《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第27話~レフィール伯爵Ⅰ~
行き交うメイドたちは、セイと顔を合わせると微笑んで会釈してくれる。中には、ウィンクなんかを送ってくる者がいる。
まだ幼いメイドもおり、「あれが〝英雄印〟のクロカミ・セイさまよ」「フォルモルさまの妹を助けて、キリアさまと一緒に城下町に取り残されていた女を救ったとか」「シラティウスさまも、セイさまのおかげで外に出られるようになったとか」……とウワサし合っている。
キュリンジ城にくるまでは、あまり目立つスタンスにいなかった。周囲からチヤホヤされるのはありがたい。ありがたいのだが、「女たちの肉欲にさらされる」というレフィール伯爵の忠告のせいで、変な目で見られているような気分にもなる。
今、そのレフィール伯爵から呼び出されている。
コンコン。
レフィール伯爵執務室のトビラをノックした。
「どうぞ」
と、レフィール伯爵の声が返ってきた。
「クロカミ・セイ。入ります」
中には、フォルモルとキリアとシラティウスの3人がいた。そしてレフィール伯爵が席に座っている。
「集まりましたね」
「出発ですか?」
レフィール伯爵は世界を救う旅に出るのだと息巻いているのだが、いっこうに出発する気配がない。いよいよ出発の日が来たのかと思った。
「いえ。私のもとに召喚命令がきました」
「呼び出しですか? いったい誰から」
怪訝に思った。
こんな状況下で、伯爵を呼び出すような人物に、セイは心当たりがなかった。
「ミリス・ローネ第一王子です」
ロイラング国を統べる国王の息子だ。そして、レフィール伯爵の婚約者だと言われている人物だ。
もっとも、本人は否定している。
「生きていた――ということですか」
「ええ。この雨をうまくしのいでいるのでしょう」
「それで、召喚の用件は?」
尋ねると、レフィール伯爵の表情がかげった。息を深く吸い込むと、レフィール伯爵はいっきに言葉を吐いた。
「国王を裏切った罪による処断。この処断を免れたければ 結婚して、ミリス・ローネ第一王子の子どもを身ごもること。これが召喚の内容です」
「国王を裏切った処断――というのは?」
セイは先日までロイラング王都で騎士をしていたが、レフィール伯爵が裏切ったなんて話は聞いたことがない。レフィール伯爵に拾われてからも、謀反をくわだてるような気配などなかった。
そもそも、こんな状況下では謀反もヘッタクレもあったものではない。
「私がはじめてセイと会ったときのことを、覚えていますか?」
「もちろんです」
うなずいた。
はじめて悪魔の雨が降り出した日だ。
ゴブリンに襲われそうになっていたレフィール伯爵を、セイが救った。
「あのとき私は、真っ先に自国へ帰るという選択をとりました。伯爵である者が、国王の身よりも自国を優先した。それが国王にたいする裏切り――ということになるそうです」
言われてみれば一理あるようにも思う。
ロイラング城がモンスターに占拠されていた。そこが国王の居城であるなら、まっさきに国王の心配をしてしかるべきだ。が、レフィール伯爵は自国の民を心配した。
それはレフィール伯爵の優しさであったり、責任感ゆえだろう。上への忠誠よりも、民への思いやりを優先したからだ。
「しかし緊急時でしたし、それで処断というのは言いがかりでしょう」
そうですね――とレフィール伯爵はうなずく。
「言いがかりです。が、第一王子がそう言うのであれば仕方ありません。私は王都に向かおうと思います」
「それでは、ミリス・ローネ王子の子どもを生む――ということですか?」
レフィール伯爵は唇が白くなるほど、噛みしめていた。
我慢の限界だったのか、セキを切ったようにワッと泣きはじめた。
「仕方ないではありませんか。処断の内容には爵位および領地召し上げも入っておりました。私は父から継いだこの土地を手放すわけにはいかないのです」
泣きじゃくりながら、そう言った。
セイは納得がいかなかった。
いくら第一王子でも、そんなことが許されるはずがない。他の貴族や国王が、黙ってその横暴を許すとは思えなかった。
まだ尋ねたいことはたくさんあったのだが、フォルモルが黙ってセイの肩に手をかけてきた。
