《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第66話~霊媒印~
大空洞の奥にはトビラがあった。中に入ると小部屋があった。ベッドと机が置かれていた。ロウソクの入ったカンテラが天井からつるされていた。簡素な部屋だが、洞窟の中だとは信じられないぐらいシッカリとした造りだ。岩室、とでも言うのかもしれない。
「茶でも出そう。腰かけよ」
「お邪魔します」
セイとキリアは並んで腰かけた。獣人族はこうして洞窟の中に、自分の部屋を持っているということだった。悪魔の雨も防げるかと思った。だが、雨漏りや飲み水などによって雄はすべてモンスターになってしまったということだった。なににせよ、霧になってしまい、逃れることはできなかっただろうが。
「ワラワの生きている時代に、まさかこの災厄が訪れようとは思わなんだ」
「モンスターに襲われたりはしなかったんですか?」
「追い払うのに苦労はした。さいわい今は落ちついたがな」
ここでも一騒動があったのだろう。
テーブルの上に3人分の御茶が並べられた。軽く口をつけてみた。舌がしびれるぐらいに苦かった。
「ぐ、ぐへェ」
と、キリアも変な声をあげている。
「おっと、これは人族はあまり好まんのじゃったかな。マタタビをすりつぶして煮たてた御茶なのじゃが」
「どうやらオレの口にも合わないようです。すみません」
酸味があるわけではないのだが、鼻の奥がツンとする渋い臭いが部屋に充満していた。
「こっちにしておくか」
と、別のものを出してくれた。
いったいなんのお茶なのかは知らないが、甘味のある飲みやすいものだった。
「で、オメーらが来た理由はだいたいわかる。あれじゃろう。獣人族が引き継いでいた〝封印〟について知りたいのであろう」
「はい」
「〝封印〟は、8獣長をまとめていた獣人族長が持っておった。イチバン偉い族長じゃ。が、殺されてしもうてな」
「そうでしたか」
やはりエルフ族と同じだ。
「亡霊に殺されてしもうた」
「亡霊?」
セイとキリアは顔を見合わせた。
「ワラワもその現場を直接見ていたわけではない。しかし、亡霊に殺されたというのは間違いはない」
「亡霊ってのは、つまり死人ということですか?」
「うむ。論より証拠。実際に見せてやろう。ワラワは死者を一時的に呼び寄せる〝霊媒印〟というチカラを持っておるでな。8獣長は8人とも珍しい強力な印を持っておるんじゃ」
ニヤは懐からマタタビを取り出した。
そのマタタビにニヤが手をかざすと、半透明の蒸気のようなものが吹き上がった。蒸気は輪郭を持ち、顔を浮かび上がらせた。前身が毛でおおわれた腹のたるんだネコだった。
これが――。
「亡霊?」
亡霊というから、もっと怖いものを想像していた。
恐怖のカケラもない。
『ッたく、そう死人を何度も呼び出すではないわ。このメス猫めッ。ッと客人がおるか。ニャーんと、吾輩の目がたしかであれば、こやつは英雄王の印を持つ男じゃな。さっそく獣人族のもとに訪れたか。蜥蜴族のところにはもう言ったのかニャ?』
「えっと……いえ、まだ。エルフに会っただけです」
『それは見どころがあるニャ。蜥蜴族なんか気色の悪い連中よりも、獣人族のほうは良かろう』
ニャハハハ――と笑っている。
でっぷりとした腹が揺れていた。
いったい何なのか。
ニヤが説明してくれた。
これはニヤの魔法で呼び出した亡霊だということだ。つまりすでに死んでいるはずの存在なのだ。そしてこの亡霊は、〝封印〟を持っていた獣人族族長だということだ。
獣人族の族長というのは、ぜんぜん威厳がないんだなと失礼な感想を抱いてしまった。
『いかにも。吾輩が族長である。いや。もう死んだから族長であったと言うべきかニャ』
信じられないと言っても、目の前で起きていることに疑う余地はなかった。
「獣人族の持っていた〝封印〟はどうなったのですか?」
ボウ然としていたセイのとなりで、キリアがそう問いかけた。
『吾輩は亡霊に殺されて、〝封印〟は奪われてしもうた。悪魔の雨が降ったということは、エルフ族、獣人族、蜥蜴族の3種族ともやられていると見て間違いないニャ』
「そうですか」
『面目ないニャ。おそらく敵にも亡霊をあやつるような印の持ち主がおるに違いないニャ』
「敵?」
そう疑問をつぶやいたのは、セイだ。
敵、とはいったい何なのか。
モンスターのことではないのか。
いかにも――と族長は神妙にうなずいた。
『気をつけよ。英雄王の印を持つ者よ。大きなものが動いておる気配がする。悪魔の雨を引き起こしたのは、1人や2人ではない。何やら組織だって動いておる。それもチカラのある者たちの仕業だニャ』
そう言うと、族長の亡霊は消えた。
言葉を継いだのはニヤだ。
「――というわけじゃ。ワラワの印では亡霊を呼び出せるのは、ほんの数秒。今のが限界じゃな。もう一度、呼び出すには少し休まねばならん」
「ムリをさせてすみません」
「なぁに、気にすることはない。こうして近くで男を見ているだけで、ワラワは幸せじゃからのぉ」
潤んだオッドアイを向けてきた。
「はぁ」
色気に当てられて、セイは目をそらした。
キリアは顔をしかめていた。
