《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第22話~シラティウスⅡ~
じゃあ印は諦めるんで、さようなら――というわけにもいかない。セイは鉄檻の前に座り込んでいた。シラティウスのほうも何も言わない。つまらなさそうに土壁に絵を描いていた。
容貌はまるで子供だ。あどけない表情をしている。白い髪と白銀の瞳が、そんな少女にスピリチュアルな雰囲気を与えていた。
神聖な雰囲気を感じるのは、ドラゴンになるという先入観のせいかもしれない。
「ドラゴンになるから、捕まってるってのはわかるけど、なにもこんな暗闇じゃなくても良いんじゃないか?」
「暗くはないカンテラがある」
シラティウスはカンテラを指差した。
「いや、そういう問題じゃなくてな。別にほかの部屋でも良いじゃないか――って思うんだが」
「ドラゴンになったら、窓とか割っちゃうかもしれない。ここならドラゴンになっても、被害はないから」
「そりゃそうかもしれないけど」
シラティウスが周囲を見回したので、セイも同じく目を巡らせた。土壁になっており、床は石が敷かれている。おそらく、もともとは地下牢として機能すべき部屋なのだろう。
「それにずっと閉じこもってるわけじゃない。必要なときはちゃんと外に出る」
「たしかに、昨日は助けに来てくれたもんな」
長いあいだ、ここにお世話になっているような気がする。だが昨日の朝に来たばかりなのだ。そして昼から夜にかけてフォルモルの印をもらい、今日の午前中はキリアの印をもらった。
「でも極力、このチカラは使いたくない。いつ制御できなくなるかわからない」
シラティウスはそう言うと、みずからのカラダを抱きしめるようにしていた。小さなカラダだ。
「珍しい魔法だよな。ドラゴンになる――だなんて」
「私のママはドラゴンだから」
「は?」
「パパは誰か知らないけど、私はドラゴンに育てられた」
「マジで?」
「ウソじゃない」
疑ったことで気分を害したのか、シラティウスは口先をとがらせた。桜色の唇がキュッとすぼめられていた。はじめて見せる表情だ。
なんだちゃんと表情が変わるんじゃないか、とすこし安心した。
「けど、ドラゴンがいるだなんて聞いたことないぜ」
「珍しいとは思う」
「世界は広いもんだなぁ」
セイも世界を練り歩いたことがあるわけではない。見知らぬ生物がいても不思議ではないのだが、まさかドラゴンが実在していたとは思わなかった。
「ずっと、ずーっと北のほうだから、知らなくてもムリはないけど」
「そうか、北方出身なのか?」
シラティウスは顔をあげて、セイの目を見つめると「うん」とうなずいた。
(なるほどな)
と、合点がいった。
白銀の瞳や白い髪は、このあたりはあまり見ない。レフィール伯爵と同じぐらい白い肌は、北方の寒さを連想させるものがあった。
「寒いんだろ、北は?」
「ずっと雪が降ってる」
「聞いてるだけで、寒くなってきたぜ」
「ん」
と、鉄格子ごしに毛布をわたしてきた。
地下牢につながれているとはいっても、ベッドや便所などの設備は整っている。カンテラも誰かが逐一変えに来ているはずだ。毛布もシラティウスのことを思って用意されたのだろう。
「大丈夫。別に良いよ。ありがとう」
「そう」
「それで、そんな北国からどうして、こんな場所まで来たんだ?」
世界情勢を見ると、このロイラング王国はかなりの大国に入るはずだ。が、北方からわざわざ遊びに来るような場所とも思えない。
「北方には、ドラゴンハンターと言われる人たちがいる。私のママはドラゴンハンターに殺された」
「ドラゴンを狩る者――ってことか」
「そう」
北方の事情はよくわからないのに下手なことは言えない。だが、ドラゴンだなんて獰猛な生物がいるならば、それを討伐しようとする人間がいても、オカシクはない。
「私のママは殺されて、私は捕まった。そして旅芸人に売り飛ばされた。そして、このあたりまで流れてきた」
旅芸人は王都の城下町にもたまに来ていた。ピエロがジャグリングをしたり、獣を躍らせたりして、民衆の拍手を浴びていた記憶がある。
「それで、レフィール伯爵のところに来たわけか?」
「私は人ではなく、獣として扱われていた。そこをレフィーさまが救ってくださった。そして今、私はレフィーさまのメイドとして雇ってもらっている。そのことに恩を感じている。迷惑はかけたくない」
