《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第31話~レフィール伯爵Ⅴ~
ミリス・ローネは、満足していた。
ロイラング国王の座は、第二王子が継承するという話が出ていた。ミリスは遊び人だったのだ。父から期待されていなかった。ロイラング王国の貴族の中では、第一王子派と第二王子派と閥ができていたぐらいだ。
第二王子派を押していたのが、セノス・リストリーナ伯爵。すなわち、レフィール伯爵の父親だった。
毒殺したのが、ミリスの手の者だった。
政争に殺しは付き物だ。
誤算だったのはその伯爵の家督を惹きついだのが、非常に美しい娘だったということだ。ロイラング王国1の美姫と言っても過言ではない。その美姫は今、眼前でしおらしくしている。
結婚式の最中だった。
王都の内郭にある教会で、シルベ教の司祭がとりしきっている。冠婚葬祭はシルベ教が行うのがシキタリだった。
(お前の父親を殺したのが、このオレとも知らずに)
と、ミリスはほくそ笑む。
国王はもういない。
第二王子もモンスターになった。
この王国はすべてミリスの手のうちにある。欲しいものはすべて、こうやって手に入れることができる。
式なんて、どうでも良い。
これは建前上、行っているにすぎない。
直接カラダの関係を迫るのは、さすがに露骨すぎるかと思ったのだ。
さっさとベッドに連れ込みたい。どうやって犯してやろうかと考えている。この雨でいつ自分がモンスターになるかわからない。その恐怖はホンモノだった。モンスターになる前に、できる限りの欲望を発散させたい。
司祭がゴチャゴチャと建前を述べている。
「新婦。レフィール・リストリーナ伯爵。ミリス・ローネ王子に愛を誓えますか?」
司祭の問いに、レフィール伯爵は青い顔をしてうつむいていた。
「心配ない。オレと結婚するからには悪いようにはしない。爵位はさらに追加してやるし、お前の土地にも手出しはしない」
と、ミリスはうながした。
「……」
何を迷っているのか。
舌打ちしたい気分だ。
さっさとそのドレスを脱がして、全身をおがみたい。華奢なカラダなくせに、胸が大きく張り出している。
(そそるカラダをしてやがる)
と、よこしまな思いを抱いた。
「もういい。さっさと口づけをかわそう」
ミリスはレフィール伯爵のアゴをつかんで、引き寄せようとした。
まさにその時だった。
教会の門が、乱暴に押し開いた。
「なんだ、こんなときに……?」
教会の入口。
両開きのトビラが大きく開け放たれている。教会の薄闇に外の明かりがさしこんでいた。その光を後光のように受けて、1人の男が立っていた。
いや。
男かどうかもよくわからない。
顔に白い面をしていた。
「イタズラか? あとで相手をしてやる。そいつをつまみ出せッ」
教会には騎士たちが控えていた。
撥水魔法で助けてやった騎士たちが、ミリスにたいしてこれ以上にないほどの忠誠心を見せていた。
「つまみだせッ」
ウオォォォォ――ッと騎士たちが、仮面の闖入者にトびかかった。
仮面の闖入者は異様に腰を低く構えた。そこから猛然と槍が突き出された。恐るべき一撃だった。槍で突かれた騎士は吹っ飛んで教会のステンドグラスを突き破り、さらに遠くへ飛んでいった。ステンドグラスの破片が、虹色の光をまきちらして落ちてきた。
「な、なんだ?」
2人、3人と吹き飛ばされていく。教会イスに激突する者、吹き飛ばされて壁に亀裂を入れる者がいた。
着々とミリスに歩み寄ってくる。
「ヒ――ッ」
と、司祭が逃げて行った。
「な、なんだ? おそろしくチカラが強いのか?」
「王子。おさがりくださいッ」
ミリスの前に、騎士団長が立ちはだかった。ロイラング王国の騎士をまとめる長であり、王国随一の剣士を言われていた。騎士団長と仮面の闖入者が相対する。騎士団長が正眼に刀剣を構えた。一方、闖入者のほうはまたしても腰を低く落として槍を構えた。
「この構え――」
と、騎士団長が声を漏らした。
闖入者が駆ける。
猛然と騎士団長にトびかかった。騎士団長はその槍をヒラリとかわした。大岩のような男だが意外と身のこなしが軽いのだ。騎士団長の刀剣が闖入者の胸に深々と突き刺さった。
