《完結》男が絶滅していく世界で、英雄は女の子たちをペロペロする
第2話~伯爵~
引き続き、騎士たちの採点が行われた。もう解雇だって決まってるんだから、こんなの見る必要ないのになぁ――とセイはボンヤリと思っていた。
せめて、自分と同じぐらいの醜態をさらしてくれるヤツはいないかと、同類を探す気持ちだったのだが、あいにくセイほどミジメな結果に終わる者はいなかった。
「これにて、武術テストを終了する。解雇が決まった者には、後日、解雇通知がいくことになる」
「はッ」
騎士たちが、セイのほうをイチベツするのがわかった。
解雇されたのは、オレだけじゃないだろ――と文句を言いたかった。
「解雇された者のなかで、城内に私物を置いている者がいるなら、それを持って城から出て行くこと」
解散ッ――と騎士団長が怒鳴った。
騎士たちがゾロゾロと散って行く。
ほかの騎士から何か言われる前に、セイは早々に練兵場から立ち去った。
内郭から出ると跳ね橋がある。橋をわたると穀物庫があった。穀物庫のとなりに生い茂っている低木に、着ていたチェインメイルを脱ぎ捨ててやった。どうせ最後だ――という投げやりな気持ちだった。
「あらあら、ヤケになってはいけませんよ」
声をかけられた。
ギョッとした。
まさか、見られていると思わなかったのだ。
「い、いや、これは手が滑っただけで」
振り返る。
白いドレスをまとった女性がいた。
さきほど騎士団長に木刀の切っ先を突き付けられたときよりも、強い衝撃を受けた。あまりに美しい女性がいたからだ。
プラチナブロンドの髪をしており、前髪はキレイに切りそろえてある。後ろは長く伸ばしており、風を受けて奔放に揺れていた。
黒々としたマツゲに縁どられて、クッキリとした二重まぶたをしている。大人びた目つきをしているが、鋭さはなく、むしろ愛嬌さえ感ぜられる。
鼻は高くないが、それが逆に可憐さを際立たせていた。幼女のように華奢なカラダからは、乳房が豊かに張り出されていた。
御付きのメイドがまだ雨も降っていないのに、傘をさしだしていた。付き人がいるということは、爵位を持ったオエライサンか、その家系の者だろうとわかった。
とっさに片膝を地につけた。
「これは失礼しました」
「いいえ。お気になさらず。顔をおあげください」
「しかし、そういうわけには――」
「私が良いと言っているのです。かしずく必要もありません」
女性はすこし強めの語調でそう言った。
「それでは失礼して」
立つ。
しかしセイが立ち上がると、女性のことを見下ろすようなカッコウになった。女性のほうは無頓着だった。
「私は、レフィール・リストリーナと申します。去年の暮の父が亡くなってからは、伯爵の爵位を継がせていただきました」
レフィール伯爵はスカートのスソをつまみあげて、会釈してきた。
「これは、伯爵さまでしたか」
ここロイラング王国では、爵位は個人ではなくて、家で継ぐものになっている。
「あなたのことは伺っておりますよ。セイ」
「オレのことですか?」
別に他人の耳に入るような活躍をした覚えはない。城門棟の見張りで野犬を追い払ったとか、騎士団長の脚甲をピカピカに磨き上げた――など、自慢できることと言えば、それぐらいだ。
「〝英雄印〟を持ってるとか?」
上目使いをおくって、そう問いかけてきた。
そのコハク色の瞳に見つめられるだけで、赤面をおぼえた。
「偶然ですよ。それに、あんまり良い印ではありません」
人にはそれぞれ持って生まれた「印」というものがある。カラダのどこかしらにある相だ。
印によって使える魔法が変わったりする。炎を発することのできる印であったり、水を生み出せる印があったりする。いわゆる、魔法だ。
「そんなことを言うものではありません。〝英雄印〟はこの世界を救い、創造した者の印ですよ」
レフィール伯爵は口先をとがらせて、そう言った。
かつてこのフィルドランタという世界には、悪魔の雨、という雨がふりそそいだ。そして、男性がすべてモンスターになったという歴史がある。すべてのモンスターを倒して、子孫を繁栄させたと言われているのが、英雄王ハーレムだ。
「一方で、変態印とか、絶倫印とか、スケベ印とか言われてますけどね」
セイはあえておどけてそう述べた。
