《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第26話~竜印~
セイは風呂に入っていた。
男性用の大浴場だ。
つい先日までは男たちも当たり前のように生活していたのだから、もちろん男湯だって存在する。
今は、セイが独占している。いや。独占している――はずだったのだ。
湯船の外にはレフィール伯爵がいる。服は着ている。だが、濡れないようにスカートを腰のあたりで結んでいた。細いながらもムッチリとした丸みのある足がさらけ出されている。風呂の湯気のせいで、普段よりもいっそう白く見える。
「なんで入ってきてるんですか。ここ男風呂ですよ」
「いろいろと話したいことがあったのです」
「別に、オレが風呂から出た後でも良いじゃないですか」
「一刻もはやく伝えたかったのです」
長いプラチナブロンドの髪は、頭上でダンゴになっている。髪をあげているおかげで、ウナジがよく見える。
「だったら念話で良いでしょう。オレとレフィール伯爵は、つながってるんですから」
「それでは、話している気になりません」
「オレ、裸なんですよ」
辛うじて湯船の縁で隠れて、セイの裸は見えないはずだ。
それでも、落ちつかない。
「良いじゃありませんか、以前は私のほうが恥ずかしい思いをしたのですから」
レフィール伯爵は目を細めて、意地悪そうな笑みを見せた。
印をナめたこと、ずいぶんと根にもっている。
「で、なんですか、用事って」
「シラティウス・チロの件。よくやってくれました。シラティウスの地下暮らしも、今日で終わりそうです」
「ええ」
と、セイは短くこたえた。
イヌの首輪をはめられて、まるで奴隷みたいにシラティウスの足の裏をナめたことは、レフィール伯爵には知られたくなかった。
「これでセイは、フィルドランタにおいて最強の騎士になったといえましょう。いっこくも早く、世界を救うための旅に出なくてはなりません」
「世界を救うだなんて、話が大きすぎて実感がつかめないですね」
自分がそんな大役を担っているという感覚もなかった。
「そんなことも言ってられませんよ。さきほどロダマリア帝国潰滅の報を受けました」
「ロダマリア帝国が?」
衝撃だった。
このフィルドランタにおいて、今もっとも勢いのあった国だ。皇帝が代替わりしたことをキッカケに、徹底した軍国主義と実力主義のもと周辺国家を蹂躙していった。このロイラング王国ともあわや戦争になるか――とウワサされていた。
「ロイラング王国は男女平等に騎士にとりたて、爵位を授与します。ですが、ロダマリア帝国は男性国家でしたから、それが災いしたのかもしれません」
「それで、全員モンスターに?」
「そうでしょうね」
「なんだか世界が滅んでしまうような勢いですね」
昨日までの常識が、すべて覆ってゆく。
怖ろしい事態になっているのだ。
ロダマリア帝国という大国の潰滅を聞いて、セイは戦慄をおぼえた。
「世界を滅ぼさないためにセイがいるのです。ロダマリア帝国にも逃げ遅れている女たちや、籠城している女たちがいるはずです」
「それを聞くとジッとしられないですね」
あやうく立ち上がるどころだった。
レフィール伯爵がいるので、湯船に浸かっているしかなかった。
「セイには3つ、自覚しておいて欲しいことがあります」
レフィール伯爵はそう言って、指を3本立てた。
「なんです?」
「1つは、男女の比率が大きく変動するということです。最悪の場合、この世界に男性はセイひとりになるかもしれません」
「ええ」
それぐらい、言われなくともわかる。
「恥ずかしい話ですが、女たちは性的に飢えることでしょう。その女たちの肉欲の目にさらされる覚悟が必要です」
「覚悟が必要ってことでもなさそうですけど。むしろ、ウェルカムですよ」
レフィール伯爵が桶で湯をすくいあげて、セイの頭にかけてきた。
「覚悟しておいてください」
「はい」
