俺だけがスキルポイントを振れる世界に感謝を

ソライユ

出会い

異世界の家に住む二人の親子。二人仲良く食卓を囲んでいる。


 テーブルの上には今日の晩御飯であろう、異世界の料理が並んでいる。


「そう言えば母さんは明日からお出かけの日だよね」


 少年が思い出したかのように母に問いかける。


「ええ、三日後には戻ってくると思うからお留守番よろしくね。イダ君のお母さんにも言ってあるから大丈夫とは思うけど」


「分かったよ。盗賊に襲われないように気を付けてね」


「ええ、大丈夫よ。囚われたりでもしたら直ぐにあの人が世界中を探し回って見つけてくれるから」


「はは、父さんなら本当にやってのけそうだから凄いよ」



      ☆



 次の日、俺は頭の痛さから目が覚める。


「ううっ」


 人生で経験したことの無い痛みに悶絶する。


 布団から出て水を飲もうとするが、頭の痛さからか倒れかけてしまう。


「なんだこの頭の痛さは……尋常じゃねえ」


 あれ? 俺こんな言葉遣いしてたか?


 突然シャノアとは違う男性の記憶が頭の中によみがえる。情報の多さに混乱しそうになるが堪える。


「あれ……俺は一体……」


 俺の頭の中には今のシャノアの記憶と、前世の忍の記憶が交差していた。


「記憶が戻った?」



   ☆




 頭の痛みが引いてきたんで、ある程度情報を整理する。


 まず、俺の名前はシャノア。歳は今年で十二歳になる。


 あとリファイア王国のリュベック村という所で暮らしている。


 母と二人暮らしをしているが、父親が死んだとかではなくて、単身赴任で王都で働いているらしい。詳しく何をやっているのかは聞いたことは無い。


 それで、俺は前世で死んでこの世界に転生したことになるか。それで剣と魔法の世界に転生したと。


 ミルさんも記憶が戻るなんて言ってなかったけど…… 


 もしかして記憶ごと転生したのか? 


 それが俺の頭にはあったけど記憶を思い出すのに十二年かかったと。


「それにしても十二歳になって記憶を取り戻すとは……」


 どうせなら生まれた時から記憶を思い出していれば良かったけどな。


 まあ、十二歳で思い出せたのも運が良いだろう。


「幸いにも今日はお母さんがいないから助かったな」


 お母さんは隣町まで畑仕事で収穫した穀物を売りに行っている。隣町って言っても片道一日もかからない程の近さだ。


 お父さんは王都のギルドで働いているらしいが詳細は聞いていない。家には一年に数回くる程度だ。忙しいのだろう。


「とりあえず神様がランダムで付けた能力が気になるんだが」


 でもどうやって確認するか聞いてないし、どうすることも出来ないかな。


 そもそも聞いたところで記憶が無くなっているはずなんだから知るすべが無いんだけど。


 そもそも俺はこの世界でうまくやっていけるのだろうか。


 この世界の大雑把なことは分かるけど、それは十二歳の子供が知っている範囲だ。大人にならないと分からない事も山ほどあるだろう。


 剣の振り方とかもまともに練習したことも無いし、魔物が存在しているのは知っているが本物を見たことは一度も無い。


 まぁ、まだ十二歳だしな。人生これからだろう。


 そうとわかれば早速修行だな。剣を握るのは早いほうがいいだろう。確かイダの家にあったはずだ。





   ☆





 早速イダの家に向かう。イダの家は俺の家のすぐ近くに住んでいて、毎日遊んでいる一番の親友みたいなもんだ。


「こんにちわー、イダ君いますかー」


 ドアが開いてイダが出てくると思ったがお母さんが出てきた。


 この時間なら家にいると思ったんだが。



「あら、こんにちわ。イダはエドガーさんの所にいると思うわよ」



「エドガーおじさんの所ですか」


 あのおじさんの所ってことは何か頼まれたのかな? ちょっと気になるな。


「わかりました、ありがとうございました」


 イダの家から五分ほど行った場所にエドガーおじさんの家はある。


 エドガーおじさんの家には大量の本が保管されていて、俺も何度か行ったことがあるが日本語じゃなかったからちゃんと読めなかった。


 因みにこの世界の言葉は日本語で統一されているが、紙に書かれる文字などはアウル語といった言語で書かれている。


 俺もまだ完璧には覚えていない。あとエドガーおじさんの家には本がたくさんあるって言ったが、この世界には紙があまり出回ってないから結構高い。


 しかもそのおじさん元近衛兵だったらしくかなり強い。


 因みに年齢は五十代ぐらいだろうか。


 普通にそこら辺のモンスターなら瞬殺だろう。家の本も盗まれた事がないそうだ。


「こんにちはー」


 家の前で大き目な声で叫ぶ。それに反応したのかすぐにドアが開く。


「あっ、シャノア。君も頼まれたのかい?」


 中からイダが出てくる。後ろにはエドガーおじさんもいる。


「何をだ? 俺はお前を追ってここまで来ただけだが」


「あれ? 何かいつもと口調が違うけど……」


「そうか? 前からこんな感じだったぞ」


「そうだっけ? まぁいいかな。シャノアも手伝ってくれよ」


「そうだな、人手が増えるのは助かる。上がってくれ、シャノア」


 エドガーおじさんに言われて家の中に入る。


 中は相変わらず本が多かった。


 いや、増えすぎじゃね? 