まだ幼いメイドもおり、「あれが〝英雄印〟のクロカミ・セイさまよ」「フォルモルさまの妹を助けて、キリアさまと一緒に城下町に取り残されていた女を救ったとか」「シラティウスさまも、セイさまのおかげで外に出られるようになったとか」……とウワサし合っている。
キュリンジ城にくるまでは、あまり目立つスタンスにいなかった。周囲からチヤホヤされるのはありがたい。ありがたいのだが、「女たちの肉欲にさらされる」というレフィール伯爵の忠告のせいで、変な目で見られているような気分にもなる。
今、そのレフィール伯爵から呼び出されている。
コンコン。
レフィール伯爵執務室のトビラをノックした。
「どうぞ」
と、レフィール伯爵の声が返ってきた。
「クロカミ・セイ。入ります」
中には、フォルモルとキリアとシラティウスの3人がいた。そしてレフィール伯爵が席に座っている。
「集まりましたね」
「出発ですか?」
レフィール伯爵は世界を救う旅に出るのだと息巻いているのだが、いっこうに出発する気配がない。いよいよ出発の日が来たのかと思った。
「いえ。私のもとに召喚命令がきました」
「呼び出しですか? いったい誰から」
怪訝に思った。
こんな状況下で、伯爵を呼び出すような人物に、セイは心当たりがなかった。
「ミリス・ローネ第一王子です」
ロイラング国を統べる国王の息子だ。そして、レフィール伯爵の婚約者だと言われている人物だ。
もっとも、本人は否定している。
「生きていた――ということですか」
「ええ。この雨をうまくしのいでいるのでしょう」
「それで、召喚の用件は?」
尋ねると、レフィール伯爵の表情がかげった。息を深く吸い込むと、レフィール伯爵はいっきに言葉を吐いた。
「国王を裏切った罪による処断。この処断を免れたければ 結婚して、ミリス・ローネ第一王子の子どもを身ごもること。これが召喚の内容です」
「国王を裏切った処断――というのは?」
セイは先日までロイラング王都で騎士をしていたが、レフィール伯爵が裏切ったなんて話は聞いたことがない。レフィール伯爵に拾われてからも、謀反をくわだてるような気配などなかった。
そもそも、こんな状況下では謀反もヘッタクレもあったものではない。
「私がはじめてセイと会ったときのことを、覚えていますか?」
「もちろんです」
うなずいた。
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ゴブリンに襲われそうになっていたレフィール伯爵を、セイが救った。
「あのとき私は、真っ先に自国へ帰るという選択をとりました。伯爵である者が、国王の身よりも自国を優先した。それが国王にたいする裏切り――ということになるそうです」
言われてみれば一理あるようにも思う。
ロイラング城がモンスターに占拠されていた。そこが国王の居城であるなら、まっさきに国王の心配をしてしかるべきだ。が、レフィール伯爵は自国の民を心配した。
それはレフィール伯爵の優しさであったり、責任感ゆえだろう。上への忠誠よりも、民への思いやりを優先したからだ。
「しかし緊急時でしたし、それで処断というのは言いがかりでしょう」
そうですね――とレフィール伯爵はうなずく。
「言いがかりです。が、第一王子がそう言うのであれば仕方ありません。私は王都に向かおうと思います」
「それでは、ミリス・ローネ王子の子どもを生む――ということですか?」
レフィール伯爵は唇が白くなるほど、噛みしめていた。
我慢の限界だったのか、セキを切ったようにワッと泣きはじめた。
「仕方ないではありませんか。処断の内容には爵位および領地召し上げも入っておりました。私は父から継いだこの土地を手放すわけにはいかないのです」
泣きじゃくりながら、そう言った。
セイは納得がいかなかった。
いくら第一王子でも、そんなことが許されるはずがない。他の貴族や国王が、黙ってその横暴を許すとは思えなかった。
まだ尋ねたいことはたくさんあったのだが、フォルモルが黙ってセイの肩に手をかけてきた。
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