《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第54話~フォルモルの因果~
セイは女の姿のまま、ケルベロスと対峙していた。
ホントウならば森で退治したとき同じようにドラゴンになりたかった。しかし、ここはクト村だ。人の目もある。迂闊にドラゴンになることはできなかった。ドラゴンハンターという存在もあるように、ドラゴンの姿は簡単にさらして良いものではない。
だから。
仕方なくクロカミ・セーコとして援護に入った。
「君は、森にいたんじゃなかったのか?」
と、瀕死のイティカが尋ねてきた。
「タギール・ジリアルに不審なところがあったゆえ、追いかけてきました。するとクト村のほうで騒ぎになっているのが見えましたので」
「そうか。しかし私のことは放って、さっさと逃げたほうが良い。これは生半可な敵ではない」
あの青年さえいてくれれば……とイティカは呟いていた。
その青年というのは、今、イティカの眼前で槍を構えているセイのことだ。が、女性であるがために、その正体を見抜けないようだった。
(たしかに……)
と、セイも思う。
ドラゴンの姿にならずに、ケルベロスを倒すというのは容易ではない。
「傷を癒しましょう」
フォルモルがイティカの傷の治療に当たってくれた。
「なら、2人がかりでこいつを仕留めるとするか」
と、キリアがセイのとなりに並んだ。
シラティウスは、少し離れたところにあるキャリッジの中から、眠たげな顔をのぞかせていた。
「ふーっ」
呼吸をととのえた。
ケルベロスが獰猛な琥珀色の瞳を、セイに向けていた。セイは見つめ返した。その瞳の中に自分の姿があった。女の姿だった。
不思議だ――と思う。
ケルベロスを前にしても、怖い、という感情は微々たるものだった。皆無ではない。多少はある。
もしも王都で一兵卒をやっていたころであれば、失禁して逃げ出していたかもしれない。何が変わったのか。考えた。強くなったからかもしれない。みんなの印を重ねて、彼女たちのチカラが自分のものとなった。
だから、怖くないのかもしれない。
「何人来ようと同じことだ。行くぜ」
切り出したのはタギールだった。
ケルベロスが農地を駆けた。
それに合わせてキリアが疾駆した。
「らぁぁぁッ」
左側から生えているケルベロスの顔面に、キリアのコブシがまともに入った。ケルベロスから数本の歯が飛び散った。痛覚のないケルベロスもさすがに怯んだようで、2、3歩後退した。
すかさずセイが追い打ちをかけた。ケルベロスの懐に入り込んで、その脚をかかえた。ケルベロスのカラダをそのまま横倒しにした。筋力増強魔法をもってしても、さすがに重い。それでもケルベロスは左半身を泥に埋めていた。
倒すには至っていない。
ケルベロスは緩慢な動作で、巨体を持ち直していた。
「へぇー。やるじゃねェか」
ケルベロスから降りて、タギールはセイたちと同じ大地に足をつけた。シルベ教の模様の入ったフードと背負ったカンオケは相変わらずだ。タギールはカンオケを放り投げた。カンオケは地面に突き刺さるようにして立った。
「タギールさん。どうしてこんなことを」
セイが問いかけた。
冒険者ギルドのことを教えてもらった気さくな人だと思っていた。
「テメェらには最初から興味があったんだ。知っている顔が1つあったからな。もっともそっちは私のことを覚えてねェようだけど。まぁ、ムリもない。当時はテメェは子供だったからな」
「知ってる顔?」
セイに心当たりはない。
キリアも首をかしげている。
「そこの女だよ。《ヒール教》とか言ったか。あの邪教徒の娘だ。ん? 思い出したかな?」
フォルモルはイティカを治癒しながら、タギールのことを睨んでいた。フォルモルのそんな顔を見るのははじめて見る。
「私は見ての通りシルベ教に属する者だ。しかも枢機卿って、けっこう偉い立場についてんだぜ。《ヒール教》を潰させたのはこの私だよ。あんたの両親を手にかけたのも、この私だ」
フォルモルはイティカを地面に寝かせると、弾かれたように駆けた。タギールに殴りかかろうとしたようだ。フォルモルは逆にタギールに蹴り飛ばされていた。蹴り飛ばされたところをセイが受け止めた。
「あなたが私の両親を……」
絞り出すような声でフォルモルはつぶやいた。
「けけけッ。そういうことだ。最初は英雄王の印を持つ男ってヤツを探してたんだけど、テメェにも興味があった。だから近づいたのさ。まさか気づかないなんてな。昔のこととはいえ、笑っちまいそうになったよ」
「許さない……」
フォルモルがセイの腕を振り払おうとした。セイはフォルモルのことを離さなかった。相手は、ケルベロスを召喚するようなヤツだ。挑発に乗って突っ込んだら、間違いなく返り討ちに合う。
「安心しなよ。別に拷問とかはしてねェからよ。どうか娘たちだけはお助けください――って死ぬ直前までそう訴えているだけだった。剣で一突き。グサッ。それで終わりだ」
子供が駄々をこねるようにフォルモルがかぶりを振っていた。
タギールはわざとフォルモルの傷をえぐるようなことを言っているのだ。
これ以上聞かせてはならない。
そう思った。
セイはフォルモルの耳に手を当てた。
「けけけッ。ホントウは英雄王の印を持つ男ってヤツを殺すつもりだったんだが、やってこねェみたいだし、私はこれで帰るとしよう。今度会ったときは、そのときがテメェらの最期だ」
何もない空間にトビラが現われた。
何かの魔法か……。
セイはそれを見極めようと目をこらした。セイとタギールの目があった。タギールは一瞬だけ怪訝な表情をして見せた。
「あんた……まさか……。いや。違うか。女だもんな」
タギールはトビラの向こうに消えた。
