《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第70話~レリル・ロロナⅡ~
霧の中を歩く。
硬い鉱山の土を踏みしめる。
たぶん、どこかが壊れているのだと思う。ちゃんと筋立てて物事を考えることはできる。たとえば、マッシュが神の図書館とやらを目指していることはわかる。そのために〝封印〟を解く必要があるという理屈もわかる。〝英雄印〟が邪魔だという考えもわかる。
でも、人を殺したときに、何も感じることがない。今まで何人か拷問にかけたこともある。泣き叫んでいた。何も感じなかった。どうして自分は何も感じないのだろうかと気になった。
両親を殺したときに、何かが壊れてしまったのかもしれない。
ロロナは鉱山の山腹から、ふもとのあたりを見下ろしていた。霧が濃い。目をこらさなければならなかった。
最後の1人。
8獣長の族長を目だけで探した。
ウサミミの生えたものが鉱石を運んでいるのが見えた。それをネコ耳を生やしたものと、イヌ耳を生やしたものが縛っていた。人間に売るのだろう。
(不思議だなぁ)
人間ってのは、なんでも欲しがる。
エルフの森の資源。獣人族の山の資源。そして蜥蜴族の海の資源も交易で手に入れる。なんで手に入れたがるのか。また疑問が水泡のごとく吹き上がってくる。
叩き潰してやりたくなる。
「おや……」
と、声をあげた。
華美な服をまとった女の姿を見つけた。赤と青のオッドアイの輝きが霧を通してもよく見えた。8獣長の最後のひとりに違いなかった。
(さっさと殺すか)
殺人に躊躇を感じないのは、人として壊れている。だが、殺し屋としての才はあった。鎌を構えた。身を低くする。いっきに勾配を駆け下りた。
霧を切り開いていく。ロロナの疾駆を止められる者はいない。獣人族たちのなかを、緋色の風のように駆け抜けていった。
8獣長に迫った。
8獣長のネコ女がハッとしたように身構えた。
遅い。
ロロナは鎌をネコ女の首に鎌をかけた。いや。かけようとした。防がれた。無数の剣がロロナの鎌を弾いたのだった。いったいどこから剣が伸びてきたのか……。その出所を探った。ネコ女を守るようにして1人の女が立っていた。
両腕から剣を生やしており、さらに槍を構えていた。
長い黒髪を、鉱山を吹く風になびかせている。
「ん……まさか……ッ」
カラダから剣を生やすことの出来る者がいるという話を聞いたことがある。〝無限剣印〟。ロダマリア帝国で帝国騎士長をつとめたと言われている。
(たしか……)
名前は、イティカ・ルブミラル。
フィルドランタにおいて、10本の指には入る剣士だと名高い人物だ。しかし、イティカ・ルブミラルはもっと高身長の女のはずだ。髪の色もプラチナブロンドだと聞いている。
「何者なのだ?」
問いかけた。
問いかけつつ周囲の様子を探る。周囲は鉱山の窪地になっていた。獣人族が壁やら地面を穴ぼこだらけにしている。穴に落ちないように気をつけなければいけない。それに、人の顔ほどもある鉱石がごろごろと転がっている。
「オレ――じゃなくて、私の名前は、クロカミ・セーコ」
聞いたことのない名前だ。
「貴族の娘なのか?」
うつくしい娘だった。
ロロナは金持ちや貴族といった人種が嫌いだった。特に理由はない。ただ金で幸せを手に入れているようなヤツらが嫌いなのだ。俗っぽい妬みだ。自分が廃れた存在だからかもしれない。
「貴族ではない」
「その能力。〝無限剣印〟と見受けたのだ。そのチカラは帝国騎士長のイティカ・ルブミラルという女のものなのだ。他に同じ印を持っている者がいるとは思わなかったのだ」
「そうか」
何でも良い。
殺せば済む話だ。
ロロナはふたたび鎌を構える。
