《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第39話~冒険者ギルド~
冒険者ギルド。
もと自警団と聞いていたから、筋骨隆々の男たちが酒を飲み合っているような場面を想像した。もちろん、そんなはずはない。
巨木を一刀両断にして、そのまま横倒しにしたような長机が置かれている。切り株のようなイスが並べられている。そこに座って酒を飲みかわしているのは、全員女だった。酒気を帯びた彼女たちは、頬を桃色に染めて、目がうるんでいた。
会話が聞こえてくる。
『聞いたかい? クト村のこと』
さっきセイが立ち寄った村だ。なんだろうかと耳をすませた。
『聞いたよ。いい男が出たんだってね』
『この雨に降られてもモンスターにならないどころか、アッという間にゴブリンを片付けちまったとか。オマケに妙な治癒魔法まで使って、ケガ人を治したって』
『雨に打たれてもモンスターにならないなんて、まるで神話に登場する英雄王ハーレムのようじゃないか』
『男を見つけたらどうする?』
『トウゼン、捕獲するだろう。この冒険者ギルドのテーブルに縛り付けて、裸にむいてみんなで酒でも飲みながら遊んでやりたいね』
『げッ。悪趣味なヤツ。私は誰にも見つからないように、どこか地下の暗いところに監禁しておくね』
『独り占めは良くないだろー』
酒が回っているとはいえ、なんという怖ろしい会話をしているのか。
薄ら寒いものを覚えたと同時に、女に変身しておいて良かったと胸をナでおろした。それにしても情報のまわりが早い。クト村に情報伝達系の魔法を使える者がいたのかもしれない。
大きな木製の板があった。
そこにいくつもの羊皮紙が張り付けられていた。
「おッ。見ない顔じゃねェーか。新入りかよ」
と、声をかけられた。
変わったイデタチをした女性だった。顔の左半分だけ隠れるようなフードをかぶっている。フードには目玉が描かれていた。右半分の顔は露出している。赤紫色の瞳をしていた。髪は短めで、フォルモルよりもすこし赤みを帯びた紫の髪だった。口元がつりあがって、八重歯がのぞいている。
「えっと……はじめまして」
シルベ教の印よ――とフォルモルがセイに耳打ちをした。フードに描かれている目玉のことだろう。
「私もつい最近、この冒険者ギルドに来た者だ。名はタギール・ジリアル。新入り同士よろしくな」
「どうも」
と、セイは頭を下げた。
セイも名乗ることにしたのだが、本名を名乗って良いのかわからなかった。なにせ、女の姿になっているのだ。タギールの赤紫色の瞳には、セイの姿が女性として映っているはずなのだ。
セーコと名乗ることにした。フォルモルが吹き出していたが、無視しておこう。
「それにしてもベッピンな娘だなぁ。貴族の娘か?」
と、タギールはセイのことをナめるように見つめてきた。
「はぁ……いや、まぁ」
と、適当にはぐらかしておいた。
あんまり見ないで欲しい。
「テメェらはここに何しに来たのさ」
「冒険者ギルドというものがあると聞いたので、どういうものか見に来ました」
「見ての通り。女しかいない場所さ。……ってのは、冒険者ギルドだけじゃないか。ここに木の板があるだろ」
「ええ」
セイが見ていた羊皮紙の張り付けられた木製の板だ。
「ここに各地からモンスターの情報や、モンスターに困っている村の情報が書かれている。ここから自分の実力に見合ったクエストを選んで、仕事をすれば良い。いわゆるクエストボードだ」
羊皮紙を見てみると、どこにゴブリンが出たとか、どこの村の男たちがモンスターになった――といったことが書かれている。
「ちなみに、これは傭兵団のときからそうらしいが、冒険者には実力に応じた階級がつけられる。上から、《キングプロテア級》《シャクナゲ級》《デンドロビューム級》《フェンネル級》」
「花の名前ですか?」
「そう。新入りや大半のヤツは《フェンネル級》。私もそうだし、テメェも冒険者になるんだったら、《フェンネル級》からってことだ。だいたいクエストには、それ相応の花の紋様が描かれている」
たしかに羊皮紙にはそれぞれ花の絵が描かれている。
「なら、これは?」
一枚の羊皮紙にだけ、巨大な花の模様が描かれていた。
「これが《キングプロテア級》のクエスト。何人かは挑んでるようだけど、まだ誰もクエストを達成できてない」
ときおり村に出ては人を食らう、三つ頭のイヌがいる。誰かあのバケイヌを退治して欲しい。そう書かれていた。神話か歴史書か何かで見た覚えがある。ケルベロスだ。
「強いんですか?」
「強いだろうね。今まで何人もの冒険者たちが返りうちに合ってる。ゆいいつ《キングプロテア級》の冒険者がひとり、ケルベロスのキバを叩き折ったらしいが、逃げられちまったって話だ」
でもなにより――とタギールは言葉を続けた。
「見つけるのが難しいのさ。探しても見つからない。でも不意に現れては襲ってくる」
「隠れてるってことですか」
「アカジャックの森を住処にしちまってる。アカジャックの森は険しいからね。森の中を歩くにはエルフの案内人でもいないと、ムリな話だ。アカジャックの森にはエルフたちも住み着いてることだし」
「あ……」
セイの脳裏で、情報がつながった。
セイたちは、そのアカジャックに敷かれる街道を抜けてきた。その道中で傷ついたエルフの娘をひろった。
(あれは、もしかして……)
ケルベロスにやられた傷だったのではないか?