「かかれッ」
騎士団長が叫ぶ。
その声に合わせて残っていた騎士たちが、いっせいに仮面の闖入者に跳びかかった。深々と槍が突き刺された。
「やったか?」
ミリスはそうつぶやいた。
仮面の闖入者に突き刺さっていた槍や刀剣が引き抜かれた。血があふれ出すはずだった。かわりに闖入者のカラダを、白い光がまとった。傷口がどんどんふさがっていく。
「バ、バケモノか、あいつは――」
闖入者がさらに腰を低く構えて、疾走した。ただの速度ではない。全力で踏みこんでいた。その証拠に教会の地面に亀裂が入っている。闖入者はその槍の石突きで騎士団長のアゴを突いた。
「ぐおおおおッ」
と、叫びながら騎士団長は屋根を突き破って、飛ばされていた。
「バケモノだッ」
騎士たちは口々にそう叫び、とん走して行く。
こら、待て――とミリスの引きとめる声は空虚に響くだけだった。
「くそっ」
ミリスはレフィール伯爵を突き飛ばした。レフィール伯爵を盾にして逃げようと思ったのだ。冷静な判断ができなかった。この仮面の男からは、ドス黒い鬼気が背中からたちのぼっているかのようだった。それだけ怖ろしく見えたのだ。
突き飛ばされたレフィール伯爵は、仮面の男の腕の中にあった。仮面の男はレフィール伯爵のカラダを抱き上げた。
そうかと思うと仮面の男の全身を、黒い鎧がおおってゆく。
「な、なんだ、次はなんだ?」
ミリスはもはや腰が砕けて立ち上がれなかった。
仮面の男の首が伸びる。
背中から翼が映える。
胴がふくらみ、脚が太くなる。黒々とした大岩に思えた。
顔から仮面が外されていた。猛々しい目玉に、凶悪なまでに鋭くとがったキバ。そしてそのキバの奥には、赤黒いノドがのぞいていた。
「ま、まさか。ドラゴン……」
「グラァァァァッ」
ドラゴンはミリスの眼前で吠えた。その咆哮はミリスの肝っ玉を縮み上がらせた。気づくと下半身を生温い液体で濡らしていた。
食われるかと思った。しかし意に反して、ドラゴンはレフィール伯爵を抱えたまま反転していった。
(助かった)
ただその思いだけが、ミリスの胸中にあった。
ロイラング国王の座は、第二王子が継承するという話が出ていた。ミリスは遊び人だったのだ。父から期待されていなかった。ロイラング王国の貴族の中では、第一王子派と第二王子派と閥ができていたぐらいだ。
第二王子派を押していたのが、セノス・リストリーナ伯爵。すなわち、レフィール伯爵の父親だった。
毒殺したのが、ミリスの手の者だった。
政争に殺しは付き物だ。
誤算だったのはその伯爵の家督を惹きついだのが、非常に美しい娘だったということだ。ロイラング王国1の美姫と言っても過言ではない。その美姫は今、眼前でしおらしくしている。
結婚式の最中だった。
王都の内郭にある教会で、シルベ教の司祭がとりしきっている。冠婚葬祭はシルベ教が行うのがシキタリだった。
(お前の父親を殺したのが、このオレとも知らずに)
と、ミリスはほくそ笑む。
国王はもういない。
第二王子もモンスターになった。
この王国はすべてミリスの手のうちにある。欲しいものはすべて、こうやって手に入れることができる。
式なんて、どうでも良い。
これは建前上、行っているにすぎない。
直接カラダの関係を迫るのは、さすがに露骨すぎるかと思ったのだ。
さっさとベッドに連れ込みたい。どうやって犯してやろうかと考えている。この雨でいつ自分がモンスターになるかわからない。その恐怖はホンモノだった。モンスターになる前に、できる限りの欲望を発散させたい。
司祭がゴチャゴチャと建前を述べている。
「新婦。レフィール・リストリーナ伯爵。ミリス・ローネ王子に愛を誓えますか?」
司祭の問いに、レフィール伯爵は青い顔をしてうつむいていた。
「心配ない。オレと結婚するからには悪いようにはしない。爵位はさらに追加してやるし、お前の土地にも手出しはしない」
と、ミリスはうながした。
「……」
何を迷っているのか。
舌打ちしたい気分だ。
さっさとそのドレスを脱がして、全身をおがみたい。華奢なカラダなくせに、胸が大きく張り出している。
(そそるカラダをしてやがる)
と、よこしまな思いを抱いた。