英雄王ハーレムは、女しかいない世界で、ひたすら交合をくりかえして、子孫を繁栄させたのだ――と言われている。
スケベ印というのは、そこから由来されている。もっとも、英雄王ハーレムの話は、大昔の話であり、フィルドランタでは神話として語られている類のものだ。史実なのかどうかも定かではない。
「スケベ印なんて。……まぁ」
と、レフィール伯爵は口元に手を当てて、真白の肌を桜色に染めていた。いかにも気品ある貴族の娘といった仕草だな、とセイは思った。
「あ、いや、そう言われているというだけですけどね」
あわてて言いつくろった。
だが実際、この印をあざけるものは多い。
特に魔法は使えないし、恩恵を受けたような記憶はない。
「見せてくださいな」
ピョコンとトびはねて、迫ってきた。風をはらんだスカートがふくらんだ。
「はぁ。見せろと言われましても。伯爵さまにお見せするようなものでは……」
「あら? 見せていただけないのですか?」
頬をふくらまして見せた。
コロコロと表情の変わる明るい人柄のようだ。無邪気というのかもしれない。
「オレの印は、口の中にあるので」
「それではお口を開けてくださいな」
あーん、とレフィール伯爵がうながしてきた。
戸惑いつつも、口を開けた。
舌を突き出す。
セイの印は、舌に刻まれているのだ。
「まぁ。キレイな六芒星ですね」
レフィール伯爵は、セイの口の中を覗きこんだ。レフィール伯爵の甘い吐息が、セイの鼻先をかすめた。これが貴族の娘の匂いか――とセイは陶然とする思いだった。
一方で、自分の口臭がにおわないか酷く心配だった。レフィール伯爵は目を輝かして、覗きこんでいた。
このコハク色の清らかな瞳に、自分の口の中が映されているのだと思うと動悸を感じずにはいられなかった。
「もういいですか?」
「これは失礼しました」
と、レフィール伯爵は身を退いた。
美しい印です、とレフィール伯爵はつぶやいた。
「えぇ……。ホントウに」
と、セイもボンヤリと同調した。
レフィール伯爵は〝英雄印〟を見て言ったのだろう。だが、セイはレフィール伯爵のけがれなき処女雪のような肌を見てつぶやいたのだった。
せめて、自分と同じぐらいの醜態をさらしてくれるヤツはいないかと、同類を探す気持ちだったのだが、あいにくセイほどミジメな結果に終わる者はいなかった。
「これにて、武術テストを終了する。解雇が決まった者には、後日、解雇通知がいくことになる」
「はッ」
騎士たちが、セイのほうをイチベツするのがわかった。
解雇されたのは、オレだけじゃないだろ――と文句を言いたかった。
「解雇された者のなかで、城内に私物を置いている者がいるなら、それを持って城から出て行くこと」
解散ッ――と騎士団長が怒鳴った。
騎士たちがゾロゾロと散って行く。
ほかの騎士から何か言われる前に、セイは早々に練兵場から立ち去った。
内郭から出ると跳ね橋がある。橋をわたると穀物庫があった。穀物庫のとなりに生い茂っている低木に、着ていたチェインメイルを脱ぎ捨ててやった。どうせ最後だ――という投げやりな気持ちだった。
「あらあら、ヤケになってはいけませんよ」
声をかけられた。
ギョッとした。
まさか、見られていると思わなかったのだ。
「い、いや、これは手が滑っただけで」
振り返る。
白いドレスをまとった女性がいた。
さきほど騎士団長に木刀の切っ先を突き付けられたときよりも、強い衝撃を受けた。あまりに美しい女性がいたからだ。
プラチナブロンドの髪をしており、前髪はキレイに切りそろえてある。後ろは長く伸ばしており、風を受けて奔放に揺れていた。
黒々としたマツゲに縁どられて、クッキリとした二重まぶたをしている。大人びた目つきをしているが、鋭さはなく、むしろ愛嬌さえ感ぜられる。
鼻は高くないが、それが逆に可憐さを際立たせていた。幼女のように華奢なカラダからは、乳房が豊かに張り出されていた。
御付きのメイドがまだ雨も降っていないのに、傘をさしだしていた。付き人がいるということは、爵位を持ったオエライサンか、その家系の者だろうとわかった。
とっさに片膝を地につけた。
「これは失礼しました」
「いいえ。お気になさらず。顔をおあげください」
