《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第60話~雨から霧へ~

 雨が、止んだ。



 厚くたちこめていた暗雲が吹き飛ばされてゆき、空はハケで塗りつぶしたように青く染まった。



 しかしそれは朗報ではなかった。『悪魔の雨は、悪魔の霧となって世界に蔓延しはじめるのです』。レフィール伯爵から念話を受けた。



 レフィール伯爵は伯爵なりにいろいろと調べて、エルフ族、獣人族、蜥蜴族の〝封印〟について知ったそうだ。



『霧になると、今まで雨に濡れずに逃れていた人も、いよいよモンスターになるかもしれません』



 レフィールの伯爵の声が、セイの脳裏に直接響く。



「逃げ場はないということですか」



『ホントウにもうこのフィルドランタの男性は、セイしかいないかもしれません。覚悟しておいてください』



 儚くも重い声だった。



「ミリス・ローネ王子は?」



『わかりません。あの一件依頼部屋に閉じこもったままだとか』



「そうですか」



 ドラゴンになってビビらせたのだが、ちょっとやり過ぎたのかもしれない。悪いことをしたなと思う一方で、レフィール伯爵と強引に結婚しようとしたのだから、それぐらいのお灸は必要だという気持ちもあった。



『この悪魔の霧でモンスターになってしまうのは、人族、エルフ族、獣人族、蜥蜴族――とある程度の知能を持った種族――もっと言うならば印を持った種族のみに効果があるようです』



「印を持った種族――ですか」
 昆虫や鳥や魚には効果がないということだろう。



 今ハッキリしてるのは、それぐらいです――とレフィール伯爵は言った。



『これからが大変ですよ』



「もう充分、大変なことになってますけどね」



 都市サファリアの4人部屋。フォルモルとキリアとシラティウスはまだ熟睡している。レフィール伯爵の声を受けて、セイだけ一足先に目が覚めたのだ。窓の外。ストリートにいる女たちが「雨がやんだ!」「雨がやんでるわ!」と歓喜の声をあげていた。



『何かあったのですか?』
「いや、たいしたことじゃないんですが……」



 冒険者たちはチームを組んで行動することが多い。「クラン」と言う。多くのクランが存在しており、おのおののクランは何か目的を持っている。



 たとえば、近隣の村を守ることにチカラを入れているクランがある。都市近辺の警護に尽力しているクランがある。他にも薬草を集めることを大義としているクランもあった。



 そんななかで最近、奇妙なクランがいくつか結成された。《愛を求めるもの》アストランチアなんかは、男を探し出すのだと露骨に主張している。



 しばらく人前で男の姿をさらけ出せそうにない。



『求められるのは仕方のないことです』
「わかってはいるんですけどね」



 窓を開けた。
 景色は霧でけぶっている。



 雨で涼をおぼえた空気がセイの頬をやさしくナでた。その空気にも女の香りがたっぷりと含まれていた。熟れた果実の芳烈な匂いがセイの肺に満たされた。



 肉欲をたぎらせた女たちからは、セイがたじろぐほどのフェロモンを発散していた。それが都市全体に蔓延しているのだ。



 近くにいる女たちにも言えることだった。フォルモルは下着姿でベッドにもぐりこんでいる。シラティウスは胎児のように身を丸めて眠っている。キリアにいたっては、寝相が酷くて艶めかしい素足がさらけだされている。



 女性の足というのは、どうしてこうも男と作りが違うのかと不思議に思う。果実をタップリと含んだ風船のようだ。



『私だって最近は、セイのことを想うと足腰が立たなくなってしまうほどです』



「大丈夫ですか?」



『ええ。女としての本能が警鐘を発しているのかもしれません。自分でも淫猥だと思うほどに……。いえ、この話はやめておきましょう』



 レフィール伯爵の声がふるえていた。



 気にはなったが、あえて問いたださないでおいた。



「オレたちは、これから獣人族のところに行ってみようかと思います」



『そうですね。〝封印〟について、何かつかめるかもしれません』



「それから、ひとつ調べておいて欲しいことがあるんですけど、頼まれてもらえますか?」



『なんでしょう?』
 レフィール伯爵の首をかしげる様子が目に見えるかのようだった。プラチナブロンドの髪が、小さく揺れていることだろう。



神の図書館アカシック・レコードという存在について、調べておいてもらえますか?」



『聞いたことありませんね』



「エルフの森を襲ったタギール・ジリアルという女なのですが」



『ええ。シルベ教の――フォルモルの仇敵ですね』



 フォルモルとの深い怨恨については、すでに伝えてあった。



「その女が、事あるごとに神の図書館という言葉を用いていたそうです」



『それは気になりますね』
 わかりました、調べておきましょう――とレフィール伯爵は言った。



「お願いします。これからは、定時連絡とかしていきましょうか?」



『いえ。けっこうですよ。あまり何度もセイの声を聞いていると、変な気持ちになってしまうので』



「はぁ……」
 どう変になるのか。



 瞳をぎらつかせ、小鼻を花びらのように広げて男を探す、都市サファリアの女たちと同じように、レフィール伯爵もまた肉欲に飢えているのだろうか……と想像してみたものの、清雅そのものとも言えるレフィール伯爵が、そんな有様になっているとは思えなかった。



『それではセイ。他に調べて欲しいことはありますか?』



「いえ……。あの――、ひとつ尋ねたいことがあるんですけど――」



『なんです?』
「いえ。やっぱりいいです。大丈夫です」



『そうですか。遠慮なくおっしゃってくださいね』



「ええ」



 レフィール伯爵は下着をつけないというのは、ホントウだろうか。気になったが、真っ向から質問できる内容ではなかった。

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