「もういい。さっさと口づけをかわそう」
ミリスはレフィール伯爵のアゴをつかんで、引き寄せようとした。
まさにその時だった。
教会の門が、乱暴に押し開いた。
「なんだ、こんなときに……?」
教会の入口。
両開きのトビラが大きく開け放たれている。教会の薄闇に外の明かりがさしこんでいた。その光を後光のように受けて、1人の男が立っていた。
いや。
男かどうかもよくわからない。
顔に白い面をしていた。
「イタズラか? あとで相手をしてやる。そいつをつまみ出せッ」
教会には騎士たちが控えていた。
撥水魔法で助けてやった騎士たちが、ミリスにたいしてこれ以上にないほどの忠誠心を見せていた。
「つまみだせッ」
ウオォォォォ――ッと騎士たちが、仮面の闖入者にトびかかった。
仮面の闖入者は異様に腰を低く構えた。そこから猛然と槍が突き出された。恐るべき一撃だった。槍で突かれた騎士は吹っ飛んで教会のステンドグラスを突き破り、さらに遠くへ飛んでいった。ステンドグラスの破片が、虹色の光をまきちらして落ちてきた。
「な、なんだ?」
2人、3人と吹き飛ばされていく。教会イスに激突する者、吹き飛ばされて壁に亀裂を入れる者がいた。
着々とミリスに歩み寄ってくる。
「ヒ――ッ」
と、司祭が逃げて行った。
「な、なんだ? おそろしくチカラが強いのか?」
「王子。おさがりくださいッ」
ミリスの前に、騎士団長が立ちはだかった。ロイラング王国の騎士をまとめる長であり、王国随一の剣士を言われていた。騎士団長と仮面の闖入者が相対する。騎士団長が正眼に刀剣を構えた。一方、闖入者のほうはまたしても腰を低く落として槍を構えた。
「この構え――」
と、騎士団長が声を漏らした。
闖入者が駆ける。
猛然と騎士団長にトびかかった。騎士団長はその槍をヒラリとかわした。大岩のような男だが意外と身のこなしが軽いのだ。騎士団長の刀剣が闖入者の胸に深々と突き刺さった。
「かかれッ」
騎士団長が叫ぶ。
その声に合わせて残っていた騎士たちが、いっせいに仮面の闖入者に跳びかかった。深々と槍が突き刺された。
「やったか?」
ミリスはそうつぶやいた。
仮面の闖入者に突き刺さっていた槍や刀剣が引き抜かれた。血があふれ出すはずだった。かわりに闖入者のカラダを、白い光がまとった。傷口がどんどんふさがっていく。
「バ、バケモノか、あいつは――」
闖入者がさらに腰を低く構えて、疾走した。ただの速度ではない。全力で踏みこんでいた。その証拠に教会の地面に亀裂が入っている。闖入者はその槍の石突きで騎士団長のアゴを突いた。
「ぐおおおおッ」
と、叫びながら騎士団長は屋根を突き破って、飛ばされていた。
「バケモノだッ」
騎士たちは口々にそう叫び、とん走して行く。
こら、待て――とミリスの引きとめる声は空虚に響くだけだった。
「くそっ」
ミリスはレフィール伯爵を突き飛ばした。レフィール伯爵を盾にして逃げようと思ったのだ。冷静な判断ができなかった。この仮面の男からは、ドス黒い鬼気が背中からたちのぼっているかのようだった。それだけ怖ろしく見えたのだ。
突き飛ばされたレフィール伯爵は、仮面の男の腕の中にあった。仮面の男はレフィール伯爵のカラダを抱き上げた。
そうかと思うと仮面の男の全身を、黒い鎧がおおってゆく。
「な、なんだ、次はなんだ?」
ミリスはもはや腰が砕けて立ち上がれなかった。
仮面の男の首が伸びる。
背中から翼が映える。
胴がふくらみ、脚が太くなる。黒々とした大岩に思えた。
顔から仮面が外されていた。猛々しい目玉に、凶悪なまでに鋭くとがったキバ。そしてそのキバの奥には、赤黒いノドがのぞいていた。
「ま、まさか。ドラゴン……」
「グラァァァァッ」
ドラゴンはミリスの眼前で吠えた。その咆哮はミリスの肝っ玉を縮み上がらせた。気づくと下半身を生温い液体で濡らしていた。
食われるかと思った。しかし意に反して、ドラゴンはレフィール伯爵を抱えたまま反転していった。
(助かった)
ただその思いだけが、ミリスの胸中にあった。
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