《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第39話~冒険者ギルド~

 冒険者ギルド。



 もと自警団と聞いていたから、筋骨隆々の男たちが酒を飲み合っているような場面を想像した。もちろん、そんなはずはない。



 巨木を一刀両断にして、そのまま横倒しにしたような長机が置かれている。切り株のようなイスが並べられている。そこに座って酒を飲みかわしているのは、全員女だった。酒気を帯びた彼女たちは、頬を桃色に染めて、目がうるんでいた。



 会話が聞こえてくる。



『聞いたかい? クト村のこと』
 さっきセイが立ち寄った村だ。なんだろうかと耳をすませた。



『聞いたよ。いい男が出たんだってね』



『この雨に降られてもモンスターにならないどころか、アッという間にゴブリンを片付けちまったとか。オマケに妙な治癒魔法まで使って、ケガ人を治したって』



『雨に打たれてもモンスターにならないなんて、まるで神話に登場する英雄王ハーレムのようじゃないか』



『男を見つけたらどうする?』



『トウゼン、捕獲するだろう。この冒険者ギルドのテーブルに縛り付けて、裸にむいてみんなで酒でも飲みながら遊んでやりたいね』



『げッ。悪趣味なヤツ。私は誰にも見つからないように、どこか地下の暗いところに監禁しておくね』



『独り占めは良くないだろー』



 酒が回っているとはいえ、なんという怖ろしい会話をしているのか。



 薄ら寒いものを覚えたと同時に、女に変身しておいて良かったと胸をナでおろした。それにしても情報のまわりが早い。クト村に情報伝達系の魔法を使える者がいたのかもしれない。



 大きな木製の板があった。
 そこにいくつもの羊皮紙が張り付けられていた。



「おッ。見ない顔じゃねェーか。新入りかよ」
 と、声をかけられた。



 変わったイデタチをした女性だった。顔の左半分だけ隠れるようなフードをかぶっている。フードには目玉が描かれていた。右半分の顔は露出している。赤紫色の瞳をしていた。髪は短めで、フォルモルよりもすこし赤みを帯びた紫の髪だった。口元がつりあがって、八重歯がのぞいている。



「えっと……はじめまして」



 シルベ教の印よ――とフォルモルがセイに耳打ちをした。フードに描かれている目玉のことだろう。



「私もつい最近、この冒険者ギルドに来た者だ。名はタギール・ジリアル。新入り同士よろしくな」



「どうも」
 と、セイは頭を下げた。



 セイも名乗ることにしたのだが、本名を名乗って良いのかわからなかった。なにせ、女の姿になっているのだ。タギールの赤紫色の瞳には、セイの姿が女性として映っているはずなのだ。



 セーコと名乗ることにした。フォルモルが吹き出していたが、無視しておこう。



「それにしてもベッピンな娘だなぁ。貴族の娘か?」
 と、タギールはセイのことをナめるように見つめてきた。



「はぁ……いや、まぁ」
 と、適当にはぐらかしておいた。



 あんまり見ないで欲しい。



「テメェらはここに何しに来たのさ」



「冒険者ギルドというものがあると聞いたので、どういうものか見に来ました」



「見ての通り。女しかいない場所さ。……ってのは、冒険者ギルドだけじゃないか。ここに木の板があるだろ」



「ええ」
 セイが見ていた羊皮紙の張り付けられた木製の板だ。



「ここに各地からモンスターの情報や、モンスターに困っている村の情報が書かれている。ここから自分の実力に見合ったクエストを選んで、仕事をすれば良い。いわゆるクエストボードだ」



 羊皮紙を見てみると、どこにゴブリンが出たとか、どこの村の男たちがモンスターになった――といったことが書かれている。



「ちなみに、これは傭兵団のときからそうらしいが、冒険者には実力に応じた階級がつけられる。上から、《キングプロテア級》《シャクナゲ級》《デンドロビューム級》《フェンネル級》」



「花の名前ですか?」



「そう。新入りや大半のヤツは《フェンネル級》。私もそうだし、テメェも冒険者になるんだったら、《フェンネル級》からってことだ。だいたいクエストには、それ相応の花の紋様が描かれている」



 たしかに羊皮紙にはそれぞれ花の絵が描かれている。



「なら、これは?」



 一枚の羊皮紙にだけ、巨大な花の模様が描かれていた。



「これが《キングプロテア級》のクエスト。何人かは挑んでるようだけど、まだ誰もクエストを達成できてない」



 ときおり村に出ては人を食らう、三つ頭のイヌがいる。誰かあのバケイヌを退治して欲しい。そう書かれていた。神話か歴史書か何かで見た覚えがある。ケルベロスだ。



「強いんですか?」



「強いだろうね。今まで何人もの冒険者たちが返りうちに合ってる。ゆいいつ《キングプロテア級》の冒険者がひとり、ケルベロスのキバを叩き折ったらしいが、逃げられちまったって話だ」



 でもなにより――とタギールは言葉を続けた。



「見つけるのが難しいのさ。探しても見つからない。でも不意に現れては襲ってくる」



「隠れてるってことですか」



「アカジャックの森を住処にしちまってる。アカジャックの森は険しいからね。森の中を歩くにはエルフの案内人でもいないと、ムリな話だ。アカジャックの森にはエルフたちも住み着いてることだし」



「あ……」
 セイの脳裏で、情報がつながった。



 セイたちは、そのアカジャックに敷かれる街道を抜けてきた。その道中で傷ついたエルフの娘をひろった。



(あれは、もしかして……)
 ケルベロスにやられた傷だったのではないか?



 ヘルヘロだとか、エロエロと呟いていたあの唇は、もしかすると「ケルベロス」と言おうとしていたのかもしれない。

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