《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第28話~レフィール伯爵Ⅱ~
レフィール伯爵は王都へ向かうために、キャリッジに乗り込んだ。セイも同乗することになった。
「護衛のため、付いて来てください」
と、言われたのだ。
言われなくとも、ついて行くつもりだった。
フォルモルとキリアとシラティウスの3人は、キュリンジ城で待つことになった。レフィール伯爵はいつ戻れるかわからない。その間の留守をあずかる者が必要だったのだ。
馬車に乗りこむ前に、3人のメイド長から「レフィーさまのこと、頼むわよ」と言われた。無事に護衛しろという言う意味なのか、結婚を成功させろという意味なのか、あるいは、結婚をぶち壊せという意味なのか。
頼むわよ――にふくまれた真意をはかりかねた。
セイ個人的には、レフィール伯爵とミリス・ローネ王子との結婚は反対だ。名状しがたい不快感がセイの胸を圧した。
「ドラゴンになって、王都まで送りましょうか?」
揺れるキャリッジの中で、セイはそう切り出した。
「いえ。王都にいる人たちがビックリしてしまいます」
と、チカラのない笑みを浮かべて、レフィール伯爵が言った。
「それにしても、ミリス・ローネ王子はあまりに横暴ですよ。国王は何も知らないのでしょうか?」
「第21代ロイラング国王。シュバルッド・ローネは、モンスターになったようです」
「えっ」
「この雨のせいでしょう」
憔悴しきった顔で、レフィール伯爵はキャリッジの窓を見つめた。窓には雨粒が付着していた。
哀愁に満ちたレフィール伯爵の顔が、窓に投影されていた。
「それでは実質、第一王子であるミリス・ローネが国王ということですか」
「王位は継承されていないでしょうが、そうなりますね」
「なるほど」
それで、そんな横暴が許されるわけだ。
「この雨に降られる前、ロイラング王国の貴族たちは二つの派閥に割れていました。セイはご存知ないかもしれませんが」
「貴族のやってることは、オレのような者の耳にはあまり入らないので」
そうでしょうね――とレフィール伯爵は続けた。
「ふたつの派閥がありました。ミリス・ローネ第一王子を推す派閥と、第二王子を推す派閥があったのです」
「俗に言う派閥争いってヤツですか」
「ええ。私の父は第二王子を推していました。しかし政争に巻き込まれて、暗殺されてしまいました。だから私が家督を継ぐことになったのです」
いきなり重い話をブッこんできたな――と思った。それと同時に、察するところがあった。
「第二王子を推していたということは、つまり、レフィール伯爵にとって、ミリス・ローネ第一王子は政敵ということになりませんか?」
「そうです」
と、レフィール伯爵は深くうなずいた。
白い顔が今日は青ざめている。
「政敵と結婚することになるわけですか」
「第二王子もこの雨で、モンスターになったと聞いてます。つまり、天が第一王子に味方をした。私は政争に負けたのです」
潔く負けを認めて、第一王子のもとに嫁ぐということか。
セイは何も言えなかった。
レフィール伯爵が考え抜いた答えなのだろう。
「セイ」
「なんでしょうか?」
レフィール伯爵が、セイの手に手を重ねてきた。
ドキッとする。
熱い物に触れてしまったかのような感覚で、あわてて手を引っ込めそうになった。
一緒に逃げましょうと言われたら、すぐにでも連れ出すつもりだった。しかし、その桜色の唇からこぼれ出る言葉は、違ったものだった。
「ミリス・ローネ第一王子の子どもを身ごもると、私はしばらく王都を離れられないかもしれません。そうなっても、あなたはあなたの任務を遂行してくださいね」
「オレの任務?」
「世界を救うという大役です」
「レフィール伯爵はそれで良いのですか?」
レフィール伯爵がこの結婚に喜んでいるのなら、拍手を送るつもりだ。心の奥底は嫉妬で焼け狂っても、表では祝福を表すつもりだ。
しかし、どう見ても喜んではいない。
相手のミリス・ローネにも気にくわないものがある。この結婚はあきらかに脅迫的だった。やり方が姑息だ。
個人的にもあまり良い思いはしない。
第一王子は、言ってしまえば以前までの、セイの上司になる。一兵卒だったので向こうは、セイのことを知らないかもしれないが、さんざんコキ使われた職場だ。
「仕方ありません」
と、レフィール伯爵はかぶりを振った。
「断ってしまえば良いじゃないですか」
「処断になります。私のワガママで、土地や民を振り回すわけにはいきません。誇りにかけても、父から引き継いだ土地と民は、守り抜くつもりです」
「――」