もう8獣長を殺すという目的は後回しになっていた。目の前の女を斬れるかどうか――。この鎌を防げるかどうか。それだけだ。
「私の邪魔をするヤツは、みんな殺すのだ」
鎌を構えた。
硬い鉱山の土を踏みしめる。
たぶん、どこかが壊れているのだと思う。ちゃんと筋立てて物事を考えることはできる。たとえば、マッシュが神の図書館とやらを目指していることはわかる。そのために〝封印〟を解く必要があるという理屈もわかる。〝英雄印〟が邪魔だという考えもわかる。
でも、人を殺したときに、何も感じることがない。今まで何人か拷問にかけたこともある。泣き叫んでいた。何も感じなかった。どうして自分は何も感じないのだろうかと気になった。
両親を殺したときに、何かが壊れてしまったのかもしれない。
ロロナは鉱山の山腹から、ふもとのあたりを見下ろしていた。霧が濃い。目をこらさなければならなかった。
最後の1人。
8獣長の族長を目だけで探した。
ウサミミの生えたものが鉱石を運んでいるのが見えた。それをネコ耳を生やしたものと、イヌ耳を生やしたものが縛っていた。人間に売るのだろう。
(不思議だなぁ)
人間ってのは、なんでも欲しがる。
エルフの森の資源。獣人族の山の資源。そして蜥蜴族の海の資源も交易で手に入れる。なんで手に入れたがるのか。また疑問が水泡のごとく吹き上がってくる。
叩き潰してやりたくなる。
「おや……」
と、声をあげた。
華美な服をまとった女の姿を見つけた。赤と青のオッドアイの輝きが霧を通してもよく見えた。8獣長の最後のひとりに違いなかった。
(さっさと殺すか)
殺人に躊躇を感じないのは、人として壊れている。だが、殺し屋としての才はあった。鎌を構えた。身を低くする。いっきに勾配を駆け下りた。
霧を切り開いていく。ロロナの疾駆を止められる者はいない。獣人族たちのなかを、緋色の風のように駆け抜けていった。
8獣長に迫った。
8獣長のネコ女がハッとしたように身構えた。
遅い。
ロロナは鎌をネコ女の首に鎌をかけた。いや。かけようとした。防がれた。無数の剣がロロナの鎌を弾いたのだった。いったいどこから剣が伸びてきたのか……。その出所を探った。ネコ女を守るようにして1人の女が立っていた。
両腕から剣を生やしており、さらに槍を構えていた。
長い黒髪を、鉱山を吹く風になびかせている。
「ん……まさか……ッ」
カラダから剣を生やすことの出来る者がいるという話を聞いたことがある。〝無限剣印〟。ロダマリア帝国で帝国騎士長をつとめたと言われている。
(たしか……)
名前は、イティカ・ルブミラル。
フィルドランタにおいて、10本の指には入る剣士だと名高い人物だ。しかし、イティカ・ルブミラルはもっと高身長の女のはずだ。髪の色もプラチナブロンドだと聞いている。
「何者なのだ?」
問いかけた。
問いかけつつ周囲の様子を探る。周囲は鉱山の窪地になっていた。獣人族が壁やら地面を穴ぼこだらけにしている。穴に落ちないように気をつけなければいけない。それに、人の顔ほどもある鉱石がごろごろと転がっている。
「オレ――じゃなくて、私の名前は、クロカミ・セーコ」
聞いたことのない名前だ。
「貴族の娘なのか?」
うつくしい娘だった。
ロロナは金持ちや貴族といった人種が嫌いだった。特に理由はない。ただ金で幸せを手に入れているようなヤツらが嫌いなのだ。俗っぽい妬みだ。自分が廃れた存在だからかもしれない。
「貴族ではない」
「その能力。〝無限剣印〟と見受けたのだ。そのチカラは帝国騎士長のイティカ・ルブミラルという女のものなのだ。他に同じ印を持っている者がいるとは思わなかったのだ」
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