だから、ここにいる――という話に帰結するわけだ。
容貌はまるで子供だ。あどけない表情をしている。白い髪と白銀の瞳が、そんな少女にスピリチュアルな雰囲気を与えていた。
神聖な雰囲気を感じるのは、ドラゴンになるという先入観のせいかもしれない。
「ドラゴンになるから、捕まってるってのはわかるけど、なにもこんな暗闇じゃなくても良いんじゃないか?」
「暗くはないカンテラがある」
シラティウスはカンテラを指差した。
「いや、そういう問題じゃなくてな。別にほかの部屋でも良いじゃないか――って思うんだが」
「ドラゴンになったら、窓とか割っちゃうかもしれない。ここならドラゴンになっても、被害はないから」
「そりゃそうかもしれないけど」
シラティウスが周囲を見回したので、セイも同じく目を巡らせた。土壁になっており、床は石が敷かれている。おそらく、もともとは地下牢として機能すべき部屋なのだろう。
「それにずっと閉じこもってるわけじゃない。必要なときはちゃんと外に出る」
「たしかに、昨日は助けに来てくれたもんな」
長いあいだ、ここにお世話になっているような気がする。だが昨日の朝に来たばかりなのだ。そして昼から夜にかけてフォルモルの印をもらい、今日の午前中はキリアの印をもらった。
「でも極力、このチカラは使いたくない。いつ制御できなくなるかわからない」
シラティウスはそう言うと、みずからのカラダを抱きしめるようにしていた。小さなカラダだ。
「珍しい魔法だよな。ドラゴンになる――だなんて」
「私のママはドラゴンだから」
「は?」
「パパは誰か知らないけど、私はドラゴンに育てられた」
「マジで?」
「ウソじゃない」
疑ったことで気分を害したのか、シラティウスは口先をとがらせた。桜色の唇がキュッとすぼめられていた。はじめて見せる表情だ。
なんだちゃんと表情が変わるんじゃないか、とすこし安心した。
「けど、ドラゴンがいるだなんて聞いたことないぜ」
「珍しいとは思う」
「世界は広いもんだなぁ」
セイも世界を練り歩いたことがあるわけではない。見知らぬ生物がいても不思議ではないのだが、まさかドラゴンが実在していたとは思わなかった。
「ずっと、ずーっと北のほうだから、知らなくてもムリはないけど」
「そうか、北方出身なのか?」
シラティウスは顔をあげて、セイの目を見つめると「うん」とうなずいた。
(なるほどな)
と、合点がいった。
白銀の瞳や白い髪は、このあたりはあまり見ない。レフィール伯爵と同じぐらい白い肌は、北方の寒さを連想させるものがあった。
「寒いんだろ、北は?」
「ずっと雪が降ってる」
「聞いてるだけで、寒くなってきたぜ」
「ん」
と、鉄格子ごしに毛布をわたしてきた。
地下牢につながれているとはいっても、ベッドや便所などの設備は整っている。カンテラも誰かが逐一変えに来ているはずだ。毛布もシラティウスのことを思って用意されたのだろう。
「大丈夫。別に良いよ。ありがとう」
「そう」
「それで、そんな北国からどうして、こんな場所まで来たんだ?」
世界情勢を見ると、このロイラング王国はかなりの大国に入るはずだ。が、北方からわざわざ遊びに来るような場所とも思えない。
「北方には、ドラゴンハンターと言われる人たちがいる。私のママはドラゴンハンターに殺された」
「ドラゴンを狩る者――ってことか」
「そう」
北方の事情はよくわからないのに下手なことは言えない。だが、ドラゴンだなんて獰猛な生物がいるならば、それを討伐しようとする人間がいても、オカシクはない。
「私のママは殺されて、私は捕まった。そして旅芸人に売り飛ばされた。そして、このあたりまで流れてきた」
旅芸人は王都の城下町にもたまに来ていた。ピエロがジャグリングをしたり、獣を躍らせたりして、民衆の拍手を浴びていた記憶がある。
「それで、レフィール伯爵のところに来たわけか?」
「私は人ではなく、獣として扱われていた。そこをレフィーさまが救ってくださった。そして今、私はレフィーさまのメイドとして雇ってもらっている。そのことに恩を感じている。迷惑はかけたくない」
だから、ここにいる――という話に帰結するわけだ。
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