同時に、ケルベロスは泥となって溶けていった。
ホントウならば森で退治したとき同じようにドラゴンになりたかった。しかし、ここはクト村だ。人の目もある。迂闊にドラゴンになることはできなかった。ドラゴンハンターという存在もあるように、ドラゴンの姿は簡単にさらして良いものではない。
だから。
仕方なくクロカミ・セーコとして援護に入った。
「君は、森にいたんじゃなかったのか?」
と、瀕死のイティカが尋ねてきた。
「タギール・ジリアルに不審なところがあったゆえ、追いかけてきました。するとクト村のほうで騒ぎになっているのが見えましたので」
「そうか。しかし私のことは放って、さっさと逃げたほうが良い。これは生半可な敵ではない」
あの青年さえいてくれれば……とイティカは呟いていた。
その青年というのは、今、イティカの眼前で槍を構えているセイのことだ。が、女性であるがために、その正体を見抜けないようだった。
(たしかに……)
と、セイも思う。
ドラゴンの姿にならずに、ケルベロスを倒すというのは容易ではない。
「傷を癒しましょう」
フォルモルがイティカの傷の治療に当たってくれた。
「なら、2人がかりでこいつを仕留めるとするか」
と、キリアがセイのとなりに並んだ。
シラティウスは、少し離れたところにあるキャリッジの中から、眠たげな顔をのぞかせていた。
「ふーっ」
呼吸をととのえた。
ケルベロスが獰猛な琥珀色の瞳を、セイに向けていた。セイは見つめ返した。その瞳の中に自分の姿があった。女の姿だった。
不思議だ――と思う。
ケルベロスを前にしても、怖い、という感情は微々たるものだった。皆無ではない。多少はある。
もしも王都で一兵卒をやっていたころであれば、失禁して逃げ出していたかもしれない。何が変わったのか。考えた。強くなったからかもしれない。みんなの印を重ねて、彼女たちのチカラが自分のものとなった。
だから、怖くないのかもしれない。
「何人来ようと同じことだ。行くぜ」
切り出したのはタギールだった。
ケルベロスが農地を駆けた。
それに合わせてキリアが疾駆した。
「らぁぁぁッ」
左側から生えているケルベロスの顔面に、キリアのコブシがまともに入った。ケルベロスから数本の歯が飛び散った。痛覚のないケルベロスもさすがに怯んだようで、2、3歩後退した。
すかさずセイが追い打ちをかけた。ケルベロスの懐に入り込んで、その脚をかかえた。ケルベロスのカラダをそのまま横倒しにした。筋力増強魔法をもってしても、さすがに重い。それでもケルベロスは左半身を泥に埋めていた。
倒すには至っていない。
ケルベロスは緩慢な動作で、巨体を持ち直していた。
「へぇー。やるじゃねェか」
ケルベロスから降りて、タギールはセイたちと同じ大地に足をつけた。シルベ教の模様の入ったフードと背負ったカンオケは相変わらずだ。タギールはカンオケを放り投げた。カンオケは地面に突き刺さるようにして立った。
「タギールさん。どうしてこんなことを」
セイが問いかけた。
冒険者ギルドのことを教えてもらった気さくな人だと思っていた。
「テメェらには最初から興味があったんだ。知っている顔が1つあったからな。もっともそっちは私のことを覚えてねェようだけど。まぁ、ムリもない。当時はテメェは子供だったからな」
「知ってる顔?」
セイに心当たりはない。
キリアも首をかしげている。
「そこの女だよ。《ヒール教》とか言ったか。あの邪教徒の娘だ。ん? 思い出したかな?」
フォルモルはイティカを治癒しながら、タギールのことを睨んでいた。フォルモルのそんな顔を見るのははじめて見る。
「私は見ての通りシルベ教に属する者だ。しかも枢機卿って、けっこう偉い立場についてんだぜ。《ヒール教》を潰させたのはこの私だよ。あんたの両親を手にかけたのも、この私だ」
フォルモルはイティカを地面に寝かせると、弾かれたように駆けた。タギールに殴りかかろうとしたようだ。フォルモルは逆にタギールに蹴り飛ばされていた。蹴り飛ばされたところをセイが受け止めた。
「あなたが私の両親を……」
絞り出すような声でフォルモルはつぶやいた。
「けけけッ。そういうことだ。最初は英雄王の印を持つ男ってヤツを探してたんだけど、テメェにも興味があった。だから近づいたのさ。まさか気づかないなんてな。昔のこととはいえ、笑っちまいそうになったよ」
「許さない……」
フォルモルがセイの腕を振り払おうとした。セイはフォルモルのことを離さなかった。相手は、ケルベロスを召喚するようなヤツだ。挑発に乗って突っ込んだら、間違いなく返り討ちに合う。
「安心しなよ。別に拷問とかはしてねェからよ。どうか娘たちだけはお助けください――って死ぬ直前までそう訴えているだけだった。剣で一突き。グサッ。それで終わりだ」
子供が駄々をこねるようにフォルモルがかぶりを振っていた。
タギールはわざとフォルモルの傷をえぐるようなことを言っているのだ。
これ以上聞かせてはならない。
そう思った。
セイはフォルモルの耳に手を当てた。
「けけけッ。ホントウは英雄王の印を持つ男ってヤツを殺すつもりだったんだが、やってこねェみたいだし、私はこれで帰るとしよう。今度会ったときは、そのときがテメェらの最期だ」
何もない空間にトビラが現われた。
何かの魔法か……。
セイはそれを見極めようと目をこらした。セイとタギールの目があった。タギールは一瞬だけ怪訝な表情をして見せた。
「あんた……まさか……。いや。違うか。女だもんな」
タギールはトビラの向こうに消えた。
同時に、ケルベロスは泥となって溶けていった。
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