《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第49話~男であることを隠して~

「はぁ」
 セイはため息を落として、ふたたび女性の姿に戻っていた。



 援護に入ったは良いが、男であることは隠しておきたかった。男を見つけたら、「テーブルに張り付ける」だとか「監禁する」と聞いてしまったいじょうは、正体をさらせない。



「おや……君は、クロカミ・セーコとか言ったか」



 男であるセイを探して追いかけてきたのか、イティカが茂みの奥までやって来た。



「あ、はい」



「このあたりに男が来なかったか? ちょうど君と同じ黒い髪の青年だったのだが」
 イティカは、周囲を探るようにしていた。


「いいえ。知りません」



「そうか……」
 と、イティカはあからさまに悄然がっくりと肩を落としていた。



 どうやら、セイの正体には気づいていないようだ。



「それより無事にケルベロスを倒すことができたみたいですね」



「私たちの手柄でないのだが、まぁ、バケモノを退治することが出来て良かった」



「ええ」



 ケルベロスの死体を冒険者ギルドに持ち帰ることになった。一度に運べる大きさではない。イティカと《シャクナゲ級》の冒険者2人は、一度森を出て死体を引くための馬を連れて来るということだった。



「それでは私たちは一度、サファリアに戻るとしよう。他に一緒に戻る者は?」



「ンじゃ、私も戻ります」
 と挙手したのは、タギール・ジリアルだ。相変わらず目玉の絵が描かれたシルベ教の服を着ている。



 タギールはセイたちについて来たが、結局何もしないままだった。いったい何をしについて来たのだろうか――とセイは不思議に思った。巨大なカンオケをかついでいたが、何が入っていたのかも、わからないままだ。



 アンヌはセイたちとともに残ると言った。



 こうして――。



 フォルモルとセイ。
 村娘のアンヌと、エルフのピュラが残されることになった。4人になった途端に、アンヌがセイににじり寄ってきた。



「あの――ッ」
「な、なんですか?」



 あまりの勢いだったので、セイは木の幹を背に追い詰められるようなカッコウになった。



「あなた。クロカミ・セーコさんとかおっしゃいましたか?」



「はい」



「何か隠していることはありませんか?」



 鼻と鼻が触れ合うほどに顔を近づけてくる。はじめて気づいたのだが、女性の姿になったことで、わずかに身長も縮んでいるようだった。



「隠している――こと?」
 今は女性の姿をしているが、その正体をアンヌは勘付いたのかもしれない。



「私は人の魔力を匂いでかぎわけることが出来るのです。あなたからはセイさまとソックリの匂いがします」



「セイ――さま?」
 自分がそのセイなのだが、「さま」をつけられるような覚えはない。



「セイさまはクト村を襲ったモンスターたちが、一瞬で片付けて、この私を死に至る傷から救ってくださった方です」



「は、はぁ?」
 すこし話がオオゲサになっている気がする。



 後ろではフォルモルが口にコブシを突っ込んで、笑いをこらえていた。助けてくれという意味を込めて目配せしたのだが、気づいてもらえなかった。



「あなたはセイさまの何なのですか! どうして同じ匂いがするのですか!」



 胸ぐらをつかんできた。
 雨に濡れた女が半狂乱になってつかみかかってくる姿には鬼気迫るものがあった。



「お、オレ――じゃなくて、私は――その――」



「セイさまのことをどこかに監禁しているのですね。あぁ! 私のセイさまが、他の女に捕まえられているなんて、なんて嘆かわしい!」



 とんだ勘違いだ。
 いったいそんな発想が、どこかで出てくるのか。このアンヌという娘は、ソバカスの似合う可憐な顔立ちをしているが、ちょっとヤバい人なのかもしれない。



「私は、セイの姉です」
 咄嗟のウソだった。



「お姉さん?」
「はい」



 アンヌの変わり身は速かった。セイから手を離すと軽く顔を伏せて、上目使いを送ってくる。



「お姉さまとは知らずに、失礼いたしました。私、クト村でセイさまに助けられたアンヌ・チェルと申します。セイさまとは結婚をするかもしれませんので、今後ともよろしくお願いします」



 この娘の頭の中は、いったいどうなっているのか。あまり関わり合いにならないほうが良さそうだ。



「えっと……。それじゃあ、クト村まで送りましょうか? こんなところにいるのも危険でしょうし」



「いえ。セイさまに会わせてください。セイさまを連れて村に帰り、挙式いたしますので」



 ちょっと助けただけだ。
 結婚なんてそんな話、一度も出ていなかった。



 ミリス・ローネに勝手に婚約者にされていたレフィール伯爵の気持ちがすこしわかってしまった。

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