レフィール伯爵が処断となったときに、セイはその責任を取れない。これ以上の説得は難しかった。
「護衛のため、付いて来てください」
と、言われたのだ。
言われなくとも、ついて行くつもりだった。
フォルモルとキリアとシラティウスの3人は、キュリンジ城で待つことになった。レフィール伯爵はいつ戻れるかわからない。その間の留守をあずかる者が必要だったのだ。
馬車に乗りこむ前に、3人のメイド長から「レフィーさまのこと、頼むわよ」と言われた。無事に護衛しろという言う意味なのか、結婚を成功させろという意味なのか、あるいは、結婚をぶち壊せという意味なのか。
頼むわよ――にふくまれた真意をはかりかねた。
セイ個人的には、レフィール伯爵とミリス・ローネ王子との結婚は反対だ。名状しがたい不快感がセイの胸を圧した。
「ドラゴンになって、王都まで送りましょうか?」
揺れるキャリッジの中で、セイはそう切り出した。
「いえ。王都にいる人たちがビックリしてしまいます」
と、チカラのない笑みを浮かべて、レフィール伯爵が言った。
「それにしても、ミリス・ローネ王子はあまりに横暴ですよ。国王は何も知らないのでしょうか?」
「第21代ロイラング国王。シュバルッド・ローネは、モンスターになったようです」
「えっ」
「この雨のせいでしょう」
憔悴しきった顔で、レフィール伯爵はキャリッジの窓を見つめた。窓には雨粒が付着していた。
哀愁に満ちたレフィール伯爵の顔が、窓に投影されていた。
「それでは実質、第一王子であるミリス・ローネが国王ということですか」
「王位は継承されていないでしょうが、そうなりますね」
「なるほど」
それで、そんな横暴が許されるわけだ。
「この雨に降られる前、ロイラング王国の貴族たちは二つの派閥に割れていました。セイはご存知ないかもしれませんが」
「貴族のやってることは、オレのような者の耳にはあまり入らないので」
そうでしょうね――とレフィール伯爵は続けた。
「ふたつの派閥がありました。ミリス・ローネ第一王子を推す派閥と、第二王子を推す派閥があったのです」
「俗に言う派閥争いってヤツですか」
「ええ。私の父は第二王子を推していました。しかし政争に巻き込まれて、暗殺されてしまいました。だから私が家督を継ぐことになったのです」
いきなり重い話をブッこんできたな――と思った。それと同時に、察するところがあった。
「第二王子を推していたということは、つまり、レフィール伯爵にとって、ミリス・ローネ第一王子は政敵ということになりませんか?」
「そうです」
と、レフィール伯爵は深くうなずいた。
白い顔が今日は青ざめている。
「政敵と結婚することになるわけですか」
「第二王子もこの雨で、モンスターになったと聞いてます。つまり、天が第一王子に味方をした。私は政争に負けたのです」
潔く負けを認めて、第一王子のもとに嫁ぐということか。
セイは何も言えなかった。
レフィール伯爵が考え抜いた答えなのだろう。
「セイ」
「なんでしょうか?」
レフィール伯爵が、セイの手に手を重ねてきた。
ドキッとする。
熱い物に触れてしまったかのような感覚で、あわてて手を引っ込めそうになった。
一緒に逃げましょうと言われたら、すぐにでも連れ出すつもりだった。しかし、その桜色の唇からこぼれ出る言葉は、違ったものだった。
「ミリス・ローネ第一王子の子どもを身ごもると、私はしばらく王都を離れられないかもしれません。そうなっても、あなたはあなたの任務を遂行してくださいね」
「オレの任務?」
「世界を救うという大役です」
「レフィール伯爵はそれで良いのですか?」
レフィール伯爵がこの結婚に喜んでいるのなら、拍手を送るつもりだ。心の奥底は嫉妬で焼け狂っても、表では祝福を表すつもりだ。
しかし、どう見ても喜んではいない。
相手のミリス・ローネにも気にくわないものがある。この結婚はあきらかに脅迫的だった。やり方が姑息だ。
個人的にもあまり良い思いはしない。
第一王子は、言ってしまえば以前までの、セイの上司になる。一兵卒だったので向こうは、セイのことを知らないかもしれないが、さんざんコキ使われた職場だ。
「仕方ありません」
と、レフィール伯爵はかぶりを振った。
「断ってしまえば良いじゃないですか」
「処断になります。私のワガママで、土地や民を振り回すわけにはいきません。誇りにかけても、父から引き継いだ土地と民は、守り抜くつもりです」
「――」
レフィール伯爵が処断となったときに、セイはその責任を取れない。これ以上の説得は難しかった。
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