《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第6話~街道~
雨が降りやむ様子はなかった。
セイはレフィール伯爵に傘をさしていた。
都市を出たところに厩舎があった。都市を出入りする者たちの馬がつなぎ止められている。木の杭につながれた馬ばかりいて、人の姿はなかった。キャリッジもいくつか置かれていた。
「あのキャリッジは、私が乗ってきたものです」
と、レフィール伯爵はそのうちの1台を指差した。
「しかし、御者がいないことには、運転できません」
「困りましたね」
と、レフィール伯爵はアゴに人さし指を当てて、首をかしげた。艶やかなプラチナブロンドの髪が揺れる。
同じ傘に入っているので、距離が近い。レフィール伯爵からは甘い匂いがしていた。ときおり丸みを帯びた肩が、セイの腕に当たった。その感触をセイは楽しんでいた。
「1匹、馬を拝借していきましょう」
と、セイは提案した。
レフィール伯爵の領土は、キュリンジと言われる土地だとのことだ。セイも聞いたことがあるが、歩いていける距離ではない。どうしても馬は必要になる。
「そうですね」
「ところでレフィール伯爵は、どうして王都に参られたのですか?」
セイは1匹の馬に、鞍などをつけながら尋ねた。
「婚約を断りに来ていたのです」
「そう言えば、ミリス・ローネ王子と婚約していたんでしたか?」
あらためてレフィール伯爵の容貌を見た。
ホントウに整った顔立ちをしている。
この女を自分の女にしたい、と権力のある者なら思うことだろう。
「いいえ。していません。婚約などした覚えはないのに、あたかも婚約したかのような話を振りまいているので、丁重にお断りしに来たのです」
「そうでしたか」
なぜかすこし安心した。
そのミリス・ローネ王子もこの雨で、どうなったか定かでない。いっそのことモンスターになっていれば良いのに、と暗い嫉妬を抱いた。
「あまり人に言えることではありませんが、会わずに済んでホッとしております」
こんな事態に、婚約の話など進められはしないだろう。
馬の準備がととのった。
「馬の経験は?」
「多少……。ですが、自信はありません。セイはどうなのですか?」
「こう見えてもいちおうは、騎士ですから。オレの背中につかまっていてください。ただ、馬に乗るとなると結局、濡れてしまいますが」
傘をさしながらは、さすがに難しい。
「仕方ありませんね。わかりました。お願いします」
2人は馬にまたがった。
セイが馬の胴を強くはさみこむと、馬は走り出した。セイの背中にはレフィール伯爵の乳房があたっていた。やわらかく潰れている感触があった。
「湯冷めしてしまうんじゃないですか?」
「汚れだけでも落とせたので、良しとします」
「そうですか」
馬は、上下に揺れる。
背中に当たってる乳房も振動にあわせて揺れていた。何か話をしていないと、気まずくてしょうがない。
雨でカラダが冷えるどころか、セイは熱を感じていた。
「それにしてもこの馬、良い馬ですね」
「そうですか?」
「振動がとても少ないですから、もしかして乗っている者のことを気遣っているのかもしれませんよ」
「そんなことあるのですか?」
「さあ」
疾駆していないというのもあるが、馬上でも難なくしゃべることができた。
走った。
しばらく街道を走っていた。森を切り開いて敷いた街道で、左右が木々にはさまれていた。そんな街道でモンスターたちと遭遇した。
虐殺が行われたらしかった。女たちの死体が転がっていた。男がモンスターになっているということは、襲われるのはもっぱら女性ということになる。モンスターたちは、腕やら足をもてあそんでいた。
雨に血がにじんだのか、地面が赤くなっていた。
「なんて、ムゴイ」
と、レフィール伯爵がつぶやいた。
「引き返します」
胸くその悪い光景だった。
ここを馬で突っ切るのは難しい。道を変えようと馬を翻したのだが、来た道にもモンスターが沸きだしていた。前と後ろと挟まれるカッコウになった。
一度、馬から降りた。
「どうしましょうか」
と、レフィール伯爵がセイにしがみついてきた。
「オレがモンスターたちを惹きつけますので、その間にレフィール伯爵は逃げてください」
「なにをバカなことを言っているのです」
