《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第79話~ケイテ城・領主の間~

 トビラ。慎重に開けた。その部屋からは明かりが漏れていたのだ。



 いくつものロウソクが灯っていた。左右の壁には大量の刀剣が立てかけられていた。まるで武器庫だ。



 部屋の中央にはデップリと膨らんだ女がイスに腰掛けていた。肉団子といっても差し支えないような体型をしていた。が、白髪だけは立派に整えられていた。



 パチパチパチ。
 乾いた拍手している。



「よくここまで来たな。もと傭兵団団団長の娘キリア・ユーナ。それから獣人族8獣長の生き残りニヤ・ノ・レ。それから、〝英雄印〟を持つ男よ」



 どこかから見ていたのだろう。
 男であるセイのことを見ると驚く者が多かったが、その女は平然としていた。



「私は、マッシュ・ポトト。かつてのケイテ城をあずかっていた領主だ」



 獣人族から〝封印〟を奪い、暗殺者ロロナを雇って、さらにはキリアに亡霊をけしかけていた親玉というわけだ。



 セイは身構えた。



「よくも傭兵団【鋼鉄の心臓】の亡霊を弄んでくれたな」
 キリアは言うと、一歩前に出た。



【鋼鉄の心臓】
 それが傭兵団の名前だったのだろう。
 セイもはじめて聞く名前だった。



「あの傭兵団のリーダーはもともと私のもとに仕えていた男だったからね。私の配下のようなものさ」



「追放したくせに」
「娘も父親に似て、態度がでかいな」



 マッシュは指をパチンと鳴らした。ロウソクの明かりが一斉に消えた。暗闇が訪れる。部屋中に半透明の亡霊たちが現われはじめた。



 そしてマッシュの手前に現れたのは、大柄な男だった。パパ、とキリアがつぶやいた。それがキリアの父親なのだとわかった。ただ、生きてはいないので、色はない。ケムリのような存在でしかなかった。



「よくも私の父を……ッ」
 キリアは唸るように言った。



「せっかくの親子の再会だ。喜ぶと良い。もっともこの男は私の〝霊操印〟によってあやつられているだけで、意思も何も持たないがな」



「貴様ァァ――ッ!」



 不意にキリアは駆けた。こらえていたものが、ついに吹き出した。そういう感じがした。勃然――とでも言うのかもしれない。



 しかし、キリアの猛進はキリアの父親によって食い止められた。父は棒でキリアのことを突き返したのだ。



「ぐぅ」
 と、うめき、キリアは突き飛ばされた。



 他の亡霊と同じく、キリアの父親もあやつられているのだ。



 立ち上がったキリアの目には涙が浮かんでいた。その目を見たとき、セイはキリアの心を垣間見た気がした。


 
 キリアはモンスターになった傭兵団を処理したと、何食わぬ顔で言っていた。しかし、そのときから何かを堪えていたのだ。悲憤を抱えていたのだ。だから〝霊媒印〟を使って父に謝ろうとした。このケイテ城に足を踏み入れたときも、仲間を弄ばれていることに、ジッと堪えていたのだろう。



 強い。
 そう思っていた。



 けれど、あらためて考えてみれば、キリアだってただの女の子なのだ。それもセイとそう歳の差はないように思える。



 ただ――。



 キリアにはその悲憤を分かち合える相手がいなかったのだ。フォルモルやシラティウスとは仲良くしている。仲良くしているとはいえ、彼女たちも各々の悲劇を抱えている。



 キリアは悲憤をひとりで抱えて行こうと決めたのだろう。いや。そこまで深い考えはなかったのかもしれない。



 でも、たぶん、辛いことを他人と分かち合うということが、苦手なのだ。不器用なのだ。



 その悲憤の一端が今、キリアの目じりに涙として浮かび上がっているのだ。



「ははははッ」
 マッシュは勝ち誇ったように笑った。



「この部屋に足を踏み入れたが最後、ここには無数の武器がある。亡霊たちは無限に貴様たちを襲い続けるぞ」



 マッシュの声を合図に、亡霊たちはその手に武器をとった。

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