 一か月前に入ったときに比べて倍ぐらい増えてるんだが。


「イダには説明したがちょっと本が多くなってきて困っていてな、この機会に本を整理するのを手伝って欲しいのだが」


「それは良いけど。それより前に来た時よりも本が増えているけど……」


「ああ、ちょっと知り合いから貰ってな。格安で譲ってくれるもんだから全部貰ったらこのありさまだ」


 このおじさんは周りが見えないタイプだな。


「早速で悪いがイダはここの本を整理、シャノアは家の裏から本を運んできてくれるかな。本の場所はすぐにわかると思うから」


「「了解」」



  ☆



「あれか」


 家の裏には大量の本が積み重なっていた。ぱっと見でも百冊ぐらいある。


「まじか…… これは大変だな」


 筋トレと思えばいいか。筋力付けたいし。


 俺の人生がどうなるか分からないけど、冒険者になるなら筋力はないと話にならないだろう。魔物がうようよ存在するこの世界じゃ力がすべてだからな。


 取り合えず家の前まで運ぶか。何か運ぶものは…… あ、リヤカーがあるならこれで運ぶか。


 全然筋トレじゃ無くなってしまったが。

 早速本をリヤカーに移動させる。その最中に手を滑らせて本を地面に落としてしまった。



「おっと、やばいやばい。怒られちゃうよ」


 慌てて本を拾って汚れがついてないか確認する。幸いにして本に汚れはついていなかった。


 助かった、あのおじさん本にだけは愛着がすごいからな。


 そのまま本をリヤカーに入れようとする。


「え?」


 本を入れる手が止まる。嘘だろ? ここに存在するわけない。


「これは……」


 その本の表紙に書かれていたのはこの世界に存在するはずもない日本語で書かれていた。


 この世界の文字はアウル語なのでこの世界に日本語は存在しない。


 あるとしたら俺みたいにこの世界に記憶を持ったまま転生した日本人が書いたという可能性だが。


「タイトルは【現在停止中】か。何か意味深なタイトルだけど……」


 俺は慌てながらもそのページをめくる。


「はっ?」


 そこには白紙のページが広がっていた。本の隅々まで確認するも全て白紙だった。


 そもそもこの本は何でこんなところにあるのだろうか。


 おじさんは知り合いから貰ったって言ってたけど。気になるからさっさと終わらせておじさんに聞くか。




   ☆




「どうした、シャノア。慌てて」


 本の移動を終えて、おじさんの元に駆け寄る。


「おじさん、この本貰ってもいいか?」


 本を貰っていいか聞いてみる。この本には何かある気がする。


 おじさんは暫く考えた後こう言った。


「別に構わないけど。今日のお礼もかねて持って行っていいよ」


「おっ、気前がいい。ほかに手伝うことはあるか?」


「いや、思ったよりも簡単に終わったからね。あとは一人でやるから帰って大丈夫だよ。イダは先に帰ったと思うよ」


イダ、先に帰っちゃったのか。今は剣貸して貰うよりも手に持っている本が気になるんだけどな。


「ありがとう。そういえばこの本はおじさんの知り合いから貰ったって言ってたけど」


「ああ、王都で本屋を経営していてな。大きくなって王都に行くことがあったら寄ってみるといい」


「了解」


王都の本屋は一回は行きたいな。その前にアウル語を完璧にマスターしなきゃならないけど。


「そういえば今日はずいぶんと大人びた感じだったけど、何かあったのかい」


「そうか? 気のせいじゃないか」


「そうか、ならいいんだが。気を付けて帰れよー」



 おじさんの家を後にして自分の家に向かって歩く。


 空を見上げると真上には前世でいう太陽がぎらぎらと照り付けている。季節は夏になったばかりだ。


 やっぱ夏は暑いな。前世なら家に帰ればクーラーで涼しい生活だったけど、この世界にはクーラーなんて無いからな。


 涼しくできる魔法とかは存在すると思うけど詳しくは知らないしな。いつか取得しようかな。


 それにしてもおじさんから本を貰えたのは嬉しいな。


「とりあえずこの本には何かありそうな気がするんだが」


 そういって本をぺらぺらとめくる。すると先ほどは何も書いていなかったページに文字が書いてあることに気づいた。


 その文字は数ページにわたって続いていた。


「これは……」


「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く