「オレはついさきほど、城勤めをクビになった一兵卒ですから安い命です」
貴族の女を守って死ねるのなら、むしろ本望だ。
そう思ったのだが――。
「いいえ。私が囮になります。そのあいだにセイはここを抜けて、キュリンジまで行ってください」
「は?」
それでは主従関係がチグハグだ。
「忘れてはいけません。セイは〝英雄印〟を持っているのです。こんなところで死んで良いはずがありません」
〝英雄印〟を持っているから、なんだというのか。悪魔の雨に降られても、モンスターにならずに済むゆいいつの男ではある。しかし、そこにたいして価値を見出すことは、セイにはできなかった。
「まさか、子孫繁栄のためとか、そういうことですか?」
男が生き残れば、子種は残せる。
レフィール伯爵は頬を赤らめた。
「それもありますが、〝英雄印〟を最大限に活かすことで、この危機を脱することができるのです」
「はぁ。しかし――」
ゴブリンが突っ込んでくる。
セイはあわてて槍を構えた。身を低く構えて、穂を突き出す。穂先がゴブリンのノドもとを突き破った。騎士団長には軽くあしらわれたが、この程度のザコなら、セイにも相手ができる。
「こんなところでセイに死なれては、私の〝念話印〟を与えた意味もなくなります。死ぬほど恥ずかしい思いをしたのにッ」
「ヘソだったんでしょう?」
「そうですけど……」
ゴブリンが2匹突っ込んでくる。1匹目を石突きで突きとばして、2匹目の腹に穂先を突き刺した。モンスターたちの緑色の血が吹き上がる。
「なんだかすごく甘かったですよ」
「バカッ。そんな話を蒸し返す必要はないのです。とにかく〝英雄印〟を持つセイを、ここで失うわけにはいきません」
「危ないッ」
5匹のゴブリンが疾走してきた。黒く長い爪を鋭く伸ばしていた。あやうくレフィール伯爵に刺さるところだった。セイはレフィール伯爵のカラダを突きとばした。かわりに爪がセイのワキバラに刺さった。
「ぐっ……」
熱い痛みが走った。
「セイッ」
レフィール伯爵は叫ぶように、名を呼んだ。
「心配ありません」
槍でゴブリンを突き飛ばした。
しかし、このままではジリ貧だ。馬もすっかりおびえてしまっているようで、身をすくめている。
セイはレフィール伯爵に傘をさしていた。
都市を出たところに厩舎があった。都市を出入りする者たちの馬がつなぎ止められている。木の杭につながれた馬ばかりいて、人の姿はなかった。キャリッジもいくつか置かれていた。
「あのキャリッジは、私が乗ってきたものです」
と、レフィール伯爵はそのうちの1台を指差した。
「しかし、御者がいないことには、運転できません」
「困りましたね」
と、レフィール伯爵はアゴに人さし指を当てて、首をかしげた。艶やかなプラチナブロンドの髪が揺れる。
同じ傘に入っているので、距離が近い。レフィール伯爵からは甘い匂いがしていた。ときおり丸みを帯びた肩が、セイの腕に当たった。その感触をセイは楽しんでいた。
「1匹、馬を拝借していきましょう」
と、セイは提案した。
レフィール伯爵の領土は、キュリンジと言われる土地だとのことだ。セイも聞いたことがあるが、歩いていける距離ではない。どうしても馬は必要になる。
「そうですね」
「ところでレフィール伯爵は、どうして王都に参られたのですか?」
セイは1匹の馬に、鞍などをつけながら尋ねた。
「婚約を断りに来ていたのです」
「そう言えば、ミリス・ローネ王子と婚約していたんでしたか?」
あらためてレフィール伯爵の容貌を見た。
ホントウに整った顔立ちをしている。
この女を自分の女にしたい、と権力のある者なら思うことだろう。
「いいえ。していません。婚約などした覚えはないのに、あたかも婚約したかのような話を振りまいているので、丁重にお断りしに来たのです」
「そうでしたか」
なぜかすこし安心した。
そのミリス・ローネ王子もこの雨で、どうなったか定かでない。いっそのことモンスターになっていれば良いのに、と暗い嫉妬を抱いた。
「あまり人に言えることではありませんが、会わずに済んでホッとしております」
こんな事態に、婚約の話など進められはしないだろう。
馬の準備がととのった。
「馬の経験は?」
「多少……。ですが、自信はありません。セイはどうなのですか?」
「こう見えてもいちおうは、騎士ですから。オレの背中につかまっていてください。ただ、馬に乗るとなると結局、濡れてしまいますが」