ヘルヘロだとか、エロエロと呟いていたあの唇は、もしかすると「ケルベロス」と言おうとしていたのかもしれない。
もと自警団と聞いていたから、筋骨隆々の男たちが酒を飲み合っているような場面を想像した。もちろん、そんなはずはない。
巨木を一刀両断にして、そのまま横倒しにしたような長机が置かれている。切り株のようなイスが並べられている。そこに座って酒を飲みかわしているのは、全員女だった。酒気を帯びた彼女たちは、頬を桃色に染めて、目がうるんでいた。
会話が聞こえてくる。
『聞いたかい? クト村のこと』
さっきセイが立ち寄った村だ。なんだろうかと耳をすませた。
『聞いたよ。いい男が出たんだってね』
『この雨に降られてもモンスターにならないどころか、アッという間にゴブリンを片付けちまったとか。オマケに妙な治癒魔法まで使って、ケガ人を治したって』
『雨に打たれてもモンスターにならないなんて、まるで神話に登場する英雄王ハーレムのようじゃないか』
『男を見つけたらどうする?』
『トウゼン、捕獲するだろう。この冒険者ギルドのテーブルに縛り付けて、裸にむいてみんなで酒でも飲みながら遊んでやりたいね』
『げッ。悪趣味なヤツ。私は誰にも見つからないように、どこか地下の暗いところに監禁しておくね』
『独り占めは良くないだろー』
酒が回っているとはいえ、なんという怖ろしい会話をしているのか。
薄ら寒いものを覚えたと同時に、女に変身しておいて良かったと胸をナでおろした。それにしても情報のまわりが早い。クト村に情報伝達系の魔法を使える者がいたのかもしれない。
大きな木製の板があった。
そこにいくつもの羊皮紙が張り付けられていた。
「おッ。見ない顔じゃねェーか。新入りかよ」
と、声をかけられた。
変わったイデタチをした女性だった。顔の左半分だけ隠れるようなフードをかぶっている。フードには目玉が描かれていた。右半分の顔は露出している。赤紫色の瞳をしていた。髪は短めで、フォルモルよりもすこし赤みを帯びた紫の髪だった。口元がつりあがって、八重歯がのぞいている。
「えっと……はじめまして」
シルベ教の印よ――とフォルモルがセイに耳打ちをした。フードに描かれている目玉のことだろう。
「私もつい最近、この冒険者ギルドに来た者だ。名はタギール・ジリアル。新入り同士よろしくな」
「どうも」
と、セイは頭を下げた。
セイも名乗ることにしたのだが、本名を名乗って良いのかわからなかった。なにせ、女の姿になっているのだ。タギールの赤紫色の瞳には、セイの姿が女性として映っているはずなのだ。
セーコと名乗ることにした。フォルモルが吹き出していたが、無視しておこう。
「それにしてもベッピンな娘だなぁ。貴族の娘か?」
と、タギールはセイのことをナめるように見つめてきた。
「はぁ……いや、まぁ」
と、適当にはぐらかしておいた。
あんまり見ないで欲しい。
「テメェらはここに何しに来たのさ」
「冒険者ギルドというものがあると聞いたので、どういうものか見に来ました」
「見ての通り。女しかいない場所さ。……ってのは、冒険者ギルドだけじゃないか。ここに木の板があるだろ」
「ええ」
セイが見ていた羊皮紙の張り付けられた木製の板だ。
「ここに各地からモンスターの情報や、モンスターに困っている村の情報が書かれている。ここから自分の実力に見合ったクエストを選んで、仕事をすれば良い。いわゆるクエストボードだ」
羊皮紙を見てみると、どこにゴブリンが出たとか、どこの村の男たちがモンスターになった――といったことが書かれている。
「ちなみに、これは傭兵団のときからそうらしいが、冒険者には実力に応じた階級がつけられる。上から、《キングプロテア級》《シャクナゲ級》《デンドロビューム級》《フェンネル級》」
「花の名前ですか?」
「そう。新入りや大半のヤツは《フェンネル級》。私もそうだし、テメェも冒険者になるんだったら、《フェンネル級》からってことだ。だいたいクエストには、それ相応の花の紋様が描かれている」
たしかに羊皮紙にはそれぞれ花の絵が描かれている。
「なら、これは?」
一枚の羊皮紙にだけ、巨大な花の模様が描かれていた。
「これが《キングプロテア級》のクエスト。何人かは挑んでるようだけど、まだ誰もクエストを達成できてない」
ときおり村に出ては人を食らう、三つ頭のイヌがいる。誰かあのバケイヌを退治して欲しい。そう書かれていた。神話か歴史書か何かで見た覚えがある。ケルベロスだ。
「強いんですか?」
「強いだろうね。今まで何人もの冒険者たちが返りうちに合ってる。ゆいいつ《キングプロテア級》の冒険者がひとり、ケルベロスのキバを叩き折ったらしいが、逃げられちまったって話だ」
でもなにより――とタギールは言葉を続けた。
「見つけるのが難しいのさ。探しても見つからない。でも不意に現れては襲ってくる」
「隠れてるってことですか」
「アカジャックの森を住処にしちまってる。アカジャックの森は険しいからね。森の中を歩くにはエルフの案内人でもいないと、ムリな話だ。アカジャックの森にはエルフたちも住み着いてることだし」
「あ……」
セイの脳裏で、情報がつながった。
セイたちは、そのアカジャックに敷かれる街道を抜けてきた。その道中で傷ついたエルフの娘をひろった。
(あれは、もしかして……)
ケルベロスにやられた傷だったのではないか?
ヘルヘロだとか、エロエロと呟いていたあの唇は、もしかすると「ケルベロス」と言おうとしていたのかもしれない。
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