチアのゴウス・エインから頼まれてたんだ」



「頼まれてたって、何を?」



「魔法の変装を解く薬をつくって欲しい――って、そう頼まれてたんだ。クロカミ・セーコに飲ませようとしてたみたいだぜ。たった一粒でも口にいれれば、すぐに効果が出るはずだ」



「……」
 戸惑った。



 まず1つ戸惑った理由は、エインがそこまでの強硬手段に出ようとしていたことだ。もうセイの女装は、ほとんどエインにはバレていると見て良さそうだ。



 そしてもう1つ――。



「君たちは、その――私が男だと?」
 尋ねた。



 カールとクロニルは顔を見合わせて、セイを見つめてきた。



「私は普段、あんたを見たことがない。だから、あんたが男だって疑ったこともなかった。だけど、エインに言われてたから、なんとなく疑ってはいる」



「そうか」



 居たたまれない気持ちになった。尻がムズムズしてくる。どこからどう見ても女だよ――とウソは吐きにくい。だからといって、実は男なんだと素性を打ち明けるわけにもいかない。



「でも、あんたが男でも、私は黙っておくし、隠しておくよ」



 カールは乱暴に頭をかいてそう言った。
 せっかく髪ゴムで止めていた緑色の髪が、まだ乱れていた。



「その……私は……」
 どう返答すれば良いのかわからない。



「妹を助けてくれたんだ。エインには別の薬を渡しておいてやるよ。それであんたの正体は、もう少し隠せるだろうさ」



「助かる」
 そう応えてしまった。



 それはつまり、実は男なのだと認めてしまったも同然だ。

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