《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第52話~イティカVSタギール~

 トツジョとして現れたケルベロスの背中には、タギールがまたがっていた。



「これが私の印のチカラ〝召喚印〟だ」
 そう言い放った。



 ケルベロスが猛然と襲いかかってきた。肉欲に飢えた獣のようなキバは、しかしイティカに向かって来たのではなかった。



 近くにいたレドに襲いかかったのだ。アッという間にレドはケルベロスの口の中に放りこまれてしまった。その口からは、血がこぼれ出ていた。



「やられた!」
 あまりのことに反応できなかった。



 レドというクト村をまとめる者が食われたという事実が、おもむろに理解されていった。そしてその理解は、イティカに怒りを覚えさせた。



「チクショウッ。ザンザとテルデルンは村の者たちを避難させよ」



 イティカの命令を受けて、2人は弾かれたように動き出した。破壊されたとはいえ、家屋の中では戦いにくい。



 イティカも一度外へ出た。



 ケルベロスは上手い具合にイティカを追いかけてきた。いくつかの家屋を踏みつぶして、木造の柵を蹴り倒して、ケルベロスはぬかるんだ農地へと出た。



「ほらほら、どうした。逃げてばかりじゃ〝無限剣印〟の名が泣くぜ」



 ケルベロスの背中にまたがっているタギールは高笑いを響かせた。



「アカジャックの森にいたケルベロスを襲わせたのも貴様か」



 イティカは手のひらから剣を生やした。
 刀剣を正眼に構える。



 足元がぬかるんでいる。



 ジッとしていては、泥の中に足が引きずり込まれていく。すこしずつ間合いをはかるようにして動いた。



「そうとも。あっちのケルベロスは、エルフの集落を襲うのに使ったのさ。まぁエルフの集落を潰した後、人里にもチョッカイをかけたがな」



 やはりただのモンスターではなかった。
 違和感はあったのだ。
 魔法で生み出された存在だからだ。



「なぜ、そのようなことを」



「すべては神の図書館アカシック・レコードへと接続するために」



「意味がわからんな」



 神の図書館
 イティカの記憶にはない言葉だった。



「今の人間にはわかる必要はないものだよ。私たちは今、愚かな人間をやめて未来へ進もうとしてるのさ」



「私たち?」
 仲間がいるということだ。



「そうさ。私たちはこの人間界にかけられた〝封印〟をといて、神の図書館に行くんだ。だから安心して死にな」



 ケルベロスが動いた。
 疾駆してくる。



 森にいたケルベロスよりかは脚が遅い。地面がぬかるんでいるからだ。ただその条件はイティカも同じだ。



 正面から突っ込んでくるケルベロスに上段からの一太刀をあびせた。キレイに顔面に入った。怯まない。
 


 今度は右の顔面が大口を開けて突っ込んでくる。



「《針鎧》」
 全身にレイピアのような細い剣をまとった。イガグリのように己を剣で包むことで、身を守るのだ。



 顔面にレイピアが刺さってもなお、突進してきた。カラダにまとっていた無数のレイピアが折れていく。イティカは弾き飛ばされることになった。



 シリモチをついた。3つ目の顔面が、倒れているイティカに跳びついてきた。



「せやァ」
 気合いとともに、腕から2本のフランベルジュを生やした。



 2本のフランベルジュは見事に、ケルベロスの双眸ひとみを潰した。痛みを感じている様子はなかった。



 だが、視界を潰されたことで3つ目の顔面は泥沼に頭を突っ込んでいた。目玉と潰したとはいえ、6つの目玉があるうちの2つだ。



「〝英雄印〟を持つ者の情報が耳に入るかと思って、冒険者ギルドにいたけど、テメェもなかなかやるじゃねェか」
 と、タギールは面白がるように言った。



「何か妙なモンスターだと思っていたが、ようやくわかった。そのモンスターはどうやら痛覚がないようだな」



 森での戦闘のときもそうだが、痛がって怯むということがないのだ。



「御名答。魔力で生み出したモンスターだからな」



「その強さ。正義のために使われないのは、残念なことだ」



「神の図書館への接続がイチバンの正義じゃないか」



 また、それだ。



「ムダに人を襲っておいて、何が正義だ」



 さいわいにもクト村への被害は少ない。ただ、レドが食い殺されてしまった。イティカの目の前で。自分の目の前で守るべき村娘が殺されたことに、イティカは強い憎悪を抱いていた。



「ま、なににせよ、テメェには死んでもらっておくよ。テメェの〝無限剣印〟は厄介そうだし」



「ふんッ。ガルガニア帝国で、帝国騎士長をつとめたこともあるこの私を倒せるというのなら、やってみるが良い」



 両手からフランベルジュを生やした。



 本来であれば両手であつかう大剣を、イティカは片手剣のように扱う。自分のカラダから剣を生やしていることで、その重量を支え切ることができるのだ。



「よく言うぜ。アカジャックの森では3人がかりで苦戦していたくせに」



「あの時は、私も本気ではなかったからな」



 ハッタリではない。
 これからだ――というときにドラゴンとなった青年がすべて片付けてしまっただけだ。



「やっちまいな」
 タギールの命令を受けてケルベロスが、イティカに迫ってきた。

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