《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第37話~男女印~
レドが熱い御茶をいれてくれた。
飲む。
美味しい。
陶器で作られたコップからは、湯気がたちのぼっていた。
ひとつ頼みがあるのですが――と黙っていたフォルモルが口をはさんだ。
「その〝男女印〟のチカラ。貸してはいただけないでしょうか?」
「貸す?」
レドは首をかしげた。
セイは〝英雄印〟を持っている。〝英雄印〟は他人と印を重ねることで、その能力を使えるようになる――ということをフォルモルは説明した。
「能力をコピーするということか? クト村を救ってくれたのだ。その程度の頼みならば、喜んで助力しよう」
レドはうなずいた。
「え、えっと……」
レドとフォルモルのあいだで勝手に話が進んでいる。だが、肝心なセイ自身は別に〝男女印〟なんて欲しいとは思わなかった。女性になれる能力。あまり使おうと思わない。女装趣味なんてセイには毫もない、
「もらえるものは、もらっておきなさいよ」
と、フォルモルが言う。
「もらえるからって、片っ端からもらえば良いってもんでもないでしょう。オレには別に必要ないというか……」
「必要あるわよ」
「ありますかね?」
そんな必要はあって欲しくない。
いいかしら――とフォルモルはマジメな顔をして説いてきた。これからフィルドランタでは男の数が圧倒的にすくなくなる。もう数人しか残されていないかもしれない。肉欲に飢えた女たちの目にさらされることになる。その目を避けるために、女の姿になって身を隠しておくべきだ。
「この村の女たちがすでに、セイにたいして肉食獣みたいな目を向けてることに気づかないの?」
言われてみれば、女たちがまたしても戸口から顔をのぞかせている。目は獰猛に輝いて、小鼻が花びらのように開いている。色気を越える、桃色の戦気すら感ぜられた。村の女たちでもこれだ。都市に行けばもっと多くの女たちの目にさらされることになる。
「……わかりました」
たしかに会得しておいて損はないかもしれない――と思わせられたのだった。
さいわいレドの〝男女印〟は手の甲にあった。どこかの3人のメイドとは違って、ずいぶんとナめやすい場所にある。重ねた。やり方はわかったけれど、その能力を使うには心の準備が必要だった。
「それではお世話になりました」
と、セイは頭をさげた。
「なに、助けてもらったのだ。礼を言うのはこちらのほうだ」
レドは笑ってそう応じた。
「ところでひとつ気になったことがあるんですが……」
「なんだろうか?」
クト村には槍やら剣が多く置かれている。女たちもそれを扱っていた。しかし、武器を常備している村というのは珍しいように思った。
なぜ武器がこんなにたくさんあるのか尋ねた。
「ああ。それなら冒険者ギルドの者が持ってきてくれたのだ」
「冒険者ギルド?」
聞いたこともない。
「この近くには都市サファリアがある。自治都市だからもともと自警団が存在していたんだ。この雨を受けて、自警団ギルドが冒険者ギルドと改名して、モンスター討伐に励んでいる」
それは良いことを聞いた。
すこしオオゲサかもしれないが、世界を救うという意思を抱いている者たちがそこにいるのだ。
行ってみたいと思った。
女たちを救えというレフィール伯爵の命令も、セイひとりでは完全に遂行することは難しい。だが、同志がたくさんいるのならば事態は好転するだろう。
「教えていただき、ありがとうございます」
クト村を発つことにした。
もう少し長居していけば良いと、村娘たちに引きとめられた。だが、あんまりノンビリもしていられない。
村を発つさいに、セイが助けたアンヌ・チェルという女性が謝辞を述べに来た。赤い髪を三つ編みにしていた。目じりのあたりにソバカスがあったが、それを魅力に転身させる可憐さがあった。
アンヌはセイと目が合うと、パッと顔を赤くして村の家屋へ逃げ去ってしまった。
「さっそくモテモテねぇ。お姉さん、ちょっと妬けちゃうわ」
と、フォルモルにからかわれることになった。
飲む。
美味しい。
陶器で作られたコップからは、湯気がたちのぼっていた。
ひとつ頼みがあるのですが――と黙っていたフォルモルが口をはさんだ。
「その〝男女印〟のチカラ。貸してはいただけないでしょうか?」
「貸す?」
レドは首をかしげた。
セイは〝英雄印〟を持っている。〝英雄印〟は他人と印を重ねることで、その能力を使えるようになる――ということをフォルモルは説明した。
「能力をコピーするということか? クト村を救ってくれたのだ。その程度の頼みならば、喜んで助力しよう」
レドはうなずいた。
「え、えっと……」
レドとフォルモルのあいだで勝手に話が進んでいる。だが、肝心なセイ自身は別に〝男女印〟なんて欲しいとは思わなかった。女性になれる能力。あまり使おうと思わない。女装趣味なんてセイには毫もない、
「もらえるものは、もらっておきなさいよ」
と、フォルモルが言う。
「もらえるからって、片っ端からもらえば良いってもんでもないでしょう。オレには別に必要ないというか……」
「必要あるわよ」
「ありますかね?」
そんな必要はあって欲しくない。
いいかしら――とフォルモルはマジメな顔をして説いてきた。これからフィルドランタでは男の数が圧倒的にすくなくなる。もう数人しか残されていないかもしれない。肉欲に飢えた女たちの目にさらされることになる。その目を避けるために、女の姿になって身を隠しておくべきだ。
「この村の女たちがすでに、セイにたいして肉食獣みたいな目を向けてることに気づかないの?」
言われてみれば、女たちがまたしても戸口から顔をのぞかせている。目は獰猛に輝いて、小鼻が花びらのように開いている。色気を越える、桃色の戦気すら感ぜられた。村の女たちでもこれだ。都市に行けばもっと多くの女たちの目にさらされることになる。
「……わかりました」
たしかに会得しておいて損はないかもしれない――と思わせられたのだった。
さいわいレドの〝男女印〟は手の甲にあった。どこかの3人のメイドとは違って、ずいぶんとナめやすい場所にある。重ねた。やり方はわかったけれど、その能力を使うには心の準備が必要だった。
「それではお世話になりました」
と、セイは頭をさげた。
「なに、助けてもらったのだ。礼を言うのはこちらのほうだ」
レドは笑ってそう応じた。
「ところでひとつ気になったことがあるんですが……」
「なんだろうか?」
クト村には槍やら剣が多く置かれている。女たちもそれを扱っていた。しかし、武器を常備している村というのは珍しいように思った。
なぜ武器がこんなにたくさんあるのか尋ねた。
「ああ。それなら冒険者ギルドの者が持ってきてくれたのだ」
「冒険者ギルド?」
聞いたこともない。
「この近くには都市サファリアがある。自治都市だからもともと自警団が存在していたんだ。この雨を受けて、自警団ギルドが冒険者ギルドと改名して、モンスター討伐に励んでいる」
それは良いことを聞いた。
すこしオオゲサかもしれないが、世界を救うという意思を抱いている者たちがそこにいるのだ。
行ってみたいと思った。
女たちを救えというレフィール伯爵の命令も、セイひとりでは完全に遂行することは難しい。だが、同志がたくさんいるのならば事態は好転するだろう。
「教えていただき、ありがとうございます」
クト村を発つことにした。
もう少し長居していけば良いと、村娘たちに引きとめられた。だが、あんまりノンビリもしていられない。
村を発つさいに、セイが助けたアンヌ・チェルという女性が謝辞を述べに来た。赤い髪を三つ編みにしていた。目じりのあたりにソバカスがあったが、それを魅力に転身させる可憐さがあった。
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