マジメなキリアはフォルモルの揶揄にたいしても、ときおり顔をしかめている。あまりこういうノリが得意ではないのだろう。
とにかく――。
エルフ族と同じように、獣人族の持っていた〝封印〟も何者かに奪われたということだ。
「茶でも出そう。腰かけよ」
「お邪魔します」
セイとキリアは並んで腰かけた。獣人族はこうして洞窟の中に、自分の部屋を持っているということだった。悪魔の雨も防げるかと思った。だが、雨漏りや飲み水などによって雄はすべてモンスターになってしまったということだった。なににせよ、霧になってしまい、逃れることはできなかっただろうが。
「ワラワの生きている時代に、まさかこの災厄が訪れようとは思わなんだ」
「モンスターに襲われたりはしなかったんですか?」
「追い払うのに苦労はした。さいわい今は落ちついたがな」
ここでも一騒動があったのだろう。
テーブルの上に3人分の御茶が並べられた。軽く口をつけてみた。舌がしびれるぐらいに苦かった。
「ぐ、ぐへェ」
と、キリアも変な声をあげている。
「おっと、これは人族はあまり好まんのじゃったかな。マタタビをすりつぶして煮たてた御茶なのじゃが」
「どうやらオレの口にも合わないようです。すみません」
酸味があるわけではないのだが、鼻の奥がツンとする渋い臭いが部屋に充満していた。
「こっちにしておくか」
と、別のものを出してくれた。
いったいなんのお茶なのかは知らないが、甘味のある飲みやすいものだった。
「で、オメーらが来た理由はだいたいわかる。あれじゃろう。獣人族が引き継いでいた〝封印〟について知りたいのであろう」
「はい」
「〝封印〟は、8獣長をまとめていた獣人族長が持っておった。イチバン偉い族長じゃ。が、殺されてしもうてな」
「そうでしたか」
やはりエルフ族と同じだ。
「亡霊に殺されてしもうた」
「亡霊?」
セイとキリアは顔を見合わせた。
「ワラワもその現場を直接見ていたわけではない。しかし、亡霊に殺されたというのは間違いはない」
「亡霊ってのは、つまり死人ということですか?」
「うむ。論より証拠。実際に見せてやろう。ワラワは死者を一時的に呼び寄せる〝霊媒印〟というチカラを持っておるでな。8獣長は8人とも珍しい強力な印を持っておるんじゃ」
ニヤは懐からマタタビを取り出した。
そのマタタビにニヤが手をかざすと、半透明の蒸気のようなものが吹き上がった。蒸気は輪郭を持ち、顔を浮かび上がらせた。前身が毛でおおわれた腹のたるんだネコだった。
これが――。
「亡霊?」
亡霊というから、もっと怖いものを想像していた。
恐怖のカケラもない。
『ッたく、そう死人を何度も呼び出すではないわ。このメス猫めッ。ッと客人がおるか。ニャーんと、吾輩の目がたしかであれば、こやつは英雄王の印を持つ男じゃな。さっそく獣人族のもとに訪れたか。蜥蜴族のところにはもう言ったのかニャ?』
「えっと……いえ、まだ。エルフに会っただけです」
『それは見どころがあるニャ。蜥蜴族なんか気色の悪い連中よりも、獣人族のほうは良かろう』
ニャハハハ――と笑っている。
でっぷりとした腹が揺れていた。
いったい何なのか。
ニヤが説明してくれた。
これはニヤの魔法で呼び出した亡霊だということだ。つまりすでに死んでいるはずの存在なのだ。そしてこの亡霊は、〝封印〟を持っていた獣人族族長だということだ。
獣人族の族長というのは、ぜんぜん威厳がないんだなと失礼な感想を抱いてしまった。
『いかにも。吾輩が族長である。いや。もう死んだから族長であったと言うべきかニャ』
信じられないと言っても、目の前で起きていることに疑う余地はなかった。
「獣人族の持っていた〝封印〟はどうなったのですか?」
ボウ然としていたセイのとなりで、キリアがそう問いかけた。
『吾輩は亡霊に殺されて、〝封印〟は奪われてしもうた。悪魔の雨が降ったということは、エルフ族、獣人族、蜥蜴族の3種族ともやられていると見て間違いないニャ』
「そうですか」
『面目ないニャ。おそらく敵にも亡霊をあやつるような印の持ち主がおるに違いないニャ』
「敵?」
そう疑問をつぶやいたのは、セイだ。
敵、とはいったい何なのか。
モンスターのことではないのか。
いかにも――と族長は神妙にうなずいた。
『気をつけよ。英雄王の印を持つ者よ。大きなものが動いておる気配がする。悪魔の雨を引き起こしたのは、1人や2人ではない。何やら組織だって動いておる。それもチカラのある者たちの仕業だニャ』
そう言うと、族長の亡霊は消えた。
言葉を継いだのはニヤだ。
「――というわけじゃ。ワラワの印では亡霊を呼び出せるのは、ほんの数秒。今のが限界じゃな。もう一度、呼び出すには少し休まねばならん」
「ムリをさせてすみません」
「なぁに、気にすることはない。こうして近くで男を見ているだけで、ワラワは幸せじゃからのぉ」
潤んだオッドアイを向けてきた。
「はぁ」
色気に当てられて、セイは目をそらした。
キリアは顔をしかめていた。
マジメなキリアはフォルモルの揶揄にたいしても、ときおり顔をしかめている。あまりこういうノリが得意ではないのだろう。
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