ISERAS イセラス
三章 3.失恋のキューピッド
俺達のたどり着いた’’キラ’’という星は、まさに極寒の地だった。
母星であるエンティクロン(エント)と同じく’’オーヴァン’’系でありながら何故ここまで寒いのか。その疑問をジェイドに聞いた。
そもそも、この国(ハイランズ)には『夜』はあっても『昼』というものがないのだという。
通常、恒星の周りを回る惑星は、北極圏や南極圏等でない限り、公転速度と自転速度のズレにより、昼と夜が訪れる。
しかし、この星は見事にそのふたつの速度が一致している。
「ここはどちらかと言えば’’夜’’ってことだよな」
「’’夜’’、夜か…、その響きも懐かしいくらいじゃな…」
かんたんに言うと、半球昼で半球夜。ところによっては常に昼だったり夜だったりするということだ。
それで、今ここは夜の分類に入る。
「暖かい光ってなんだこれ?……火とは違うよね」
俺は謎の照明(橙色に光る)に手を翳しながらジェイドにそう聞いてみる。
「んん、そうじゃな…。話によると、’’RAID’’が提供する化学製品を応用したものらしい」
RAID? RAIDってなんだ? 多分初めて聞く単語だけど。地名とかかな?
凄く気になる。
「そのRAIDって言うのは…」
「レクル…ジェイドのお喋りが爆発する前に黙って……と言うか死ぬ?」
「ヴゥヴゥ」
文脈が飛躍し過ぎて辛い。
てか俺がそんな簡単に死ぬとでも思ってるのか? 主人公だぞ主人公。 最早言い返す気力も無いんですけど。
畜生!なんで何も言い返せないんだ!?
「まぁ、そこまで悩ましい目をするなレクル。『死ねやら殺す』なんぞ皆冗談で使っとるんじゃ」
冗談じゃないんだよ?こいつの本気の目を見てみろ!分かるから見て欲しい!
俺は常に油断でないんだよ!
さっきから微笑ましい雰囲気で話してるけども、その時間ですらも俺は死と隣り合わせなんだよ。
「それにしても変わったのぉセラ。前はもっと内気なイメージじゃったが」
「そうそれ思った!。ジェイドと話す時だけこいつすごい楽しそ…ぐぶぅ」
「スリーパーホールド(暗殺拳Ver)」
いででででぐるぢぃぃぃぃ……
死ぬ、死んじゃう。
腕をタップしても離してくれないことに俺は一人絶望する。
やっぱりこいつわかんねぇ…。
「それで、どこに連れてってくれるんだ?これ」
地味に俺も気になっていた素朴な疑問を口の開けない俺に代わってゼータが質問してくれる。
と言うか俺のこの状況はどうでもいいのか?
「疲れているじゃろうしな、特別に宿を提供してやろうと思う」
それは助かる! と言いたいところだけど…
「宿か…」
そこに泊まるお金があるかと言われれば微妙な所だ。
なんならクソ安いボロ屋でも慣れているから俺は構わないが…。
そうなると代わりにこいつらの疲れが十分にとれなかったり、居心地を悪くするかもしれない。どう言うべきか。
「ぐるぢぢ…ぢぃぃ」
言うことすら出来なかったわ。
そう言えば、結局RAIDって何だったんだろう。
首を閉められながらそんな事やこんな事を真剣に考えていた。
宿(ホテル)に着くと、ジェイドはフードを外して、受付人と話し始める。
A型看板を見る限りでははるが、案の定の高級ホテルだな、ここは。
だって名前が『グロリアスリゾート』。
明らかに俺たちみたいな貧民が行く所ではない。
「か…帰ろうぜレクル…」
一体ゼータは何処へ帰るというのだろうか。
「ジェイド…俺達お金払えないんだけど…」
と情けない一言。
「じゃろうな、通貨が違う」
え、そういう話?
心配していたのは金銭不足の事なんだけど…。
だが言われてみればそうだ。、別の星に来てるのだから。 
言語も違えば流石に通貨も違うよね。
「レクルー、売店見にいかねぇか?」
「あ、いいね。喉乾いてたんだよ…」
まぁ別の星だから、何とかなるか。
’’別の星だから’’というパワーワードを生み出した俺は、ゼータに手招きされ客室棟とは反対の売店へと向かう。
「ジェイドの話聞いてた筈なのに、何を買おうとしてるのかな…あの二人」
呆れ顔なセラの背後からジェイドが優しく肩を叩く。
「やっと二人きりになれたの、セラ。色々と説明して貰おうぞ…」
「…話聞いてる?ジェイド」
さて、思い違いならどれだけ良いと思った事か。
ここまで来てしまったら、もう逃れることは出来ない。
「ひとつ聞いてもいい?ゼータ」
「お、やっと通貨が違う事に気が付いたか?」
「違う」
いや違わないけど、
俺は飲み物を買おうとしてたから、あながち間違いではないけれども。
てかゼータは何を買おうとしてたの!?俺を騙そうとでもしてたの!?