傘をさしながらは、さすがに難しい。
「仕方ありませんね。わかりました。お願いします」
2人は馬にまたがった。
セイが馬の胴を強くはさみこむと、馬は走り出した。セイの背中にはレフィール伯爵の乳房があたっていた。やわらかく潰れている感触があった。
「湯冷めしてしまうんじゃないですか?」
「汚れだけでも落とせたので、良しとします」
「そうですか」
馬は、上下に揺れる。
背中に当たってる乳房も振動にあわせて揺れていた。何か話をしていないと、気まずくてしょうがない。
雨でカラダが冷えるどころか、セイは熱を感じていた。
「それにしてもこの馬、良い馬ですね」
「そうですか?」
「振動がとても少ないですから、もしかして乗っている者のことを気遣っているのかもしれませんよ」
「そんなことあるのですか?」
「さあ」
疾駆していないというのもあるが、馬上でも難なくしゃべることができた。
走った。
しばらく街道を走っていた。森を切り開いて敷いた街道で、左右が木々にはさまれていた。そんな街道でモンスターたちと遭遇した。
虐殺が行われたらしかった。女たちの死体が転がっていた。男がモンスターになっているということは、襲われるのはもっぱら女性ということになる。モンスターたちは、腕やら足をもてあそんでいた。
雨に血がにじんだのか、地面が赤くなっていた。
「なんて、ムゴイ」
と、レフィール伯爵がつぶやいた。
「引き返します」
胸くその悪い光景だった。
ここを馬で突っ切るのは難しい。道を変えようと馬を翻したのだが、来た道にもモンスターが沸きだしていた。前と後ろと挟まれるカッコウになった。
一度、馬から降りた。
「どうしましょうか」
と、レフィール伯爵がセイにしがみついてきた。
「オレがモンスターたちを惹きつけますので、その間にレフィール伯爵は逃げてください」
「なにをバカなことを言っているのです」
「オレはついさきほど、城勤めをクビになった一兵卒ですから安い命です」
貴族の女を守って死ねるのなら、むしろ本望だ。
そう思ったのだが――。
「いいえ。私が囮になります。そのあいだにセイはここを抜けて、キュリンジまで行ってください」
「は?」
それでは主従関係がチグハグだ。
「忘れてはいけません。セイは〝英雄印〟を持っているのです。こんなところで死んで良いはずがありません」
〝英雄印〟を持っているから、なんだというのか。悪魔の雨に降られても、モンスターにならずに済むゆいいつの男ではある。しかし、そこにたいして価値を見出すことは、セイにはできなかった。
「まさか、子孫繁栄のためとか、そういうことですか?」
男が生き残れば、子種は残せる。
レフィール伯爵は頬を赤らめた。
「それもありますが、〝英雄印〟を最大限に活かすことで、この危機を脱することができるのです」
「はぁ。しかし――」
ゴブリンが突っ込んでくる。
セイはあわてて槍を構えた。身を低く構えて、穂を突き出す。穂先がゴブリンのノドもとを突き破った。騎士団長には軽くあしらわれたが、この程度のザコなら、セイにも相手ができる。
「こんなところでセイに死なれては、私の〝念話印〟を与えた意味もなくなります。死ぬほど恥ずかしい思いをしたのにッ」
「ヘソだったんでしょう?」
「そうですけど……」
ゴブリンが2匹突っ込んでくる。1匹目を石突きで突きとばして、2匹目の腹に穂先を突き刺した。モンスターたちの緑色の血が吹き上がる。
「なんだかすごく甘かったですよ」
「バカッ。そんな話を蒸し返す必要はないのです。とにかく〝英雄印〟を持つセイを、ここで失うわけにはいきません」
「危ないッ」
5匹のゴブリンが疾走してきた。黒く長い爪を鋭く伸ばしていた。あやうくレフィール伯爵に刺さるところだった。セイはレフィール伯爵のカラダを突きとばした。かわりに爪がセイのワキバラに刺さった。
「ぐっ……」
熱い痛みが走った。
「セイッ」
レフィール伯爵は叫ぶように、名を呼んだ。
「心配ありません」
槍でゴブリンを突き飛ばした。
しかし、このままではジリ貧だ。馬もすっかりおびえてしまっているようで、身をすくめている。
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