「次に注意すべきことは、間違っても女性と……その……交合しないことです」
「へ?」
「万が一、この雨のなか子供を生んでしまったら、大変な目に合います。仮に、男の子をはらんだ場合、女の腹を食いやぶって、モンスターが出てきます」
想像するだけで、おそろしい。
「しかし、英雄王ハーレムは、いろんな女性と交合したと聞いてますが」
「それは、英雄王ハーレムが世界中のモンスターを倒し、雨が止んだ後のことです」
「それは、もっと早く言っておいてくださいよ。フォルモル、キリア、シラティウスと、間違いをおかしてたかもしれじゃないですか」
訴えると、レフィール伯爵は微笑んだ。
「心配ありません。その件はちゃんと3人のメイド長にも言い含めております」
「じゃあ、オレだけ知らなかったんですか?」
なんだか酷くマヌケに思える。
「知らせるのは、あまりに酷かと思いまして。肉欲に飢えた女たちが寄ってきても、我慢する。そういう話ですよ、わかってますか?」
わかってます、わかってます――といなした。
「それで3つ目の注意点はなんですか?」
「3つ目は、仮にこの世界を無事に救い終ったときの話です」
「気の早い話ですね」
まだ着手もしていないのだ。
「それでも、セイには覚悟しておいてもらう必要があります。モンスターを倒し、この雨が降りやんだら、もう1000年は悪魔の雨が降ることはないはずです」
「安泰ですね」
「ですので、そのときセイには、小作りに励んでもらう必要があります」
「は?」
「男がセイしかいなくなったら、そうなるでしょう」
レフィール伯爵は顔を赤くしたまま、そう言った。
「そう――なりますかね」
「かつての英雄王ハーレムがそうしたように、世界中の女と交合してもらいますので、そのことを弁えておいてください」
「まるで人柱ですね」
苦笑が漏れた。
女性から求められるのはありがたいが、世界中の女と子づくりしろというのは、体力が持つかどうかわからない。世界を救うよりも、そっちのほうが大変そうだ。
男性用の大浴場だ。
つい先日までは男たちも当たり前のように生活していたのだから、もちろん男湯だって存在する。
今は、セイが独占している。いや。独占している――はずだったのだ。
湯船の外にはレフィール伯爵がいる。服は着ている。だが、濡れないようにスカートを腰のあたりで結んでいた。細いながらもムッチリとした丸みのある足がさらけ出されている。風呂の湯気のせいで、普段よりもいっそう白く見える。
「なんで入ってきてるんですか。ここ男風呂ですよ」
「いろいろと話したいことがあったのです」
「別に、オレが風呂から出た後でも良いじゃないですか」
「一刻もはやく伝えたかったのです」
長いプラチナブロンドの髪は、頭上でダンゴになっている。髪をあげているおかげで、ウナジがよく見える。
「だったら念話で良いでしょう。オレとレフィール伯爵は、つながってるんですから」
「それでは、話している気になりません」
「オレ、裸なんですよ」
辛うじて湯船の縁で隠れて、セイの裸は見えないはずだ。
それでも、落ちつかない。
「良いじゃありませんか、以前は私のほうが恥ずかしい思いをしたのですから」
レフィール伯爵は目を細めて、意地悪そうな笑みを見せた。
印をナめたこと、ずいぶんと根にもっている。
「で、なんですか、用事って」
「シラティウス・チロの件。よくやってくれました。シラティウスの地下暮らしも、今日で終わりそうです」
「ええ」
と、セイは短くこたえた。
イヌの首輪をはめられて、まるで奴隷みたいにシラティウスの足の裏をナめたことは、レフィール伯爵には知られたくなかった。
「これでセイは、フィルドランタにおいて最強の騎士になったといえましょう。いっこくも早く、世界を救うための旅に出なくてはなりません」
「世界を救うだなんて、話が大きすぎて実感がつかめないですね」
自分がそんな大役を担っているという感覚もなかった。
