《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする

執筆用bot E-021番 

第4話~英雄印~

 ロイラング城下町――宿屋。



 急ぎ引き返すとは言ったが、レフィール伯爵はお風呂に入りたいと言い出した。たしかに服が透けてしまって、大変な姿になっている。なにより泥や血による汚れが酷かった。


 レフィール伯爵がケガをしたわけではない。付き人の血を浴びたのだ。



 城下町の宿にはいった。城下町もパニックに陥っていた。無人の宿屋を勝手に使わせてもらうことにしただけだ。



「お店の人たちは、どうしたのでしょうか?」
 レフィール伯爵は、あたりを見回した。



「モンスターになったか、あるいは、城のほうに行ったのかもしれません」
 有事の際には、誰もが城へ向かうはずだ。



「なんだか押し入り強盗のようで、申し訳ありませんね」



「こんな事態ですから、仕方ありません。お風呂に行ってきてください。その間に、着替える服を探してきますので」



「お願いします」



「でも、あまり期待しないでくださいよ。華美なドレスなんかは用意できないですからね」



 言うと、むくれた。



「そんなにワガママなことは言いません」
「冗談ですよ」



「置いてかないでくださいね」
 レフィール伯爵は心細そうにそう言い残すと、風呂に行った。



 セイはそのあいだに服を探すことにした。見つかったのは地味な色合いのブリオーだった。庶民のよく着るものだ。持主はいない。宿屋に人がいないので、勝手に持ち去ることになる。



(まるで火事場泥棒だな)
 いちおう銅貨をその場に残しておいた。



「キシャァァァッ」
 獰猛な声が聞こえた。



 セイは咄嗟に身を隠した。声はどうやら表通りのほうからのようだ。宿屋のロビーには、いくつものテーブルが置かれている。巨木を輪切りにしたようなテーブルだ。壁際には窓がついている。その窓から外の様子をうかがうことにした。



 ちょうど、石畳の表通りを確認することができた。



 モンスターの姿が確認できた。スライムが10匹。ゴブリンが5匹。ミノタウロスが1匹視認できた。



 どれもフィルドランタに伝わる神話に登場するモンスターたちだった。



「ちっ」



 どんどんモンスターが増えているように感ぜられた。こんな時に、風呂に行きたいだなんてヤッパリ伯爵の娘は言うことが違う。なるべく音をたてないように、風呂場へ向かった。



 木造になっている。板張りの通路があり、丸太で組上げたような壁がある。その先に風呂場がある。



 男風呂と女風呂の区分けがされている。
 その手前で、レフィール伯爵が出てくるのを待っていた。



「セイ。入ってきてくださいな」
 と、レフィール伯爵の声が、脱衣場のほうから飛んできた。



「は? しかし、ここは女風呂ですので」
「誰もいませんので、大丈夫です」
「わかりました」



 言われた通り、中に踏み込んだ。



 伯爵の命令とはいえ、女風呂に入るとなると緊張があった。脱衣所。木の枝で組上げたカゴがいくつも置かれていた。



 レフィール伯爵は、バスタオルをカラダに巻きつけていた。バスタオルで絞めつけられて、乳肉がはみだしている。細いながらも丸みを帯びたフトモモも露出している。肌は白いが温まったせいか、桃色に火照っていた。



 目のやり場に困る。



「どうぞ、着替えを持ってきましたよ。すぐに着替えてください。目に毒ですので」



「毒だなんて。まぁ」
「言葉のあやです」



「わかっております」
 レフィール伯爵は口元に手を当てて、クスクスと笑ってみせた。



「それより着替えを」
 ブリオーを差しだした。



 しかし、レフィール伯爵はブリオーではなくて、セイの腕をつかんだ。



「セイ。あなたは〝英雄印〟のホントウのチカラを知ってますか?」



「え? なんですか、急に」



「私の調べでは、〝英雄印〟というのは、他人の印に押し当てることで、その印のチカラを習得することが出来るのだそうですよ」



「そう――なんですか」
 初耳だ。



 そんなこと、試したこともない。セイの〝英雄印〟は舌に刻まれているのだ。そんな部位を他人に押し当てるようなことをした経験もない。



「私は神話をよく調べるのです」
「しかし、それが何か?」



 レフィール伯爵が1歩、セイに歩み寄ってきた。



 鎖骨がくっきりと浮かび上がっていた。丸い肩もあらわになっている。貴族の肌であり、貴族の半裸だった。



 思わずセイは持ってきたブリオーを落としてしまった。



「私は、顔の知っている相手にメッセージを送る魔法が使えます。〝念話印〟と言います。こちからから一方的にメッセージを送ることしかできませんが」



「それで?」



「私の印に、〝英雄印〟を押し当ててください。言いたいこと、わかりますね?」



「わ、わかりますが……」



 レフィール伯爵の言わんとしていることは理解できた。セイも〝念話印〟のチカラを使えば、レフィール伯爵といつでも連絡が可能になるということだ。



 しかし、
 それはつまり――。



「ナめろと言うことになりますが」
〝英雄印〟を押し当てるということは、そういうことだ。



 言うと、レフィール伯爵は顔を赤らめた。決して、湯上りだから――というわけではないだろう。



「非常事態です。私が許可します」
 心臓が激しい鼓動を打っていた。



「それは承諾しかねます。伯爵さまの肌をナめろというのは、さすがに恐れ多いです」



 場合が場合なら、打ち首ものだ。



 しかし、ナめてみたいという気持ちもなくはない。いや、むしろ魅力的な提案でもあった。



「私だって恥ずかしくて死にそうです。しかし、外の様子を見たはずです。神話により語り継がれる悪魔の雨が降り注いでいるのです。〝英雄印〟のチカラを最大限に活かす必要があります」



 レフィール伯爵の言葉には、筋が通っていた。



〝英雄印〟ウンヌンはともかく、互いに連絡を取れるのは便利だ。



「わかりました。ホントウに良いんですね?」
「はい」
「レフィール伯爵の印は、どこに?」



「私がセイの顔を誘導しますので、目を閉じていてください。決して目を開けてはいけませんよ」



 レフィール伯爵の顔はもはや桃色を通り越して、真っ赤に火照っていた。

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