《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第67話~取引~
「ところで英雄よ」
マタタビ茶の臭いが強く香る部屋で、ニヤはそう切り出した。〝英雄印〟と呼ばれる印は持っている。だが、英雄と呼ばれるほどの大事を成し遂げた覚えはない。そう謙遜したのだが、ニヤはつづけた。
「英雄よ。ワラワと取引をせんか?」
「取引?」
「〝英雄印〟は他者と印を重ねることで、その相手の能力を使うことができる。そうであろう?」
「ええ」
よく知っている。それを知っている者は、人族のなかには、あまりいなかった。
「ワラワの魔法はどうじゃ? 欲しいとは思わんか?」
〝霊媒印〟
珍しい魔法ではある。
しかし実用的かどうかと考えると難しい。
「死者なら誰でも呼び出せるのですか?」
「いや。形見がないといかん。たとえばさっき族長を呼び出したときには、マタタビを使ったじゃろう」
「形見――ですか」
セイにはそういうものはない。
会いたい死者もいない。
「わかりました。その能力をいただきましょう。それで、取引とはいったい何をすれば良いのですか?」
強引にそう話をすすめたのはキリアだ。
よくぞ訊いてくれたと言わんばかりに、ニヤは上体を乗り出した。
「実は今、獣人族は厄介な問題を抱えておってな。〝封印〟のこととは別に、むしろ〝封印〟よりも厄介であるとも言える」
「それは?」
「8獣長が次々と殺されておる。すでに7人が殺された。残されているのはワラワだけじゃ」
それで獣人族はどことなくピリピリしていたのだ。話を聞くこともせずに、セイたちを一度は牢屋に入れたのも警戒態勢だったからなのだろう。
「なぜ、8獣長が?」
と、キリアが話を進めていく。
セイは黙してお茶をすすることにした。
「わからんが、ワラワの命も狙われていると見て間違いはなかろう。ワラワの印のチカラで、ある程度の情報は手に入れている。殺したのは大鎌を持った少女でレリル・ロロナと名乗ったそうじゃ」
聞いたことのない名前だ。
「レリル・ロロナ――ですか」
何か思い当る節でもあるのか、キリアは思いつめたような表情を見せた。
「レリル・ロロナからワラワを守ってくれれば、〝霊媒印〟をくれてやっても良いが、この取引はいかがじゃろうか?」
「引き受けましょう」
チカラ強く返事をしたのは、キリアだ。
あの――とセイは口をはさんだ。セイはまだ否応とも返事をしていないのだ。ニヤが守ってくれと言っているのであれば、協力するのはやぶさかではない。ただ、なにゆえキリアがここまで乗気なのかがわからなかった。
「助かる。英雄に手を貸してもらえるのであれば、ワラワもすこしは安心できるというものじゃ」
ニヤは満面の笑みでそう言った。
マタタビ茶の臭いが強く香る部屋で、ニヤはそう切り出した。〝英雄印〟と呼ばれる印は持っている。だが、英雄と呼ばれるほどの大事を成し遂げた覚えはない。そう謙遜したのだが、ニヤはつづけた。
「英雄よ。ワラワと取引をせんか?」
「取引?」
「〝英雄印〟は他者と印を重ねることで、その相手の能力を使うことができる。そうであろう?」
「ええ」
よく知っている。それを知っている者は、人族のなかには、あまりいなかった。
「ワラワの魔法はどうじゃ? 欲しいとは思わんか?」
〝霊媒印〟
珍しい魔法ではある。
しかし実用的かどうかと考えると難しい。
「死者なら誰でも呼び出せるのですか?」
「いや。形見がないといかん。たとえばさっき族長を呼び出したときには、マタタビを使ったじゃろう」
「形見――ですか」
セイにはそういうものはない。
会いたい死者もいない。
「わかりました。その能力をいただきましょう。それで、取引とはいったい何をすれば良いのですか?」
強引にそう話をすすめたのはキリアだ。
よくぞ訊いてくれたと言わんばかりに、ニヤは上体を乗り出した。
「実は今、獣人族は厄介な問題を抱えておってな。〝封印〟のこととは別に、むしろ〝封印〟よりも厄介であるとも言える」
「それは?」
「8獣長が次々と殺されておる。すでに7人が殺された。残されているのはワラワだけじゃ」
それで獣人族はどことなくピリピリしていたのだ。話を聞くこともせずに、セイたちを一度は牢屋に入れたのも警戒態勢だったからなのだろう。
「なぜ、8獣長が?」
と、キリアが話を進めていく。
セイは黙してお茶をすすることにした。
「わからんが、ワラワの命も狙われていると見て間違いはなかろう。ワラワの印のチカラで、ある程度の情報は手に入れている。殺したのは大鎌を持った少女でレリル・ロロナと名乗ったそうじゃ」
聞いたことのない名前だ。
「レリル・ロロナ――ですか」
何か思い当る節でもあるのか、キリアは思いつめたような表情を見せた。
「レリル・ロロナからワラワを守ってくれれば、〝霊媒印〟をくれてやっても良いが、この取引はいかがじゃろうか?」
「引き受けましょう」
チカラ強く返事をしたのは、キリアだ。
あの――とセイは口をはさんだ。セイはまだ否応とも返事をしていないのだ。ニヤが守ってくれと言っているのであれば、協力するのはやぶさかではない。ただ、なにゆえキリアがここまで乗気なのかがわからなかった。
「助かる。英雄に手を貸してもらえるのであれば、ワラワもすこしは安心できるというものじゃ」
ニヤは満面の笑みでそう言った。
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