「しかし、そういうわけには――」
「私が良いと言っているのです。かしずく必要もありません」
女性はすこし強めの語調でそう言った。
「それでは失礼して」
立つ。
しかしセイが立ち上がると、女性のことを見下ろすようなカッコウになった。女性のほうは無頓着だった。
「私は、レフィール・リストリーナと申します。去年の暮の父が亡くなってからは、伯爵の爵位を継がせていただきました」
レフィール伯爵はスカートのスソをつまみあげて、会釈してきた。
「これは、伯爵さまでしたか」
ここロイラング王国では、爵位は個人ではなくて、家で継ぐものになっている。
「あなたのことは伺っておりますよ。セイ」
「オレのことですか?」
別に他人の耳に入るような活躍をした覚えはない。城門棟の見張りで野犬を追い払ったとか、騎士団長の脚甲をピカピカに磨き上げた――など、自慢できることと言えば、それぐらいだ。
「〝英雄印〟を持ってるとか?」
上目使いをおくって、そう問いかけてきた。
そのコハク色の瞳に見つめられるだけで、赤面をおぼえた。
「偶然ですよ。それに、あんまり良い印ではありません」
人にはそれぞれ持って生まれた「印」というものがある。カラダのどこかしらにある相だ。
印によって使える魔法が変わったりする。炎を発することのできる印であったり、水を生み出せる印があったりする。いわゆる、魔法だ。
「そんなことを言うものではありません。〝英雄印〟はこの世界を救い、創造した者の印ですよ」
レフィール伯爵は口先をとがらせて、そう言った。
かつてこのフィルドランタという世界には、悪魔の雨、という雨がふりそそいだ。そして、男性がすべてモンスターになったという歴史がある。すべてのモンスターを倒して、子孫を繁栄させたと言われているのが、英雄王ハーレムだ。
「一方で、変態印とか、絶倫印とか、スケベ印とか言われてますけどね」
セイはあえておどけてそう述べた。
英雄王ハーレムは、女しかいない世界で、ひたすら交合をくりかえして、子孫を繁栄させたのだ――と言われている。
スケベ印というのは、そこから由来されている。もっとも、英雄王ハーレムの話は、大昔の話であり、フィルドランタでは神話として語られている類のものだ。史実なのかどうかも定かではない。
「スケベ印なんて。……まぁ」
と、レフィール伯爵は口元に手を当てて、真白の肌を桜色に染めていた。いかにも気品ある貴族の娘といった仕草だな、とセイは思った。
「あ、いや、そう言われているというだけですけどね」
あわてて言いつくろった。
だが実際、この印をあざけるものは多い。
特に魔法は使えないし、恩恵を受けたような記憶はない。
「見せてくださいな」
ピョコンとトびはねて、迫ってきた。風をはらんだスカートがふくらんだ。
「はぁ。見せろと言われましても。伯爵さまにお見せするようなものでは……」
「あら? 見せていただけないのですか?」
頬をふくらまして見せた。
コロコロと表情の変わる明るい人柄のようだ。無邪気というのかもしれない。
「オレの印は、口の中にあるので」
「それではお口を開けてくださいな」
あーん、とレフィール伯爵がうながしてきた。
戸惑いつつも、口を開けた。
舌を突き出す。
セイの印は、舌に刻まれているのだ。
「まぁ。キレイな六芒星ですね」
レフィール伯爵は、セイの口の中を覗きこんだ。レフィール伯爵の甘い吐息が、セイの鼻先をかすめた。これが貴族の娘の匂いか――とセイは陶然とする思いだった。
一方で、自分の口臭がにおわないか酷く心配だった。レフィール伯爵は目を輝かして、覗きこんでいた。
このコハク色の清らかな瞳に、自分の口の中が映されているのだと思うと動悸を感じずにはいられなかった。
「もういいですか?」
「これは失礼しました」
と、レフィール伯爵は身を退いた。
美しい印です、とレフィール伯爵はつぶやいた。
「えぇ……。ホントウに」
と、セイもボンヤリと同調した。
レフィール伯爵は〝英雄印〟を見て言ったのだろう。だが、セイはレフィール伯爵のけがれなき処女雪のような肌を見てつぶやいたのだった。
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