「そんなことも言ってられませんよ。さきほどロダマリア帝国潰滅の報を受けました」
「ロダマリア帝国が?」
衝撃だった。
このフィルドランタにおいて、今もっとも勢いのあった国だ。皇帝が代替わりしたことをキッカケに、徹底した軍国主義と実力主義のもと周辺国家を蹂躙していった。このロイラング王国ともあわや戦争になるか――とウワサされていた。
「ロイラング王国は男女平等に騎士にとりたて、爵位を授与します。ですが、ロダマリア帝国は男性国家でしたから、それが災いしたのかもしれません」
「それで、全員モンスターに?」
「そうでしょうね」
「なんだか世界が滅んでしまうような勢いですね」
昨日までの常識が、すべて覆ってゆく。
怖ろしい事態になっているのだ。
ロダマリア帝国という大国の潰滅を聞いて、セイは戦慄をおぼえた。
「世界を滅ぼさないためにセイがいるのです。ロダマリア帝国にも逃げ遅れている女たちや、籠城している女たちがいるはずです」
「それを聞くとジッとしられないですね」
あやうく立ち上がるどころだった。
レフィール伯爵がいるので、湯船に浸かっているしかなかった。
「セイには3つ、自覚しておいて欲しいことがあります」
レフィール伯爵はそう言って、指を3本立てた。
「なんです?」
「1つは、男女の比率が大きく変動するということです。最悪の場合、この世界に男性はセイひとりになるかもしれません」
「ええ」
それぐらい、言われなくともわかる。
「恥ずかしい話ですが、女たちは性的に飢えることでしょう。その女たちの肉欲の目にさらされる覚悟が必要です」
「覚悟が必要ってことでもなさそうですけど。むしろ、ウェルカムですよ」
レフィール伯爵が桶で湯をすくいあげて、セイの頭にかけてきた。
「覚悟しておいてください」
「はい」
「次に注意すべきことは、間違っても女性と……その……交合しないことです」
「へ?」
「万が一、この雨のなか子供を生んでしまったら、大変な目に合います。仮に、男の子をはらんだ場合、女の腹を食いやぶって、モンスターが出てきます」
想像するだけで、おそろしい。
「しかし、英雄王ハーレムは、いろんな女性と交合したと聞いてますが」
「それは、英雄王ハーレムが世界中のモンスターを倒し、雨が止んだ後のことです」
「それは、もっと早く言っておいてくださいよ。フォルモル、キリア、シラティウスと、間違いをおかしてたかもしれじゃないですか」
訴えると、レフィール伯爵は微笑んだ。
「心配ありません。その件はちゃんと3人のメイド長にも言い含めております」
「じゃあ、オレだけ知らなかったんですか?」
なんだか酷くマヌケに思える。
「知らせるのは、あまりに酷かと思いまして。肉欲に飢えた女たちが寄ってきても、我慢する。そういう話ですよ、わかってますか?」
わかってます、わかってます――といなした。
「それで3つ目の注意点はなんですか?」
「3つ目は、仮にこの世界を無事に救い終ったときの話です」
「気の早い話ですね」
まだ着手もしていないのだ。
「それでも、セイには覚悟しておいてもらう必要があります。モンスターを倒し、この雨が降りやんだら、もう1000年は悪魔の雨が降ることはないはずです」
「安泰ですね」
「ですので、そのときセイには、小作りに励んでもらう必要があります」
「は?」
「男がセイしかいなくなったら、そうなるでしょう」
レフィール伯爵は顔を赤くしたまま、そう言った。
「そう――なりますかね」
「かつての英雄王ハーレムがそうしたように、世界中の女と交合してもらいますので、そのことを弁えておいてください」
「まるで人柱ですね」
苦笑が漏れた。
女性から求められるのはありがたいが、世界中の女と子づくりしろというのは、体力が持つかどうかわからない。世界を救うよりも、そっちのほうが大変そうだ。
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