いやいや、俺が言いたいのはそうじゃ無くて…
「ゼータって、…あいつの事好きになってるよね…多分」
「はぁ!? あぁ、あいつってだれの事だ?てかそれ以前に好きじゃねーし」
「そうか?」
うわー…こいつ絶対好きだわ。
正直これ以外の反応するとも思わなかったけど、逆に色々新鮮。
そしてどこの誰かもわからない’’あいつ’’は理不尽に嫌われてる(哀れみ)
「惚けるなよ」
ジェイドと話す、受付前に居るセラを窓越しに指をさす。
「セラの事だよ、…上手く言えないけど、なんか意識してるみたいな感じあるよ?」
「まじか…」
どうやら俺の勘は当たっていた様だ。
一体あいつのどこがいいんだか…(顔以外の)。顔で選んでる可能性もあるけど。
気の強い女性が好みなのか?此奴は。
確かに多少のMっ気は感じるんだけど…。
いやいや、面倒な事になる前に言っておくべきだ。
少々気は重いが、確りと伝えよう。
真剣にゼータの目を見る。
「まさかとは思うけど告白とかは……」
「するに決まってるだろ、いつかは分からないけど」
ゼータは確かにそう言った。 
親友相手なのに、中々言いたい事が口から出なかった。
「…ゼータ…それは…なんというか……」
何と言うかなんだ…、どう言えばいい?
だが、ようやく出た頃には…
「ごめんけど、…それはやめた方が…」
「どうしたんじゃ? あぁ、飲み物か。
ならば客室の冷蔵庫に有るから、それを好きに飲んでくれれば良い」
もう遅かった。
偶然か必然か、俺の話を区切るかのようにジェイドとセラが売店に入ってくる。
「あ、うん。ありがとう、ジェイド…」
「だったら早く部屋に行こうぜ」
その後しばらく考えた。
何で俺はゼータの告白に異を唱えたのだろうか…。
俺、まさかセラを?いやまさかそんなはずは…。
って違う、そうじゃないだろ、落ち着こう。
親友が恋をしていて、告白したいと言っている。
そう言われれば、親友としてそれを手伝うのが道理なのだが…。
如何せん相手が悪すぎる。
殺人鬼の彼女を持って尚、親友と慕うのはあまりにも危険度が過ぎて仕方がないからな。
「ん?」
肌がピリピリする感覚を覚えた。
「ヴゥヴゥ!」
「…またイライラする……レクル…?」
セラは人の思考を読むのか?
特殊とは言えフェアコンのくせに。これは鋭すぎやしないか?
あとサカキやギドウも中々に鋭い。
「なんでもないです……」
ため息をつく。
そんなこんなで時は流れ。
客室のベッドはフカフカで心地良いが、落ち着かない眠れぬ夜の一時を過ごす。
「イサラス…か…」
胸の奥に異物が混じりこんでいるのをふと感じて、胸元に手を当ててみる。
俺がもっと強ければ、あいつを守ってあげられたのか。それともただ俺が油断していただけなのか。
またイサラスに逢えるのだろうか。
俺は絶対王者と呼ばれた男だ、油断せずに真っ向から闘えば負けることは無いはず…。
「眠れない…」
外の風が恋しくなり、ベッドから足を下ろして立ち上がる。
謎の暖房(照明)はあるが、それでも異様にに冷えるので上着は欠かせない。
外は予想外にも賑わっていて、この階からでも下から民衆の光と共に微かな話し声も聞こえる。
「あ」
バルコニーの縁で夜空を見上げる少女が居ることに、ふと気がついた。
散々な思い出しかないこいつだが、ここは近付いて話すべきだろう。
何となく隣へ寄り、フェンスに手をかけてみる。
「殺されに来たの…?」
セラ・ミュール。
一応助力人であり、俺を殺そうとする敵でもある。
こいつとは、まず普通の人間として接触する事は出来ないだろう。
今はまだ…。
「例の件のなんだけど」
「……」
迷うな俺。例の件って言うのはイサラスの事だ…。
間違っても、決してゼータのことでは無い。
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